155 / 158
あなたはいったい……
しおりを挟む
「いや、断る。アデルと一緒じゃないと意味がない。アデルが王宮に戻るなら俺も戻る」
ユーリがきっぱり言うと、ランディ王子が目に見えて落ち込んだ。
が、すぐに、「俺にはこれがある!」と、変色してしまった胸のマカロンを愛おしそうに撫で始めたランディ王子。
なんというか、怖いわね……。
ジリムさんは、一瞬眉間のしわを深くしたものの、ランディ王子からさっと目をそらして、私のほうをむいた。
「それでは、アデル王女様。馬車で王宮へとお戻りいただきます。ここからだと20分ほどです」
「わかりました。王太子様をお待たせしないよう、すぐに戻りましょう」
「ありがとうございます。では、私はデザートの手配をしてきます」
ジリムさんはそういうと、ケーキが並んだケースを見ながら、イリスさんにてきぱきと頼んでくれている。
と、そこへ、ひとりの若い男性が飛び込んできた。
慌てた様子で店内を見回すと、紳士に視線をぴたりとあわせた。
「あっ、先生! やっぱり、ここにいらしたんですか! 早く戻らないと、出版社の方がおみえになる時間です」
「おお!? もう、そんな時間だったか? あまりにおもしろいことが起こりすぎて、すっかり忘れてたよ」
書きかけのノートと筆記具をカバンに入れた紳士。
ん? 今、出版社って言わなかった……?
何かとても大事なことを、私、見落としてない……?
首をひねる私に紳士が、笑みを浮かべて近づいてきた。
「では、またお会いできるのを楽しみにしてますよ、アデル王女様」
「あの、あなたは一体……」
「あれ? アディー、もしかして、まだ知らなかったの? この方がリッカさんだよ。僕が来た時、ドラゴンを見ながら話していたから、てっきり、挨拶は終わってるんだと思ってたよ」
と、デュラン王子がさらっと言った。
「えええええ!? もしかして、あなたが、……というか、あなた様が、リッカ先生なんですか!?」
「はい、私がリッカです」
と、にこやかに言ったリッカ先生。
そう思って見ると、にこやかなそのお顔に光がさして見えるわ……。
「リッカ先生の大ファンを名乗っているのに、こんな近くにいて、気づかないなんて、なんて、不甲斐ないのかしら、私……。あ、私、何か失礼なこととか、おかしなこととか、しませんでしたか……!?」
動揺しすぎて、汗がふきだしてくる。
「いえ、全く。アデル王女様のおかげでドラゴンまで見られて、沢山、メモをとってしまいました」
と、優しく微笑んだリッカ先生。
リッカ先生があまりにお優しくて、神々しくて泣けてくる……。
「アデルがおかしいのはいつもだろ」
マカロンをなでながら、ランディ王子が笑っているけれど、そんなことはどうでもいい。
「リッカ先生に、初めてお会いするときは、リッカ先生の小説の好きな登場人物に似せた姿でお会いすると決めていたのに、こんな普通の恰好でお目にかかるなんて……」
がっくりする私に、リッカ先生が、またもや優しく微笑まれた。
「お気持ちは嬉しいですが、アデル王女様が私の小説の登場人物に似せる必要などないですよ。というか、アデル王女様はアデル王女様だ。だれにも似せることはできません。ドラゴンと話をしているアデル王女様は、まさに、ヒロインのようでした」
「えええ!? ヒロイン……!?」
どうしよう、顔がにやけてくるんだけど。
舞い上がった私は憧れのリッカ先生を目にやきつけようと、まじまじと凝視していると、ユーリの冷たい声が……。
「ほかの男をそんなに見るなんて、ひどいね、アデル」
「ちょっと、ユーリ! リッカ先生は男とかそういう存在じゃないの! 私にとったら、神様みたいな方なんだよ!」
私の言葉に、リッカ先生がふきだした。
「私は、書くことが好きなだけで、欠点だらけの人間ですよ。神様だなんてとんでもない。私の付き人のボリスなんて、私のダメなところを山ほど見てますから、今、猛烈に抗議の声をあげてるんじゃないかな。そうだろ、ボリス?」
茶目っ気たっぷりの口調で、若い男性のほうを見たリッカ先生。
ボリスさんと呼ばれた若い男性は、大きくうなずいた。
「今、まさに、そう思ってます! 自由すぎる先生にいつも振り回されてますからね」
よく見ると、ボリスさんは疲労感いっぱいの顔をしている。
あら、この顔、誰かに似てるわね……?
