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白い影
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あわててふりかえると、後ろに浮かんでいる石の上に、白いけむりがたちのぼっている。
白いけむりは、石の上で、ぐるぐるとまわりながら、あっという間に、形になった。
子ども……? 男の子のような、白い影に見えるけど……。
それに、さっきの声って……もしかして、冬樹君……?
そう思った次の瞬間、
(どうして、冬樹君がよろこぶの?)
別の石の方から声がした。
私は思わず息をのむ。だって、自分が言った言葉だから……。
声がした石のうえで、また、白いけむりがまわりながら、あっという間に、別の白い影をつくりだした。
こっちも、子どもの形をした影みたい。
影は今の私より、少し小さくて、髪の毛が背中くらいまである。
今の私は短い髪だけれど、2年前まではのばしていた。
もしかして、私の影ってこと……?
すると、先にでてきた影が言った。
(だって、ぼくのともだちが妖精を見たんだよ!? うれしいにきまってる! ありがとね、はるちゃん。妖精を見つけてくれて!)
やっぱり、冬樹君の声だ……。
そして、2年前のあの時の会話だ。
(でも、このこと、だれにも言わないでね)
(え、なんで!? すごいことなのに! もったいないよ!)
(このことは他の人には言わないで。約束して)
(わかった。約束する!)
そこで、ふたつの影がうすくなり、消えていった。
「なに、いまの……?」
そうつぶやいた時、今度は、他の石の上に、いっせいに、けむりがただよいはじめ、いくつもの白い影があらわれた。
(ねえ、森里さんって、妖精が見えるの?)
(冬樹君から聞いた。でも、それってうそだよね! 妖精なんて、いるわけないし)
(妖精って、おとぎばなしとかにでてくるやつだよね)
(いるなら、ここに呼んでー)
他の影たちが、くすくすと笑う。
(うそじゃない! はるちゃんは、うそなんてつかない!)
と、ひとつの影がさけんだ。冬樹君の声……。
多分、そのとなりでうつむいている影は私……。
そう気づいた途端、その影の中にすいこまれる気がした。
あの時の自分に戻ってしまうような……。
次の瞬間、私がのっている青い石がしずみ始めた。
石の上に水があふれだし、私の足首まできた。
それでも、石はとまらない。
ゆっくりと、しずみつづけていく。ついに、ひざの下まで水がきた。
でも、私は目の前を見ていた。
石の上に残ったふたつの影を……。
(ひどいよ、冬樹君! だれにも言わないでって約束したのに)
(僕、言ってない!)
(でも、倉重さんが言ってた。冬樹君から聞いたって)
(本当に言ってない! はるちゃんと約束したから!)
私は、いつのまにか、力いっぱいこぶしをにぎりしめていた。
次に私が何を言うのか、わかってるから……。
(もういい。……冬樹君とともだちやめる)
もうひとつの白い影に、あの時の悲しそうな冬樹君の顔がうつる。
そして、ふたつの影は消えていった。
私、なんてひどいことを言ったんだろう……。
冬樹君と友達になれて嬉しかったのに……。
なんで、信じられなかったんだろう……。
なんで、話を聞こうとしなかったんだろう……。
自分のなかに、悲しさが満ちてくる。
私が言ったことは、もう、とりかえしがつかない。
二度と、冬樹君と友達になれないんだ……。
水がもう、おなかのあたりまできていた。
不思議なくらい、焦りがない。だって、悲しくて、悲しくて、悲しいから……。
このまま沈んでしまいたい。
その時だ。
上着のポケットから、石が流れ出した。
あ、妖精の石!
私ははっとして、その妖精の石をつかんだ。
その瞬間、冬樹君の顔がうかんだ。
ほんわかするようなあの笑顔。
あのあたたかい笑顔が、私の悲しみを溶かしていく。
会いたいよ、冬樹君……。
涙がぽろっと水面に転がり落ちた。
「ダメだ、こんなところで沈んでなんかいられない! 私は、ちゃんと妖精たちの頼みごとを叶えて、家に帰る! それから、冬樹君に会いに行く。また友達になりたいから!」
がむしゃらに叫んだ瞬間、湖自体が消えた。
※ 読んでくださった方、ありがとうございます!お気に入り登録、いいねもありがとうございます!
