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イーリン王女
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案内してくれる人に続いて、晩餐会の広間をでた私たち。
そして、その人について、廊下を歩いて、ついていく。
ええと、どこまで行くのかしら?
と、思いはじめた時、案内してくれていた人が足をとめ、ふりむいた。
「ご挨拶が遅れました。わたくし、デュラン王子の専属執事のルパート・スミスと申します。
こちらのお部屋にどうぞ。あとで、デュラン王子も来ますので、それまで、イーリン様と、ごゆっくりなさってください。では、お茶のご用意をさせていただきますね」
そう言って、落ち着いた雰囲気の素敵なお部屋に通された。
イーリンさんを見ると、ふるえはとまっている。ひとまず、良かった。
「あの、ごめんなさい…。どうぞ、すわって」
と、イーリンさんが、部屋の椅子を私にすすめてくれた。
「ありがとう。…もう大丈夫?」
と、まだ、下をむいたままのイーリンさんに、私は聞いた。
「ええ…。あの、連れ出してくれて、ありがとう。それと、晩餐会、まだ終わってなかったのに、ごめんなさい。…アデル王女」
と、イーリンさんが、下をむいたまま、小さな声で言った。
気持ちが伝わってきて、キュンとくる。
「いいの、いいの。もう、すでに、お料理は、しっかりと、たいらげてたからね! それと、私のことは、アデルと呼んでね。王女らしくない王女なので、気をつかわないでしゃべってくれると、うれしいわ」
そう言うと、イーリンさんは、うなずいた。
そこへ、執事のルパートさんが、メイドさんと一緒に戻って来た。
そして、素早く、テーブルにお茶の準備を整えてくれる。
「そうだ、自己紹介してもいいかしら?」
私の言葉に、イーリンさんは、だまってうなずく。
「あのね、私は14歳。本を読むことと、甘いものが大好きなの。さっき、イーリンさんのななめ前にすわってた魔王、…いえ、金髪の男性が、私の婚約者でユーリっていうの。でもね、こっからは愚痴になってしまうけど、いい?」
イーリンさんは、だまったままうなずく。
よし、聞いてくれてるわね。
「私の婚約者のユーリはね、見た目がきらきらしてるでしょ? 私が、ユーリを最初に見た時、あんまり、きれいな少年だったから、天使かと思って喜んだの。私、天使が大好きだから。…でも、残念なことに、全然、違ってた。それどころか、天使の対極にいるというか…。それなのに、その見た目に騙された令嬢たちが、熱狂的なファンになって、パーティーとかでは、私の悪口を言うの。それも、わざと聞こえるように。私がその人たちに何かしたわけでもないのにね」
イーリンさんの頭が少し持ち上がった。そして、うなずいた。
「でね、そんな時は、パーティーが終わったら、どの本を読もうかな? って考えるの。そしたら、あの本も読みたいけど、この本も読みたい。ああ、一緒にマカロンもあったら幸せだな。みたいに、どんどん想像がひろがって、そんな雑音どうでもよくなるの。どうぞ、好きに言って、みたいなね」
イーリンさんの頭がまた少し、持ち上がった。もう少しで、顔が見えそう。
「アデルちゃん」
と、イーリンさんに呼ばれた。
あ、名前で呼んでくれた! うれしい、ドキドキ。
「うん、なに?」
「私ね、デュラン兄様ほどではないけど、魔力があるの」
「うん」
「デュラン兄様は、人の体の中が見える魔力なんだけど、私は、人が発した言葉の真意が目に見える魔力なの」
「うん? えっ?! なんか、すごいわね!」
すると、イーリンさんは、下をむいたまま、首を横にふった。
「ちっとも、すごくない。何の役にも立たないし、知りたくないことばかり、知ってしまうから。
デュラン兄様みたいに、見ようと思って見られるのならいいんだけど、私の場合は、勝手に見えるの。
どんなに見ないようにしても、止められない。
でも、さっき、晩餐会で、アデルちゃんにかけてもらった言葉は、とても、きれいな虹色をしてた。私を心から気づかってくれてることが伝わってきたの。今もだよ」
そう言って、また少し、頭が持ち上がった。
「もしかして、下をむいてるのも、見ないようにするため?」
イーリンさんは、うなずいて、言った。
「そう、数年前から急に見え始めて、怖くなったの。口では、いいことを言っていても、真っ黒な魔物がおそってくるのが見えたりするから」
えっ、それは怖い!
「でも、アデルちゃんの言葉に嘘がないことはわかったから。だから、大丈夫」
そう言って、顔をあげた。
王妃様に似た、そして、デュラン王子にも少し似ている、きれいな顔立ち。
でも、目が見えない。
というのも、前髪を目の下まで、しっかりとたらしていたからだ。
そして、その人について、廊下を歩いて、ついていく。
ええと、どこまで行くのかしら?