あ、そうか、ジリムさんだ!
と、思ったところで、ボリスさんが叫んだ。
「とにかく、先生! 本当にもう時間がありません! 帰りますよ!」
「わかった、わかった。じゃあ、アデル王女様、次、お会いした時は、是非、ドラゴンとのことをお聞かせください。あ、それと、あなた」
と、ユーリに視線をあわせたリッカ先生。
「アデル王女様の大切な方なのでしょう? それなら、また、お会いできますね。あなたを見ていると、創作意欲がものすごく、わいてくるんです。是非、取材させてください。ゆっくりお話ができるのを楽しみにしてますから」
そう言い終わるとすぐに、ボリスさんにひきずられるように、リッカ先生はカフェから連れ出されていった。
「アデルの好きなリッカ先生にはもう会ったから、帰国してもいいんじゃない? っていうか、アデル。なんで、僕をにらんでるの?」
と、不思議そうに言うユーリ。
「だって、だって、リッカ先生に取材を頼まれてたんだよ、ユーリ! うらやましい、ねたましい、ずるい!」
わめく私を見て、「やっぱり、アデルはばかかわいいね」と、頭をなでだしたユーリ。
もやもやしている私とは違って、なんだか、とっても楽しそうね。
※ ものすごく間があいてしまいましたが、読んでくださった方、本当にありがとうございます。
長く滞っている間にも、いいねやエールもいただき、本当に励みになりました。
このお話を別のサイトで修正しながら更新を始めたのですが、やっと追いついてきたので、こちらも再開しました。
アルファポリスさんのほうが先行しています。
ユーリがきっぱり言うと、ランディ王子が目に見えて落ち込んだ。
が、すぐに、「俺にはこれがある!」と、変色してしまった胸のマカロンを愛おしそうに撫で始めたランディ王子。
なんというか、怖いわね……。
ジリムさんは、一瞬眉間のしわを深くしたものの、ランディ王子からさっと目をそらして、私のほうをむいた。
「それでは、アデル王女様。馬車で王宮へとお戻りいただきます。ここからだと20分ほどです」
「わかりました。王太子様をお待たせしないよう、すぐに戻りましょう」
「ありがとうございます。では、私はデザートの手配をしてきます」
ジリムさんはそういうと、ケーキが並んだケースを見ながら、イリスさんにてきぱきと頼んでくれている。
と、そこへ、ひとりの若い男性が飛び込んできた。
慌てた様子で店内を見回すと、紳士に視線をぴたりとあわせた。
「あっ、先生! やっぱり、ここにいらしたんですか! 早く戻らないと、出版社の方がおみえになる時間です」
「おお!? もう、そんな時間だったか? あまりにおもしろいことが起こりすぎて、すっかり忘れてたよ」
書きかけのノートと筆記具をカバンに入れた紳士。
ん? 今、出版社って言わなかった……?
何かとても大事なことを、私、見落としてない……?
