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馬車の中

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やっと、馬車に乗って出発!

私とアンが横に並んで座り、私の向かいにユーリが座った。
3人乗っても、ゆったりすぎるほど、広々とした馬車なので、スペース的にはらくちん。
が、心情的には、きつきつだ…。

ちなみに、さっき、ルイ兄様が、ユーリにつきつけたみっつめの選択肢で、ロイドをあげたけれど、ロイドは遠方に出張させられているらしい。

というのも、騎士団長のラルフさんの決めた、私の護衛候補者に、自分と変わるよう圧をかけるためだ。
ユーリなの?!

なので、ロイドじゃないとダメな用事を無理矢理作って、出張に行かせたとのこと。

そのかわり、帰りは、国境沿いまで、ロイドが私を迎えに来るらしい。

「他国の人に見られなければ、大丈夫なので…」
と、ラルフさんが疲れ切った顔で報告してくれた。

ロイドって、持ち出し禁止なのね…。

と、出発間際のあれこれを思い出しながら、意識を馬車の外へとばしていると、隣からただならぬ気配が…。

見ると、アンが、なにやら覚悟を決めた顔をしている。

「どうしたの? アン?」
と、私が聞くと、

「王太子様の命を無事やり遂げるため、先手必勝、先制攻撃、まずは釘をさす…」
と、ぶつぶつ言ったかと思うと、ユーリを見据えた。

そして、
「アデル様に危険が及ばない限り、私は空気として、控えております。道中、お気づかいなく」
と、ユーリにむかって言った。ちょっと、声がふるえてるよ…。

ユーリは、
「ぼくが、そばにいるのに、アデルに危険なんてあるわけないよ。安心して? なんなら、アンは、到着するまで、ずっと眠っててもいいからね? 準備で大変だったんでしょ」
と、不敵な笑みを浮かべた。

アンの顔に緊張が走る。

なんだろう。一見、お互いを気づかったような会話なのに、この緊張感…。
私の頭の中には、笑いながら追い詰める魔王と、ふるえながらも、立ち向かう人間がうかんでくる。

よくわからないけれど、大丈夫よ、アン! 私が守るから!

私は、ユーリとアンの間に身をのりだすと、ユーリにぴしりと言った。
「アンは、私の姉みたいなものなの。いじめたら、許さないからね!」

これで、どうだ! 子どもっぽいセリフになってしまったけど、言わないよりはまし!

すると、ユーリは、身をのりだした私にむかって、身をのりだしてきた。

こらっ、近い、近い、近い! そんなに近づいてこないで!!

あせって、両手で、ユーリを押し戻そうとする。
が、びくともしない。それどころか、手首をつかまれた。

しまった! 捕獲された!

焦る私を見て、ユーリは艶やかに笑った。

「ひどいなあ。ぼく、いじめたりしないよ?」

こら、どの口が言う?!

「ぼくがいじめるのは、アデルだけだから。良かったね」

は? ちっとも良くないんですが?! 

隣のアンからは、更に緊張した空気がながれてくる。

なんとか逃げようとする私を、おもしろそうに見ながら、手首を持ったまま、じわじわっと間をつめてくるユーリ。

アンがふるえる声で、
「そこまでです、ユーリ様っ! 王太子様から、お二人の間は、15センチ以上あけるようにと言われております!」
と、叫んだ。

…ルイ兄様の変な命令を、ふるえながら叫ぶアン。

魔王にむかってすごいよ、アン! ナイスファイトだわ!
今度は、私が頑張る番ね。見ててね、アン!

魔王には、弱みを見せたらダメ。絶対。

ということで、
「ユーリ、手をはなしなさい! でないと、私が逆にユーリを捕獲するわよ!」
目力を最大にして、宣言した。

「へえ、おもしろそ。やってみてよ」
と、魔王が、つかんでいた私の両手首をパッとはなした。

みてなさい!
私は、さっとユーリの両手首をつかむ。
ほら、どうだ。
私も捕獲できるのよ!

と、自慢げにユーリを見ると、ん? 今や、目の前に、ユーリの美しい顔のドアップが!
ますます近づいてるじゃない!

「ぼくが、アデルに捕まってるんだから、近づきすぎても仕方ないよねえ」
と、ククッと楽しそうに笑うユーリ。

アンが、かわいそうな子を見る目で私を見ながら、
「アデル様、その両手をはなしてください」
と、小声で注意してきた。あわてて手をはなす。

「ほんと、無防備だよね、アデルは…。今から行く所も虫がわいてくるだろうから、気をつけてよ、アデル」
と、ユーリが私の顔の近くで言う。

「ユーリは、やたらと虫を気にするけど、大丈夫だよ。一応、虫よけも持ってきてるし。ね、アン」
と、アンを見ると、なんともいえない表情で、私を見ている。

「ばか…かわいいけど、ぼくの苦労がわかるでしょ? アン」
ユーリがそう言うと、アンが無言でうなずいた。

あれ? いつの間に、二人はわかりあってるの?
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