32 / 35
白い影
しおりを挟む
あわててふりかえると、後ろに浮かんでいる石の上に、白いけむりがたちのぼっている。
白いけむりは、石の上で、ぐるぐるとまわりながら、あっという間に、形になった。
子ども……? 男の子のような、白い影に見えるけど……。
それに、さっきの声って……もしかして、冬樹君……?
そう思った次の瞬間、
(どうして、冬樹君がよろこぶの?)
別の石の方から声がした。
私は思わず息をのむ。だって、自分が言った言葉だから……。
声がした石のうえで、また、白いけむりがまわりながら、あっという間に、別の白い影をつくりだした。
こっちも、子どもの形をした影みたい。
影は今の私より、少し小さくて、髪の毛が背中くらいまである。
今の私は短い髪だけれど、2年前まではのばしていた。
もしかして、私の影ってこと……?
すると、先にでてきた影が言った。
(だって、ぼくのともだちが妖精を見たんだよ!? うれしいにきまってる! ありがとね、はるちゃん。妖精を見つけてくれて!)
やっぱり、冬樹君の声だ……。
そして、2年前のあの時の会話だ。
(でも、このこと、だれにも言わないでね)
(え、なんで!? すごいことなのに! もったいないよ!)
(このことは他の人には言わないで。約束して)
(わかった。約束する!)
そこで、ふたつの影がうすくなり、消えていった。
「なに、いまの……?」
そうつぶやいた時、今度は、他の石の上に、いっせいに、けむりがただよいはじめ、いくつもの白い影があらわれた。
(ねえ、森里さんって、妖精が見えるの?)
(冬樹君から聞いた。でも、それってうそだよね! 妖精なんて、いるわけないし)
(妖精って、おとぎばなしとかにでてくるやつだよね)
(いるなら、ここに呼んでー)
他の影たちが、くすくすと笑う。
(うそじゃない! はるちゃんは、うそなんてつかない!)
と、ひとつの影がさけんだ。冬樹君の声……。
多分、そのとなりでうつむいている影は私……。
そう気づいた途端、その影の中にすいこまれる気がした。
あの時の自分に戻ってしまうような……。
次の瞬間、私がのっている青い石がしずみ始めた。
石の上に水があふれだし、私の足首まできた。
それでも、石はとまらない。
ゆっくりと、しずみつづけていく。ついに、ひざの下まで水がきた。
でも、私は目の前を見ていた。
石の上に残ったふたつの影を……。
(ひどいよ、冬樹君! だれにも言わないでって約束したのに)
(僕、言ってない!)
(でも、倉重さんが言ってた。冬樹君から聞いたって)
(本当に言ってない! はるちゃんと約束したから!)
私は、いつのまにか、力いっぱいこぶしをにぎりしめていた。
次に私が何を言うのか、わかってるから……。
(もういい。……冬樹君とともだちやめる)
もうひとつの白い影に、あの時の悲しそうな冬樹君の顔がうつる。
そして、ふたつの影は消えていった。
私、なんてひどいことを言ったんだろう……。
冬樹君と友達になれて嬉しかったのに……。
なんで、信じられなかったんだろう……。
なんで、話を聞こうとしなかったんだろう……。
自分のなかに、悲しさが満ちてくる。
私が言ったことは、もう、とりかえしがつかない。
二度と、冬樹君と友達になれないんだ……。
水がもう、おなかのあたりまできていた。
不思議なくらい、焦りがない。だって、悲しくて、悲しくて、悲しいから……。
このまま沈んでしまいたい。
その時だ。
上着のポケットから、石が流れ出した。
あ、妖精の石!
私ははっとして、その妖精の石をつかんだ。
その瞬間、冬樹君の顔がうかんだ。
ほんわかするようなあの笑顔。
あのあたたかい笑顔が、私の悲しみを溶かしていく。
会いたいよ、冬樹君……。
涙がぽろっと水面に転がり落ちた。
「ダメだ、こんなところで沈んでなんかいられない! 私は、ちゃんと妖精たちの頼みごとを叶えて、家に帰る! それから、冬樹君に会いに行く。また友達になりたいから!」
がむしゃらに叫んだ瞬間、湖自体が消えた。
※ 読んでくださった方、ありがとうございます!お気に入り登録、いいねもありがとうございます!
とても励みになっております。
あと残り3話になりました。明日中に、完結する予定にしています。どうぞよろしくお願いいたします。
白いけむりは、石の上で、ぐるぐるとまわりながら、あっという間に、形になった。
子ども……? 男の子のような、白い影に見えるけど……。
それに、さっきの声って……もしかして、冬樹君……?
そう思った次の瞬間、
(どうして、冬樹君がよろこぶの?)