首をひねる私に紳士が、笑みを浮かべて近づいてきた。
「では、またお会いできるのを楽しみにしてますよ、アデル王女様」
「あの、あなたは一体……」
「あれ? アディー、もしかして、まだ知らなかったの? この方がリッカさんだよ。僕が来た時、ドラゴンを見ながら話していたから、てっきり、挨拶は終わってるんだと思ってたよ」
と、デュラン王子がさらっと言った。
「えええええ!? もしかして、あなたが、……というか、あなた様が、リッカ先生なんですか!?」
「はい、私がリッカです」
と、にこやかに言ったリッカ先生。
そう思って見ると、にこやかなそのお顔に光がさして見えるわ……。
「リッカ先生の大ファンを名乗っているのに、こんな近くにいて、気づかないなんて、なんて、不甲斐ないのかしら、私……。あ、私、何か失礼なこととか、おかしなこととか、しませんでしたか……!?」
動揺しすぎて、汗がふきだしてくる。
「いえ、全く。アデル王女様のおかげでドラゴンまで見られて、沢山、メモをとってしまいました」
と、優しく微笑んだリッカ先生。
リッカ先生があまりにお優しくて、神々しくて泣けてくる……。
「アデルがおかしいのはいつもだろ」
マカロンをなでながら、ランディ王子が笑っているけれど、そんなことはどうでもいい。
「リッカ先生に、初めてお会いするときは、リッカ先生の小説の好きな登場人物に似せた姿でお会いすると決めていたのに、こんな普通の恰好でお目にかかるなんて……」
がっくりする私に、リッカ先生が、またもや優しく微笑まれた。
「お気持ちは嬉しいですが、アデル王女様が私の小説の登場人物に似せる必要などないですよ。というか、アデル王女様はアデル王女様だ。だれにも似せることはできません。ドラゴンと話をしているアデル王女様は、まさに、ヒロインのようでした」
「えええ!? ヒロイン……!?」
どうしよう、顔がにやけてくるんだけど。
舞い上がった私は憧れのリッカ先生を目にやきつけようと、まじまじと凝視していると、ユーリの冷たい声が……。
「ほかの男をそんなに見るなんて、ひどいね、アデル」
「ちょっと、ユーリ! リッカ先生は男とかそういう存在じゃないの! 私にとったら、神様みたいな方なんだよ!」
私の言葉に、リッカ先生がふきだした。
「私は、書くことが好きなだけで、欠点だらけの人間ですよ。神様だなんてとんでもない。私の付き人のボリスなんて、私のダメなところを山ほど見てますから、今、猛烈に抗議の声をあげてるんじゃないかな。そうだろ、ボリス?」
茶目っ気たっぷりの口調で、若い男性のほうを見たリッカ先生。
ボリスさんと呼ばれた若い男性は、大きくうなずいた。
「今、まさに、そう思ってます! 自由すぎる先生にいつも振り回されてますからね」
よく見ると、ボリスさんは疲労感いっぱいの顔をしている。
あら、この顔、誰かに似てるわね……?
あ、そうか、ジリムさんだ!
と、思ったところで、ボリスさんが叫んだ。
「とにかく、先生! 本当にもう時間がありません! 帰りますよ!」
「わかった、わかった。じゃあ、アデル王女様、次、お会いした時は、是非、ドラゴンとのことをお聞かせください。あ、それと、あなた」
と、ユーリに視線をあわせたリッカ先生。
「アデル王女様の大切な方なのでしょう? それなら、また、お会いできますね。あなたを見ていると、創作意欲がものすごく、わいてくるんです。是非、取材させてください。ゆっくりお話ができるのを楽しみにしてますから」
そう言い終わるとすぐに、ボリスさんにひきずられるように、リッカ先生はカフェから連れ出されていった。
「アデルの好きなリッカ先生にはもう会ったから、帰国してもいいんじゃない? っていうか、アデル。なんで、僕をにらんでるの?」
と、不思議そうに言うユーリ。
「だって、だって、リッカ先生に取材を頼まれてたんだよ、ユーリ! うらやましい、ねたましい、ずるい!」
わめく私を見て、「やっぱり、アデルはばかかわいいね」と、頭をなでだしたユーリ。
もやもやしている私とは違って、なんだか、とっても楽しそうね。
※ ものすごく間があいてしまいましたが、読んでくださった方、本当にありがとうございます。
長く滞っている間にも、いいねやエールもいただき、本当に励みになりました。
このお話を別のサイトで修正しながら更新を始めたのですが、やっと追いついてきたので、こちらも再開しました。
アルファポリスさんのほうが先行しています。
28
お気に入りに追加
368
あなたにおすすめの小説
彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した
Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。
白霧雪。
恋愛
王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる