上 下
116 / 158

食べないの?

しおりを挟む
モリスを急いで持ち帰った私たち。
出迎えてくれたアンドレさんに連れられて、ドラゴンの部屋まで戻る。

うずくまるドラゴンと、離れたところから見守るブリジットさん。

「ドラゴンの様子はどうですか?」
私が聞くと、

「あれから、全く動きません」
ブリジットさんが心配そうな顔をした。

アンドレさんが、私たちが採ってきたモリスのつまった袋を、できる限り近くまで持っていき、地面の上にモリスをだして、すぐに離れた。

息をのんで様子をうかがう。

その時、ドラゴンがギーッという声で鳴いた。

「あ、今の鳴き声、モリスの花が見えたわ!」
イーリンさんが、すぐさま見えたものを教えてくれた。

ドラゴンは首だけをあげて、匂いをかぐように、鼻を動かしている。

ドキドキしながら見ていたが、待っても待ってもドラゴンはモリスを食べに動くことはない。

そして、また、ギーッと鳴いた。
体の奥底から振り絞るような声。聞いている方が悲しい気持ちになるような声だ。

「また、モリスの花のイメージが見えたわ!」
と、イーリンさんが言う。

あのドラゴン、モリスが食べたいのに、食べられないのかしら?

「あのドラゴンは、なんで、モリスを食べに動かないんでしょうか?」
と、ブリジットさんに尋ねる。

「傷ついているドラゴンは、警戒心がとても強くなります。食べたいんでしょうが、私たちの持ってきたモリスが信用しきれないのかもしれません」

「もう少し近くにモリスを動かしてみます」
と、アンドレさん。

「いえ、上司として、それは許可できないわ。あのドラゴンはもともと用心深いから、あれ以上近づくのは危険よ。力が弱ってるとはいえ、近づきすぎると、残った力をふりしぼって、火を吐くかもしれないし…」
と、ブリジットさん、アンドレさんを止めた。

でも、ドラゴンは明らかに弱ってきている。早くモリスを食べさせたい!

こうなったら、
「私が行きます!」
と、思わず手をあげた。

「とんでもない! アデル王女様には、尚更、そんな危険なことをさせられません」
ブリジットさんが、驚いた顔であわてて言う。

「そうだよ、アディー。危ないことはやめて」
と、デュラン王子も同調する。

「大丈夫よ、ブリジットさんにデュラン王子! 正確に言うと、私と、火消し達人のユーリが行きますから!」
私はそう言うと、隣にいたユーリの腕をとった。

「…ちょっとアデル、急に何言ってるの? しかも、火消し達人って、なにそれ。変なんだけど…」
ユーリが、あきれたように言った。

「だって、ユーリが一緒に来てくれたら、火を吐かれても絶対に消してくれるでしょ? 私、信頼してるもの。だから、お願い! 私と一緒に来て!」
腕にぶらさがるようにして、ユーリを見上げて必死に頼み込む。

ユーリの青い瞳が揺れた。
「…ずるいな、アデル。どこでそんなお願いの仕方、覚えたの? 断れないでしょ」

「ちびドラゴンなみに、あざといですね…」
ジリムさんが、ぼそっとつぶやいたが、気にしない。

「やったー! ありがと、ユーリ」

「こら、ユーリさんから離れろ!」
猛然と、ランディ王子が近づいてきた。

ん? 離れろとは? 

嬉しさでうかれてたけど、そういえば、私って、なにを持ってるのかしら?
改めて自分を見ると、…えっ?!

ユーリの腕を自分の胸にかかえるようにして、がっしりと抱きしめていた…。

私ってば、なんてことを! 恥ずかしい!

あわてて、離れようとしたら、全身をふわりと包み込まれるように、優しく抱きすくめられた。
そして、耳元から声がふきこまれる。

「アデルのほうから、積極的にきてくれるなんて嬉しいよ」

とろけるように甘い声が耳に響く。
一気に顔が熱くなり、胸のアラームが鳴り始めた。

ぞくぞくがとまらない…!

さすが、魔王。ドラゴンよりも危険よね!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

処理中です...