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なんで、隠すの?

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パトリックが、にこやかにお父様に言った。
「ライラをエスコートして、パーティーを楽しんできたいのですが、いいでしょうか?」

え、やめて! パトリックと一緒じゃ、楽しめないよ!?

私はあわてて言った。

「私は、こんな大きなパーティーは初めてなので、緊張しちゃって…。今日は両親と一緒にいますから。お気づかいなく」

「そんなこと言わないで。せっかく来てくれたんだし、ライラと一緒にいたいな」
口調は優しいが、胸からでる黒い煙の量がどっと増えた。

多分、私が断ったのが気に入らないんだろうね…。二人になったら、何を言われるかわからない。

私はすがるようにお父様を見た。

断って! お父様!

お父様が私に向かって微笑んだ。

「じゃあ、ライラはパトリック君に頼もうか。こんな豪華なパーティーは、滅多にないぞ。ライラ、緊張しなくていいから、楽しんでおいで」

違うわ、お父様!

「おお、それがいい。パトリック、ライラさんをきっちりエスコートしてきなさい」
と、公爵様も微笑みながら同意する。

結局、私の願いもむなしく、上機嫌の二人に、笑顔で送りだされた。

パトリックに連れられて、ホールを歩きだす。
パーティーを主催している公爵家の息子といるからなのか、すごい見られてない?
視線が突き刺さるようなんだけど…。 

「ライラ、さっきは、なんで断ろうとしたの? ぼくと一緒にいるのが、そんなに嫌? でもね、ライラは、ぼくの婚約者なんだから、パーティーの間中、ずっと、ぼくと一緒にいないとダメだよ」

私にむかって、爽やかに微笑みかけながら、口では文句を言うパトリック。

傍から見てる人には、優しく気づかわれているように見えるんだろうな…。
全然、違うけど…。

「で、なんで返事をしないの? ライラ」
と、パトリックが言った。顔はにこやかなままだけど、パトリックの声が明らかに、さっきより、いらだっている。

同時に、また胸から黒い煙がどばっと出た。

これ以上、黒い煙を増やすわけにもいかない。

「…わかったわ」
と、しぶしぶ返事をした私。

それで、パトリックは納得したよう。

「ライラ、なにか食べる?」
と、聞いてきた。

「飲み物だけ欲しい」

「じゃあ、ここで待ってて」
そう言うと、すぐ近くの食べ物や飲み物を準備しているテーブルに取りに行った。

ふと、強い視線を感じた。

とっさに視線のほうを見た。すると、女性がいた。
なんとも鮮やかな、珍しいオレンジ色の髪の女性が私を見ている。

…っていうか、にらんでない!? 私をにらんでるよね? 

が、にらまれている怖さよりも、驚きのほうが先に立った。
というのも、その女性の首から下は、黒い煙がいたるところからふきだしていたからだ。

こんなに沢山、黒い煙を自分から出している人を、私は初めて見た。
黒い煙で、ドレスの色もわからない。
わかるのは、ひときわ目立つ、オレンジ色の髪と顔だけ。

あいかわらず、その女性は私をすごい目でにらんでいる。

ええと、初対面だよね……? なんで、にらまれているんだろう?

そこへ、パトリックが飲み物を手に戻って来た。

私に飲み物を手渡しながら、パトリックは聞いてきた。

「ねえ、ライラ。何を見てたの?」

「見てたというか、見られてたんだよね……。うーん、そうだ。パトリックはオレンジ色の髪の女の人を知ってる?」
私が言ったとたん、パトリックの瞳が揺れた。

そして、焦ったように答えた。

「いや、知らないな」

でも、パトリックの胸から出ている黒い煙が、一気に量が増え、どんどん濃くなっている。

どう見ても、これは、知ってるよね……?
でも、パトリックは、なんで、隠すのかな? 

すごーく気になる! 
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