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放っておけない
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そこへ、パトリックと同じくらいの年に見える少年が寄って来た。
「よお、パトリック。すごいかわいい子連れてるな。紹介してくれよ」
と言うと、私の方を見て、
「俺、ヘンリー。ブランディ伯爵家の長男で、パトリックとは同級生で友人なんだ。よろしくね」
と、なんとも軽そうな感じで挨拶をしてきた。
そして、この少年もパトリックほどじゃないけれど、黒い煙がまとわりついている。
「ヘンリー、この子は俺の婚約者だ。ちょっかいだすな」
と、パトリックは、ヘンリーをにらみつけた。
「ええっ?! 婚約者? おまえ、婚約してたのか?!」
と、目を見開くヘンリー。
「ああ」
「おまえ、じゃあ、アンナはどうす…、あっ、いや、なんでもない…」
と、私の顔を見て、気まずそうに、あわてて言うのをやめた。
アンナって言った? 女性の名前だよね?
思わず、私はパトリックの顔を見ると、パトリックは、すごい目でヘンリーをにらんでいた。
「いや、なんか、ごめん。変なこと口走って…。婚約者さん、気にしないで。ええと、じゃあ、俺はこれで…」
怯えたようにそれだけ言うと、さーっと去っていったヘンリー。
またもや、パトリックの胸からでる黒い煙が、どーんと増えた。
今の話、パトリックは、よほど気に入らなかったんだよね?
なんだろう? アンナさんがどうした? 気になる!
聞きたくてたまらなくなり、思わず、
「ええと、さっきの方、ブランディ伯爵の息子さんが言ってたことなんだけど…」
と、きりだしたら、
「あいつの言ったことは忘れて。どうでもいいことだから。ライラが知る必要はない」
と、冷たい声でパトリックがぴしゃりと言った。
「でも…」
「ライラは、ぼくが信用できないの?」
「そういうわけじゃないけど…」
「じゃあ、もういいよね、この話は。それより、色々紹介したい人がいるからフロアをまわるよ。こんなにきれいにしているライラを見せびらかしたいからね」
と、パトリックが、とってつけたように私に微笑みかけた。
その時、パトリックの首の黒い煙が、ぐるぐるとまきつくように、増え始めた。
え? これって、首をしめられてるんじゃない?!
途端に、コホッコホッと、せきこむパトリック。
顔をしかめ、苦しそうだ。
この黒い煙、そのままにしとくには心配な感じだ。さすがに放っておけない。
どうしよう? …いい方法が、ほかに浮かばないから仕方ない。
私は、せきこむパトリックの背後にまわり、
「大丈夫、パトリック?」
と言いながら、背中を片方の手でさする。そして、片方の手のひらを首の後ろのあたりにあて、黒い煙をすい取り始める。
一瞬にして、手のひらに花の種が生まれる。それを小さなバッグに押し込み、また、すい取る。
はたから見ると、婚約者の背中を心配そうにさすっているように見えるよう気をつけながら、どんどん花の種をバッグに押し込んでいく。
そして、やっと、落ち着いたパトリック。
すると、私の方を振り返って、
「心配してくれてありがとう、ライラ。もう大丈夫だから」
そう言って、微笑んだ。
「…良かった」
と答えたものの、私は驚いた。
というのも、パトリックの顔が、いつもの嘘っぽい微笑みではなく、本当に嬉しそうに見えたから。
それから、覚えきれないほどのパトリックの知り合いに婚約者として紹介され、挨拶をしまくって、もうぐったりだ。
パトリックは何故だか上機嫌で、胸からでる黒い煙は今は止まっている。
「ライラ、疲れたでしょ? ここで休んでて。ぼくが、なにか美味しいものでも取ってくるから」
そう言って、椅子にすわらされ、パトリックは食べ物を取りに歩いていった。
私はバッグをあけてみる。小さなバッグには、パトリックから取れた花の種がぎゅうぎゅうにつまっていた。
帰ってから、ゆっくり観察しようっと!
