妖精のたのみごと

水無月あん

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ひとりぼっち

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草の上に落ちている妖精のひげをふるえる手でひろいあげると、私は転がるようにして山道に戻った。
心臓がバクバクしている。

不安がふくらんできて、じっとしていられない。
とにかく、ここから離れたい……。

疲れた足をひっぱるようにして、歩く。
だんだん、怒りがこみあげてきた。

なんで、私はこんなところにいなきゃいけないの!?
なんで、私がこんなめにあうの!? 
なんで、私なの!?
私が、なにをしたっていうのよ!

何度も何度も同じ言葉が、頭の中をぐるぐるとまわる。 

目の前がかすんで前が見えない。目をこすると、手がびしょびしょになった。
私は、泣いていた。 

そのことに気がついたとたん、最後の力もぬけ、近くの木のそばにしゃがみこんだ。
涙が止まらない。

私はずっと泣かなかったのに……。

人に見えないものが見えても。
そのことを正直にいったら、怖いといって泣かれた時も。
だから、正直には話さないと決めた時も。
はじめてできた友だちにやっと本当のことを話せたのに、約束をやぶられたとしても。
うそなんかついていないのに、うそつきって言われても。
言いたくないことを口にして、傷つけてしまっても。
ゆるしたいのに、ゆるせなくても。
私は、泣かなかったのに。

なんで、今、涙がでるの……?

そうだ。
こんなへんなことを、たのまれたからだ。
それも、こんなわけのわからない場所で。
しかも、ひとりぼっちで。
でも、なんで、私は、ひとりぼっちなの?
なんで、なんで、なんで、ひとりぼっちなの?
いつも、ひとりぼっちでなきゃいけないの? 

「もう、ひとりぼっちなんて、いや!」

力いっぱいさけぶと、その場にたおれこんだ。

「ひとりぼっち? そんなに妖精のにおいがプンプンするのにかい?」

突然、しわがれた声が聞こえてきた。

私はびっくりして、飛び起きた。用心深く、あたりを見回す。

「ほおら、ここだよ。こぉこ」

のんびりした、しゃべりかた。

私は声のあたりを探したが、声の主は見当たらない。
ただ、そこには木がたっているだけ。

「だれ……? どこにいるの……?」

さっきのこともあったので、正直、怖い……。
おびえながら声をかけると、いきなり、目の前に細長いものがたれさがってきた。

「うわっ、へびっ……!?」

あわてて、木の後ろに隠れた。

「おやおや、こわがりだねえ。よぉく、みてみなさいよ」

笑いをふくんだ声が、ゆっくりとしゃべる。

私はおそるおそる木の後ろから顔をだした。

たれさがったままのなにかを見てみる。
暗い緑色に、ところどころ茶色。

よく見ると、なにかに動かされているみたいで、自分から動いているようには見えない。

「……もしかして、これって枝?」

「そうさねえ。これは、わたしの体の一部さあ」

そう言うと、細長くたれさがったその枝を、しゃらしゃらとゆらしてみせた。

「体の一部ってことは、今、しゃべってるのは木なの……?」

「まあ、そういえば、そうさね……。ちがうといえば、ちがうともいえるが……」
 のんびりのんびり、はなしを続ける声。

「わたしは、木というよりは、そうさねえ……、木に住める妖精。……いいや、木を守る妖精……いや、もう、私が木に守られてるのかねえ……。うーん、ちょっと待って……。やっぱり、わたしは、もう、木そのものになっちまったのかもしれないねえ……」

しゃべるスピードが遅すぎて、聞いているとだんだん眠くなってくる。

「木の妖精でも、木そのものさんでも、どっちでもいいです」

私はそう言うと、大きなあくびをした。

「どっちでもいい……? いや、そうはいくまい。大事なことだからのう。いや、そんなに大事だったかな……? たしかに、どっちでもいいというか、どうでもいいのかもしれんのう。でもな、それはそれで……」

木の話は、だらだらと続く。

眠くて、眠くて、もう、頭がうごかない。
ふと、地面から近いところにある、大きな枝が目についた。無性にすわってみたくなった。

私はその枝にすわり、幹にもたれかかった。こけなのかな? やわらかい……。

遠のいていく木の声。だんだん、目が開かなくなってきた。
眠りたい……。

そう思ったのを最後に、私の意識はふつりととだえた。
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