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本能が告げる

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私はドラゴンに見せるように、モリスを口に入れた。
わかりやすく、かんでみせて、飲み込む。

古典的な方法だけど、このモリスが安全なことをわかってもらえたらいいなあ…。

ドラゴンの赤い目が、ぐわっと見開かれた。

あれ? 前足が震えている。立ちあがろうとふんばってるけど、立てないみたいな感じかしら。

「ねえ、ユーリ。ちょっとここにいてくれる? ここからは私だけで、近づくから」

背後にぴったりとひっついているユーリが、すぐさま、私の胴に手をまわし、ぎゅっとしがみつく。

「一緒に行く」

私は体をユーリの方に向けて言った。
「あのドラゴンをよく見て。もう立ちあがれないくらい弱ってるんだよ。危害を加えられることはないと思う。ユーリとドラゴンはやりあったから、ユーリが行くと更に警戒して、無理をさせてしまうといけないし。大丈夫。ユーリの魔力をまとってるから、たとえ火を吐かれても、傷つかないんでしょ?」

ユーリのブルーの瞳が、確認するように、ドラゴンに向けられる。

「…確かに、そうだね。あのドラゴン、立てないみたいだ。…わかった。ここにいて、ここから援護するよ。そのかわり、アデルを包むぼくの魔力を更に強化させてもらうね」

そう言うと、すばやく私を抱きしめて、顔を近づけてきた。

…え?!

と、思った瞬間、額にユーリの唇があてられた。

「…ちょ、ちょ、ちょっと、何するの!」

額を手でおさえながら、私はうわずった声をあげる。

すると、ユーリは妖し気な笑みを浮かべて、しれっと答えた。

「魔力の強化だよ。あ、足りなかった? 場所を変えれば、もっと強力にもできるよ? 例えば、こことか」
そう言って、長い人差し指を私の唇にあててきたユーリ。

色気のあふれる瞳に捕らえられ、私の体が動かなくなってくる。
まさに、絶対絶命。獲物になった気分。

…怖い! なに、この生き物! ほんと、怖いんだけど?!

「いえ、もう充分よ! じゃあ、私は行くわね!」

私は、ほてる顔を片手であおぎながら、もう片方の手で、目の前のモリスをひっつかみ、ユーリのそばから逃げ出すように、ドラゴンに向かって駆け出した。

私の本能が、長年知っているユーリより、今日、初めて見たドラゴンのほうが安全だと告げているわ!

あっという間に、ドラゴンの前にたどり着いた。

赤い目でにらみつけ、私を威嚇してくるドラゴン。
が、色気で魅了しようとする魔王と比べると、弱ったドラゴンなんて、かわいいものだ。

「はじめまして、ドラゴンさん。私はアデル。怪しいものじゃないから、安心してね。このモリスは、採りたてほやほやで新鮮よ。食べてみて」

私は、ドラゴンと私の間くらいにモリスを置いた。

ドラゴンの首が少し持ち上がった。モリスのほうへのばそうとしてるみたいだけれど、動かないみたい。
ほんとに弱ってるのね…。

これは、私が食べさせるしかないわ!
でも、敵意のないことを示しながら、もっと近寄るには、どうしたらいいかしら?

と、その時、ふと頭に浮かんだのは、前世で誰もが知っていた、あの歌!
すぐに覚えられる、親しみやすいメロディー。
敵意のないことを示すには、ぴったりじゃない?!

そうよ、あの歌を歌いながら近寄っていけば、いいのでは?!

歌詞は、ちょちょいと変えて…。

では、歌ってみましょう。
タイトルは、チューリップ、あらため、モリスよ!

「さいた さいた モリスのはなが~
おいしそう おいしそう モリ モリ たべよう
どのはな みても おいしそう~♪」

背後から、
「なんだ、あの変な歌! しかも、へったくそだな」
そう言って、ゲラゲラと笑う声が聞こえてくる。

あの声は、デリカシーのないランディ王子だ。
こんな素敵な歌なのに…。
それに、私は歌は得意なの。断じて、へたくそではないわ!
ランディ王子って、音楽に疎いのね…。

私は気にせず、更に大きな声で歌いながら、ドラゴンに近づく。
ほら、ドラゴンの目が、まるくなってきた。ものめずらしそうに、私を見ているわ。
それに、歌っていると、私も楽しくなってくる。ほんと、いい歌よね!

歌いながら、ドラゴンの顔の前まできたら、ドラゴンの口があいている。

チャンスだわ! 

「さいた~ さいた~ はい!」

歌いながら、合いの手を入れつつ、モリスの花をドラゴンの口にさっといれる。

パクッ

あ、食べてくれた! では、もう一回!

「モリスのはなが~ はい♪」

パクッ

やった! いけるわ! 

さすが、名曲チューリップ。効果は絶大だわね。
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