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黒いんですが

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「これは、ロンバルト次期公爵。交渉の際は、お世話になりました」
デュラン王子が、爽やかな笑顔で、ユーリに話しかけた。

すると、ユーリも
「第二王子殿下。こちらこそ、良い交渉ができて、感謝しております」
と、完璧な笑顔で答える。

見目麗しい二人に、まわりの女性たちから、黄色い声があがる。

わかる。わかる。
ここだけ、きらきらしてるもの。まぶしすぎて!
見た目だけで言えば、天使×天使。

でも、なんでだろう?
心がざわざわするの。悪い方に…。
天使たちにあるまじき、空気の重さを感じるわ。

「ところで、アデル。なに、話してたの? なんだか、もりあがってたみたいだったけど」
にこやかな笑みをはりつけたユーリが、私に聞いてきた。

うん、やっぱり、目が笑ってないね。というか、魔力がもれてるよ…。怖い。

デュラン王子が私にほほえみながら言った。
「好きな作家が同じでね。すっかり、友人になってしまいました。ね、アデル王女」

あれ? ユーリの質問に答えてるようだけど、顔は私を見てる。

すると、ユーリも私の顔を見たまま、言った。
「へえ。そんな簡単になれるのって、友人じゃなくて、赤の他人って呼ぶよね。ねえ、アデル」

うん、文がおかしい。そして、これって、デュラン王子への返しよね。

「時間は関係ないですよ。ひかれあうのは一瞬だから。ね、アデル王女」

はい、質問!
なぜ、二人は私をはさんで、やりとりするのでしょうか?

「時間は大事だよね。長い間、ずーっと一緒に過ごしてきた二人の絆は、だれにも邪魔できないよね。ねえ、アデル」

はい、質問!
なぜ、二人は私の顔だけを凝視して、やりとりをするのでしょうか?

話しかけられるたび、顔を左右に向けるので、首がつかれたよ…。

「ながく過ごしても、ダメなものはダメだけどね。そうでしょ? アデル王女」

はい、質問!
なぜ、二人は私に問いかけているように、私の名前を末尾につけるのでしょうか?

私の答えを求めないのなら、私の名前を呼びかけるのはやめてほしい。
やっかいなことに、まきこまれている感じがすごいから…。

って、考えている間も、不毛なやりとりは続いている。

「二人の絆を邪魔する人って、どう思う? ねえ、アデル」

「邪魔されると思うなら、それほどの絆じゃないってことだね。そう思うでしょ。アデル王女」

「もちろん、ぼくたちは切っても切れない絆だよね。ねえ、アデル」

「そう思ってるのは、自分だけなんじゃない? ですよね、アデル王女」

二人のほほえみが、もはや、ほほえみに見えなくなってきた。
むしろ、呪い? 私、呪いをかけられてるの?

なんだか、寒気がとまらない。

まわりの女性陣は、美形二人にはさまれて、うらやましい! みたいな目で見てるけど…。

違うから!
きらびやかに見えるこの場所は、真っ黒いオーラでいっぱいだから!
ここにたってみたら、わかるから!
いつでも、この場所、かわるから!

内心で叫んでいると、はたと、マルクと目があった。うっとりとした女性陣の外側で、心配そうな顔でこちらを見ている。

(ちょっと、たすけてよ!)
私は、渾身のクチパクで言った。

が、マルクは、
(ごめん、ムリ)
すぐさま、クチパクで返してきた。

あきらめるの、早いよ!

マルクは、おびえた顔で、ユーリとデュラン王子を見ている。
そうだよね。まさか、ユーリと渡りあえる人がいるとはね。

外見は、天使×天使でも、その正体は、オパール国の魔王VSブルージュ国の魔王だわ。

さきから、私の心には、前世の言葉が点滅している。

まぜるな、危険!


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