別の石の方から声がした。
私は思わず息をのむ。だって、自分が言った言葉だから……。
声がした石のうえで、また、白いけむりがまわりながら、あっという間に、別の白い影をつくりだした。
こっちも、子どもの形をした影みたい。
影は今の私より、少し小さくて、髪の毛が背中くらいまである。
今の私は短い髪だけれど、2年前まではのばしていた。
もしかして、私の影ってこと……?
すると、先にでてきた影が言った。
(だって、ぼくのともだちが妖精を見たんだよ!? うれしいにきまってる! ありがとね、はるちゃん。妖精を見つけてくれて!)
やっぱり、冬樹君の声だ……。
そして、2年前のあの時の会話だ。
(でも、このこと、だれにも言わないでね)
(え、なんで!? すごいことなのに! もったいないよ!)
(このことは他の人には言わないで。約束して)
(わかった。約束する!)
そこで、ふたつの影がうすくなり、消えていった。
「なに、いまの……?」
そうつぶやいた時、今度は、他の石の上に、いっせいに、けむりがただよいはじめ、いくつもの白い影があらわれた。
(ねえ、森里さんって、妖精が見えるの?)
(冬樹君から聞いた。でも、それってうそだよね! 妖精なんて、いるわけないし)
(妖精って、おとぎばなしとかにでてくるやつだよね)
(いるなら、ここに呼んでー)
他の影たちが、くすくすと笑う。
(うそじゃない! はるちゃんは、うそなんてつかない!)
と、ひとつの影がさけんだ。冬樹君の声……。
多分、そのとなりでうつむいている影は私……。
そう気づいた途端、その影の中にすいこまれる気がした。
あの時の自分に戻ってしまうような……。
次の瞬間、私がのっている青い石がしずみ始めた。
石の上に水があふれだし、私の足首まできた。
それでも、石はとまらない。
ゆっくりと、しずみつづけていく。ついに、ひざの下まで水がきた。
でも、私は目の前を見ていた。
石の上に残ったふたつの影を……。
(ひどいよ、冬樹君! だれにも言わないでって約束したのに)
(僕、言ってない!)
(でも、倉重さんが言ってた。冬樹君から聞いたって)
(本当に言ってない! はるちゃんと約束したから!)
私は、いつのまにか、力いっぱいこぶしをにぎりしめていた。
次に私が何を言うのか、わかってるから……。
(もういい。……冬樹君とともだちやめる)
もうひとつの白い影に、あの時の悲しそうな冬樹君の顔がうつる。
そして、ふたつの影は消えていった。
私、なんてひどいことを言ったんだろう……。
冬樹君と友達になれて嬉しかったのに……。
なんで、信じられなかったんだろう……。
なんで、話を聞こうとしなかったんだろう……。
自分のなかに、悲しさが満ちてくる。
私が言ったことは、もう、とりかえしがつかない。
二度と、冬樹君と友達になれないんだ……。
水がもう、おなかのあたりまできていた。
不思議なくらい、焦りがない。だって、悲しくて、悲しくて、悲しいから……。
このまま沈んでしまいたい。
その時だ。
上着のポケットから、石が流れ出した。
あ、妖精の石!
私ははっとして、その妖精の石をつかんだ。
その瞬間、冬樹君の顔がうかんだ。
ほんわかするようなあの笑顔。
あのあたたかい笑顔が、私の悲しみを溶かしていく。
会いたいよ、冬樹君……。
涙がぽろっと水面に転がり落ちた。
「ダメだ、こんなところで沈んでなんかいられない! 私は、ちゃんと妖精たちの頼みごとを叶えて、家に帰る! それから、冬樹君に会いに行く。また友達になりたいから!」
がむしゃらに叫んだ瞬間、湖自体が消えた。
※ 読んでくださった方、ありがとうございます!お気に入り登録、いいねもありがとうございます!
とても励みになっております。
あと残り3話になりました。明日中に、完結する予定にしています。どうぞよろしくお願いいたします。
10
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
スコウキャッタ・ターミナル
nono
児童書・童話
「みんなと違う」妹がチームの優勝杯に吐いた日、ついにそのテディベアをエレンは捨てる。すると妹は猫に変身し、謎の二人組に追われることにーー 空飛ぶトラムで不思議な世界にやってきたエレンは、弱虫王子とワガママ王女を仲間に加え、妹を人間に戻そうとするが・・・
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。

(完結) わたし
水無月あん
児童書・童話
(きずな児童書大賞エントリー)主人公は、孤独で、日々生きることに必死な、まだ若い狐。大雨で動けなくなった時、聞こえてきた声。その声に従うことは、救いか否か…。ほのぐらーい、少し不気味で不穏で和風な感じの不可思議系のお話です。短編なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。
今、この瞬間を走りゆく
佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】
皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!
小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。
「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」
合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──
ひと夏の冒険ファンタジー
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
瑠璃の姫君と鉄黒の騎士
石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。
そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。
突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。
大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。
記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる