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新たに案内係となった師匠。

「じゃあ、おれのいる下町はどうだ? 見たことないだろう? あ、高貴な方々だと、俺だけじゃあ、護衛がたりんか?」

「それなら大丈夫よ。ロイドがぬかりなく手配しているから」
精鋭の騎士たちが、少し離れたところで見守っているのが見える。

何度も言うようだけれど、ロイドは、誰よりも信頼できる騎士だ。
ただ、私に過保護すぎて、ちょっと…というか、かなり変になるだけ。

「まあ、そこの男前の王子さんも、自分の身は守れそうだしな。かなり、やれるんだろう?」
そう言うと、デュラン王子の全身を確かめるように見た。

「一応はね。アデルはぼくが守るよ。安心して」
と、甘いウインクをしてきた。

見とれていた女性が、思わずよろめく。

さすが、魔王。そのウインクなら敵を倒せるわね! すごい威力だもの。

「じゃあ、俺はマル坊を守るとするか。いいか、マル坊?」

マルクは嬉しそうにうなずいた。すっかり、懐いているわ。
甘いもの好きの連帯感がすごいわね。

早速、市場をでて、細い路地を入っていく。
道は、くねくねと曲がっていて、迷路みたい。迷子になったら、帰れないわね…。

そこで、エプロンをして、人の良さそうな女の人とすれ違う。

「あれ、師匠。派手な人たちを連れてるね。脅してつれてきたのかい?」

「いやあ、どっちかっていうと、俺のほうが捕まったかな?」

「何言ってんだい。師匠を捕まえてもいいことないだろう」
そう言うと、私たちにむかって、

「気をつけなね。お金、だましとられないようにね」
と、ケラケラ笑いながら、立ち去って行った。

えー?! もしや、師匠って、危険人物なの?!
私、危ない人に、案内係を頼んでしまったの?!

思わず、後ずさりすると、
「冗談にきまってんだろ。ロイ坊の師匠だぞ。あのくそ真面目が、そんな奴を信用するか?」
師匠があきれた顔をした。

ああ、確かにね。びっくりしたわ!

やっと細い道をぬけたら、広場にでた。小さなお店がひしめきあっていて、にぎやかだ。

そこへ、猛スピードで走ってくる男の子が見えた。

一体、どうしたのかしら?

すごいスピードのまま、こっちへむかってくる。え、私のほうへ走ってきてるの?!
このままだとぶつかりそう、と気持ちはあせるのに、どっちへよけていいかわからない!

体が動かない! ぶつかるー! と思ったら、さっと体が浮いた。

デュラン王子が私を持ち上げて、横へよけてくれた。
同時に、師匠は一歩前へでて、その男の子を受けとめている。

ああー、びっくりしたわ!
私、こう見えて、運動神経は皆無なの…。

「ありがとう…。デュラン王子」

「いえいえ、アディーのことは、ぼくが守るって言ったでしょ」

「その呼び方、復活するの?」

「ここは下町だから、デューさんって呼んで。うるさいのもいないしね」

うるさいのって、…ロイドか。
確かに、ここで、デュラン王子って呼んだら、まわりの人たちがびっくりするよね。

「わかったわ、デューさん。助けてくれてありがとう」

「どういたしまして、アディー」
語尾にハートがつきそうな甘さで、微笑まれた。

その時、師匠が受けとめた男の子が、息もきれぎれに叫んだ。
「師匠、早く来て! ドーラさんが大変なんだ!」

「ドーラさんが?!」
師匠の顔色がかわった。

私たちの方を見て、
「この子は、俺の弟子で、近くの孤児院の子どもだ。ドーラさんは、そこでお世話をしている女性だ。悪いが、様子を見てくる。あんたたちは、どうする?」

「私も行く!」
考えるよりも先に答えていた。





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