上 下
129 / 158

心の中で

しおりを挟む
「ちょっと、ごめんね、アデル」
ユーリはそう言うと、私を抱きかかえたまま、私の顔に自分の顔を近づけてきた。

「え、なに、なにしてるの…? ユーリっ?!」
私の顔にひっつく寸前の、ユーリの顔。
焦る私を見て、ブルーの瞳が妖しくきらめいている。

このままでは、色々あたる! …もしや、キ、キ、キ…?! 

と、パニックになっていたら、私の顔の横に、ユーリの顔がずれた。
ほっとしたのもつかの間、頬と頬がひっついた。

が、そこで、ユーリのひやっとした声。
「俺だ。聞こえてるだろ。至急、馬車をまわして」

「ん? …えっと、ひとりごとかしら?」

「部下に連絡かな」
そう言うと、ユーリは、私から顔を離した。

「…え? ここには、私以外いないのだけれど? まさか、私がユーリの部下? 私への命令?!」

「フッ…。そんなわけないでしょ。本当に、アデルはばかかわいいよね。…そうじゃなくて、俺の着てるシャツの袖口に、俺の魔力を入れた通信機がついてるの」

「え?! すごいわね?! …ああ、それで、私を抱えている腕に顔をよせたから、あんなに近づいたのね…。びっくりしたわ!」

「アデル、真っ赤になってるけど、何か期待した?」

いえいえ、なにも期待してません! っていうか、心臓に悪いので、やめてね?!

「フッ…。初めては、こんなところでしないから、安心して?」

妖艶に微笑むユーリ。何故か不機嫌から上機嫌になった魔王様。
安心する要素がまるでないわね…。

しかし、魔力で通信までできるとは、さすが魔王。

「ねえ、シャツの袖口についているユーリの通信機、どんなのかしら? 見せて」
興味津々で、私が聞く。

「今は、アデルを抱えてるから、馬車に乗ってから見せるね」
早足で歩きながら答えるユーリ。

「そういえば、さっき、ユーリの声だけで、部下の方からのお返事は聞こえなかったけど、ちゃんと聞こえてたのかしら?」

「うん、大丈夫。これは、ぼくからの指示用だから、向こうからはしゃべれないの」

「え?!  じゃあ、ユーリの指示だけ聞く一方通行?! 異議を唱えたい時は?!」

「ぼくの部下に、異議を唱える奴はいないよ」
当たり前のように言うユーリ。

やはり、魔王は違うわね…。

「アデル、そんなにこれが気になる? じゃあ、極上の宝石にぼくの魔力を入れて、プレゼントしようかな?」

「いえ、結構。ユーリの指示だけ聞く通信機はいりません」
あわてて断る私。

「アデルにプレゼントするなら、もちろん、アデルと話せるようにするよ? というか、ずーっと、常に、アデルの音がぼくに聞こえるようにしててもいいよね?」

…ん? それって、前世で言うところの盗聴器になるのでは?!

「いりません!! 断固受け取り拒否!」

「そんなに遠慮しなくてもいいんだよ?」

「遠慮じゃなくて、嘘偽りのない気持ちよ!」

「じゃあ、結婚してからプレゼントするね。それまでに、最高のものを魔力をこめて作っておくから、楽しみにしててね?」
甘い声で、怖いことを言う魔王。しかも、やたらと楽しそう…。

と、建物の入口にある魔力シャワーのところまでたどり着いた。

そこに立っていた女性が、驚いたように私たちを見る。
ここで働いている方かしら、名札をつけてるもの。

「来賓の方でしょうか…?」
女性がまわりを見回した後、不審そうに聞いてきた。

横抱きにされているだけでも、目をひくのに、案内しているはずのブリジットさんとか見当たらないものね。不審な状況よね?

すみません…。
今、ブルージュ国の皆さんは、氷の壁に阻まれて、こちらへ来られません。
氷が溶けるまで、10分ほど、お待ちくださいね…。
と、心の中で伝えてみる。

すると、ユーリが、きらきらした笑顔を浮かべて言った。
「私たちだけ用ができましたので、先に失礼します。他の方々は、まだ、ドラゴンの部屋でゆっくりされてますので、10分後くらいに、退出されると思います」

「あ…、はい! ご親切に教えてくださってありがとうございます!」
女性は真っ赤になって返事をしたあと、うっとりとユーリを見た。

「こちらこそ、ありがとう」
そう言って、ユーリが外面専用の美しすぎる恐ろしい笑顔で、その女性にとどめをさした。

ふらっとよろめく女性に心の中で謝る。

あの…、ちっとも、ご親切ではない魔王のせいで、皆さん足止めされてますから…。
ほんとに、ごめんなさい。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

処理中です...