ちょっと、わくわくしながら、バッグを閉じる。
ふと、食べ物の並ぶテーブルのほうを見ると、あのオレンジ色の髪の女性がいた。
全身からふきだしている黒い煙が向かう先を目で追うと…、パトリックだった。
「よお、パトリック。すごいかわいい子連れてるな。紹介してくれよ」
と言うと、私の方を見て、
「俺、ヘンリー。ブランディ伯爵家の長男で、パトリックとは同級生で友人なんだ。よろしくね」
と、なんとも軽そうな感じで挨拶をしてきた。
そして、この少年もパトリックほどじゃないけれど、黒い煙がまとわりついている。
「ヘンリー、この子は俺の婚約者だ。ちょっかいだすな」
と、パトリックは、ヘンリーをにらみつけた。
「ええっ?! 婚約者? おまえ、婚約してたのか?!」
と、目を見開くヘンリー。
「ああ」
「おまえ、じゃあ、アンナはどうす…、あっ、いや、なんでもない…」
と、私の顔を見て、気まずそうに、あわてて言うのをやめた。
アンナって言った? 女性の名前だよね?
思わず、私はパトリックの顔を見ると、パトリックは、すごい目でヘンリーをにらんでいた。
「いや、なんか、ごめん。変なこと口走って…。婚約者さん、気にしないで。ええと、じゃあ、俺はこれで…」
怯えたようにそれだけ言うと、さーっと去っていったヘンリー。
またもや、パトリックの胸からでる黒い煙が、どーんと増えた。
今の話、パトリックは、よほど気に入らなかったんだよね?
なんだろう? アンナさんがどうした? 気になる!
聞きたくてたまらなくなり、思わず、
「ええと、さっきの方、ブランディ伯爵の息子さんが言ってたことなんだけど…」
と、きりだしたら、
「あいつの言ったことは忘れて。どうでもいいことだから。ライラが知る必要はない」
と、冷たい声でパトリックがぴしゃりと言った。
「でも…」
「ライラは、ぼくが信用できないの?」
「そういうわけじゃないけど…」
「じゃあ、もういいよね、この話は。それより、色々紹介したい人がいるからフロアをまわるよ。こんなにきれいにしているライラを見せびらかしたいからね」
と、パトリックが、とってつけたように私に微笑みかけた。
その時、パトリックの首の黒い煙が、ぐるぐるとまきつくように、増え始めた。
え? これって、首をしめられてるんじゃない?!
途端に、コホッコホッと、せきこむパトリック。
顔をしかめ、苦しそうだ。
この黒い煙、そのままにしとくには心配な感じだ。さすがに放っておけない。
どうしよう? …いい方法が、ほかに浮かばないから仕方ない。
私は、せきこむパトリックの背後にまわり、
「大丈夫、パトリック?」
と言いながら、背中を片方の手でさする。そして、片方の手のひらを首の後ろのあたりにあて、黒い煙をすい取り始める。
一瞬にして、手のひらに花の種が生まれる。それを小さなバッグに押し込み、また、すい取る。
はたから見ると、婚約者の背中を心配そうにさすっているように見えるよう気をつけながら、どんどん花の種をバッグに押し込んでいく。
そして、やっと、落ち着いたパトリック。
すると、私の方を振り返って、
「心配してくれてありがとう、ライラ。もう大丈夫だから」
そう言って、微笑んだ。
「…良かった」
と答えたものの、私は驚いた。
というのも、パトリックの顔が、いつもの嘘っぽい微笑みではなく、本当に嬉しそうに見えたから。
それから、覚えきれないほどのパトリックの知り合いに婚約者として紹介され、挨拶をしまくって、もうぐったりだ。
パトリックは何故だか上機嫌で、胸からでる黒い煙は今は止まっている。
「ライラ、疲れたでしょ? ここで休んでて。ぼくが、なにか美味しいものでも取ってくるから」
そう言って、椅子にすわらされ、パトリックは食べ物を取りに歩いていった。
私はバッグをあけてみる。小さなバッグには、パトリックから取れた花の種がぎゅうぎゅうにつまっていた。
帰ってから、ゆっくり観察しようっと!
ちょっと、わくわくしながら、バッグを閉じる。
ふと、食べ物の並ぶテーブルのほうを見ると、あのオレンジ色の髪の女性がいた。
全身からふきだしている黒い煙が向かう先を目で追うと…、パトリックだった。
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