とても励みになっております。
あと残り3話になりました。明日中に、完結する予定にしています。どうぞよろしくお願いいたします。
白いけむりは、石の上で、ぐるぐるとまわりながら、あっという間に、形になった。
子ども……? 男の子のような、白い影に見えるけど……。
それに、さっきの声って……もしかして、冬樹君……?
そう思った次の瞬間、
(どうして、冬樹君がよろこぶの?)
別の石の方から声がした。
私は思わず息をのむ。だって、自分が言った言葉だから……。
声がした石のうえで、また、白いけむりがまわりながら、あっという間に、別の白い影をつくりだした。
こっちも、子どもの形をした影みたい。
影は今の私より、少し小さくて、髪の毛が背中くらいまである。
今の私は短い髪だけれど、2年前まではのばしていた。
もしかして、私の影ってこと……?
すると、先にでてきた影が言った。
(だって、ぼくのともだちが妖精を見たんだよ!? うれしいにきまってる! ありがとね、はるちゃん。妖精を見つけてくれて!)
やっぱり、冬樹君の声だ……。
そして、2年前のあの時の会話だ。
(でも、このこと、だれにも言わないでね)
(え、なんで!? すごいことなのに! もったいないよ!)
(このことは他の人には言わないで。約束して)
(わかった。約束する!)
そこで、ふたつの影がうすくなり、消えていった。
「なに、いまの……?」
そうつぶやいた時、今度は、他の石の上に、いっせいに、けむりがただよいはじめ、いくつもの白い影があらわれた。
(ねえ、森里さんって、妖精が見えるの?)
(冬樹君から聞いた。でも、それってうそだよね! 妖精なんて、いるわけないし)
(妖精って、おとぎばなしとかにでてくるやつだよね)
(いるなら、ここに呼んでー)
他の影たちが、くすくすと笑う。
(うそじゃない! はるちゃんは、うそなんてつかない!)
と、ひとつの影がさけんだ。冬樹君の声……。
多分、そのとなりでうつむいている影は私……。
そう気づいた途端、その影の中にすいこまれる気がした。
あの時の自分に戻ってしまうような……。
次の瞬間、私がのっている青い石がしずみ始めた。
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それでも、石はとまらない。
ゆっくりと、しずみつづけていく。ついに、ひざの下まで水がきた。
でも、私は目の前を見ていた。
石の上に残ったふたつの影を……。
(ひどいよ、冬樹君! だれにも言わないでって約束したのに)
(僕、言ってない!)
(でも、倉重さんが言ってた。冬樹君から聞いたって)
(本当に言ってない! はるちゃんと約束したから!)
私は、いつのまにか、力いっぱいこぶしをにぎりしめていた。
次に私が何を言うのか、わかってるから……。
(もういい。……冬樹君とともだちやめる)
もうひとつの白い影に、あの時の悲しそうな冬樹君の顔がうつる。
そして、ふたつの影は消えていった。
私、なんてひどいことを言ったんだろう……。
冬樹君と友達になれて嬉しかったのに……。
なんで、信じられなかったんだろう……。
なんで、話を聞こうとしなかったんだろう……。
自分のなかに、悲しさが満ちてくる。
私が言ったことは、もう、とりかえしがつかない。
二度と、冬樹君と友達になれないんだ……。
水がもう、おなかのあたりまできていた。
不思議なくらい、焦りがない。だって、悲しくて、悲しくて、悲しいから……。
このまま沈んでしまいたい。
その時だ。
上着のポケットから、石が流れ出した。
あ、妖精の石!
私ははっとして、その妖精の石をつかんだ。
その瞬間、冬樹君の顔がうかんだ。
ほんわかするようなあの笑顔。
あのあたたかい笑顔が、私の悲しみを溶かしていく。
会いたいよ、冬樹君……。
涙がぽろっと水面に転がり落ちた。
「ダメだ、こんなところで沈んでなんかいられない! 私は、ちゃんと妖精たちの頼みごとを叶えて、家に帰る! それから、冬樹君に会いに行く。また友達になりたいから!」
がむしゃらに叫んだ瞬間、湖自体が消えた。
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