と、思いはじめた時、案内してくれていた人が足をとめ、ふりむいた。
「ご挨拶が遅れました。わたくし、デュラン王子の専属執事のルパート・スミスと申します。
こちらのお部屋にどうぞ。あとで、デュラン王子も来ますので、それまで、イーリン様と、ごゆっくりなさってください。では、お茶のご用意をさせていただきますね」
そう言って、落ち着いた雰囲気の素敵なお部屋に通された。
イーリンさんを見ると、ふるえはとまっている。ひとまず、良かった。
「あの、ごめんなさい…。どうぞ、すわって」
と、イーリンさんが、部屋の椅子を私にすすめてくれた。
「ありがとう。…もう大丈夫?」
と、まだ、下をむいたままのイーリンさんに、私は聞いた。
「ええ…。あの、連れ出してくれて、ありがとう。それと、晩餐会、まだ終わってなかったのに、ごめんなさい。…アデル王女」
と、イーリンさんが、下をむいたまま、小さな声で言った。
気持ちが伝わってきて、キュンとくる。
「いいの、いいの。もう、すでに、お料理は、しっかりと、たいらげてたからね! それと、私のことは、アデルと呼んでね。王女らしくない王女なので、気をつかわないでしゃべってくれると、うれしいわ」
そう言うと、イーリンさんは、うなずいた。
そこへ、執事のルパートさんが、メイドさんと一緒に戻って来た。
そして、素早く、テーブルにお茶の準備を整えてくれる。
「そうだ、自己紹介してもいいかしら?」
私の言葉に、イーリンさんは、だまってうなずく。
「あのね、私は14歳。本を読むことと、甘いものが大好きなの。さっき、イーリンさんのななめ前にすわってた魔王、…いえ、金髪の男性が、私の婚約者でユーリっていうの。でもね、こっからは愚痴になってしまうけど、いい?」
イーリンさんは、だまったままうなずく。
よし、聞いてくれてるわね。
「私の婚約者のユーリはね、見た目がきらきらしてるでしょ? 私が、ユーリを最初に見た時、あんまり、きれいな少年だったから、天使かと思って喜んだの。私、天使が大好きだから。…でも、残念なことに、全然、違ってた。それどころか、天使の対極にいるというか…。それなのに、その見た目に騙された令嬢たちが、熱狂的なファンになって、パーティーとかでは、私の悪口を言うの。それも、わざと聞こえるように。私がその人たちに何かしたわけでもないのにね」
イーリンさんの頭が少し持ち上がった。そして、うなずいた。
「でね、そんな時は、パーティーが終わったら、どの本を読もうかな? って考えるの。そしたら、あの本も読みたいけど、この本も読みたい。ああ、一緒にマカロンもあったら幸せだな。みたいに、どんどん想像がひろがって、そんな雑音どうでもよくなるの。どうぞ、好きに言って、みたいなね」
イーリンさんの頭がまた少し、持ち上がった。もう少しで、顔が見えそう。
「アデルちゃん」
と、イーリンさんに呼ばれた。
あ、名前で呼んでくれた! うれしい、ドキドキ。
「うん、なに?」
「私ね、デュラン兄様ほどではないけど、魔力があるの」
「うん」
「デュラン兄様は、人の体の中が見える魔力なんだけど、私は、人が発した言葉の真意が目に見える魔力なの」
「うん? えっ?! なんか、すごいわね!」
すると、イーリンさんは、下をむいたまま、首を横にふった。
「ちっとも、すごくない。何の役にも立たないし、知りたくないことばかり、知ってしまうから。
デュラン兄様みたいに、見ようと思って見られるのならいいんだけど、私の場合は、勝手に見えるの。
どんなに見ないようにしても、止められない。
でも、さっき、晩餐会で、アデルちゃんにかけてもらった言葉は、とても、きれいな虹色をしてた。私を心から気づかってくれてることが伝わってきたの。今もだよ」
そう言って、また少し、頭が持ち上がった。
「もしかして、下をむいてるのも、見ないようにするため?」
イーリンさんは、うなずいて、言った。
「そう、数年前から急に見え始めて、怖くなったの。口では、いいことを言っていても、真っ黒な魔物がおそってくるのが見えたりするから」
えっ、それは怖い!
「でも、アデルちゃんの言葉に嘘がないことはわかったから。だから、大丈夫」
そう言って、顔をあげた。
王妃様に似た、そして、デュラン王子にも少し似ている、きれいな顔立ち。
でも、目が見えない。
というのも、前髪を目の下まで、しっかりとたらしていたからだ。
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