天使かと思ったら魔王でした。怖すぎるので、婚約解消がんばります!

水無月あん

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ロイド登場

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「それでね、アデル王女のことは、アディーって呼びたいんだけど、いい?」
デュラン王子が聞いてきた。

「アディー?」

「そう、デューとおそろいみたいでしょ」
デュラン王子が、艶っぽく微笑んだ。

「じゃあ、マルクのことは、どう呼ぶの?」

私の質問に、マルクの体がびくっとする。
そして、私にむかって、猛然と首を横にふってきた。

巻きこまれたくないんだね。
水くさいぞ! 親友じゃない。
よし、どんどん、巻きこんであげよう!

デュラン王子は、
「マルクのままでいいんじゃない。呼びやすいし」
と、即座に答えた。

少しは考えて?

しかたがない。私がかわりに考えるわ。おそろいみたいな呼び方を。

「…そうね、マルクは、マルティーにしましょう」

「ほんと、やめて…。マルクでいいよ」
と、マルクは、疲れた顔をみせた。あら、そう?

「フフッ、ほんとアディーっておもしろいね。一緒にいたら退屈しないだろうね」
と、早速、アディー呼びだ。負けてられないわ。

「そうでもないと思うわよ、デューさん」
私も、無理無理、使ってみる。

あら、デュラン王子より、呼びやすくって良いんじゃない?

それを聞いて、デューさんは、とびきり甘い笑顔を私にむかってふりそそぎ、マルクは大きなため息をついた。

…マルク、なんだか一気に老けこんでるよ。

そんな意味のない会話をしている間に、町に到着したみたい。

馬車がとまり、扉が開いた。

まずは、デュラン王子に降りていただく。

そして、私が降りようとすると、デュラン王子が、すかさず手を取ってくれた。
さすがに、魔王…いや、王子ね。洗練されていて、流れるような所作だわ。
本当に、かえすがえすも、中身が残念ね。
まあ、ユーリと同じだけれど…。

マルクも降りたところに、ロイドがやってきた。
騎士服に身をつつんだ姿は、ちびっこの私が見上げるほど背が高い。
そして、細身。だけれど、ルイ兄様が、すごい鍛えていると言っていたわね。

また、悔しいことに、ロイドも、きらきら星人に含まれる。
漆黒のまっすぐな髪。切れ長の目は深い緑色で、シャープで整った顔。
噂によると、年頃の貴族の女性たちに、ユーリ派とロイド派と言われるほど、大人気らしい。

「今日、案内させていただく、王太子専属護衛騎士、ロイド・マルクラインです。よろしくお願いいたします。ブルージュ国第二王子殿下」

「こちらこそ、よろしく。君は町に詳しいらしいから、楽しみにしてるね」
と、気さくに答える、デュラン王子。

「じゃあ、まずは、市場にご案内します」

え? 市場! やったー!

私も数回しか来たことがないんだよね。おいしいものがいっぱいあるから、一気に気持ちが舞い上がる。

「では、アデル様はこちらに」

ん? ロイドに手をひかれ、あっという間に、ロイドの隣に移動させられた。

つまり、私、ロイド、ちょっと間があいて、デュラン王子、マルク、こんな並びになった。

ええと、どういうこと?

「アデル様はお小さいですからね。この配置で、私がしっかり守ります」

小さくて悪かったわね。…じゃなくて、この並び、おかしくないですか?
そして、あなたは、どちらかというと、今回はデュラン王子の護衛では?
と、目で訴える。

「大丈夫です。王子殿下の護衛は、他の優秀な騎士たちで万全です。なので、私は、アデル様をお守りするのに専念しますね」
切れ長の目が、まっすぐに私を見る。

「いやいや、今日のあなたの役目は、町の案内と王子の護衛でしょ!」
思わず、口にだして言ってしまった。

「アデル様を守る以上に、優先すべきことはありませんから」

「いやいや、あるよ。ロイドは、王太子専属護衛騎士だから、ルイ兄様がいたら、そっちを優先するでしょ」

「いえ、まさか」

まさかって? おかしいよ、その言葉。

「アデル様の専属護衛騎士に常に希望をだしております。なので、守るべき存在は、ルイ様よりも、断然アデル様です」

…いろいろ、ひどいね。ルイ兄様、ここにいなくて良かったね。

さすがのデュラン王子もあっけにとられて、言葉がでてこないみたい。

うん、わかるよ。違和感がすごいものね…。
だって、見た目だけなら、仕事ができる頼れる騎士なのに、不思議なものが、もれだしまくりだものね。

そう、ロイドは普段クールなのに、私のことになると、一気に心配性になる。
いくらルイ兄様と乳兄弟で、小さい頃から私の面倒を見てくれていたとはいえ、私を溺愛している本物の家族と比べても、ぬきんでて、私に過保護なんだよね。

なので、みんな、ロイドの普段の様子と、私と接する時の言動の違いにびっくりする。
今も婚約者がいないのは、それも理由なんだと思う…。

それに、ロイドはユーリと徹底的にあわない。というか、天敵?

「私は意見を言う立場にありませんから」と言いつつも、絶対にユーリを私の婚約者だとは、認めていないと思う。
良くも悪くも、隠すことができない性格だから、ユーリを見る冷たい目がなにより物語っている。

たとえば、ロイドが護衛してくれる時は、必ず、ユーリとの間にたつ。
ユーリがいら立つ。ロイドはゆずらない。
みたいな攻防がずーっと続くから、私の心労がすごい…。

だから、私の専属護衛騎士になれないのは、ユーリが裏から手をまわして、阻止している気がする。
怖くて聞けないけど…。

ロイドは、気持ちも行動もまっすぐで裏がない。
なので、裏だらけの腹黒さんとはあわないんだろうね。

つまり、ユーリと似た者同士、同じ魔王のデュラン王子とも、そんな気がするんだけど…。

どうか、二人とも、お互いに深くかかわらず、今日だけ穏便にやりすごそうね。

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