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真実は?
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その時、隣から、フッと笑った声がした。
シャルルだ。
「ちょっと、あなた! なにがおかしいの?」
お母様がシャルルをにらんだ。
「今まで、キャロを放っておいて親らしいことなんてしてこなかったくせに、私もそばにいるからとか、何言ってるんだろうと思っただけです」
えええ!? ちょっと、シャルル!?
きれいな笑顔で、なに、爆弾を落としてるの?
「なんて失礼なの、あなた!? しかも、キャロだなんて、なれなれしい呼び方して……。隣国の侯爵家のご子息だなんて嘘なんじゃないの? キャロリーヌ、さっさと帰ってもらって!」
お母様が興奮した様子で声をあげた。
アルゴ様が席を立ち、すごい勢いで私に近づいて来た。
すぐさま、シャルルが私をかばうように、アルゴ様の前に立った。
シャルルのほうが背が高いから、見上げるようにしてにらみつけるアルゴ様。
「キャロリーヌが結婚をやめたいとか言い出したのは、こいつのせいか!? キャロリーヌ! おまえ、孤独なふりして僕をだまして、浮気でもしてたのか!?」
狂気じみた顔で叫んだアルゴ様。
「浮気なんてしていません。シャルルは大事な幼馴染です。結婚をやめるのは、私の意思です」
私は、アルゴ様に向かって、はっきりと言った。
「なんてことなの……。礼儀正しくて、奥ゆかしいご令嬢だと思っていたのに、そんな無礼な男にうつつをぬかしていたなんて……。失望したわ、キャロリーヌさん。アルゴ、こんなふしだらなご令嬢なんておやめなさい。自信を取り戻した今のあなたなら、もっと素敵なご令嬢を選べるわ。ルバーチ子爵様、慰謝料は後ほど請求しますから!」
ミルトン侯爵夫人がそう言った瞬間、ドンとテーブルをたたいたシャルル。
「はあ!? 誰がふしだらだって? キャロを自分たちの品位のない物差しで測るな! ふしだらなのはそっちだろう!」
シャルルは怒りのこもった声でそう言ったあと、自分のかばんから、何かをとりだした。
ばさっとテーブルに放り投げたのは、うすい冊子のようなもの。
お父様がすぐに手にとり、ぺらぺらとめくりながら、黙って目をとおしている。
どんどん眉間のしわが深くなった。
そして、冊子の一枚のページを開き、ミルトン侯爵夫人の前にたたきつけるようにして置いた。
「これは、どういうことですか? ご子息とミルトン侯爵夫人は娘をだましていたのですか?」
思わず、身をのりだして、そのページを見ると、報告書のような文字の下に一枚の写真が貼り付けてあった。
腕をくんで歩くアルゴ様と知らない女性。
え……?
なんだか、女性のおなかが大きいような……。
ミルトン侯爵夫人が、ばっと冊子をつかんだ。
「あなた、どうやってこれを調べたの!? 主人にすら気づかれていないことなのに!」
あせったようにシャルルに言い放ったあと、はっとしたように口をとじたミルトン侯爵夫人。
「つまり、事実なのですね、ミルトン侯爵夫人。説明していただきましょうか?」
お父様は冷たい声で言った。
お母様だけが取り残されたように、きょとんとしている。
「僕は、ただ、キャロリーヌのために……キャロリーヌにふさわしい男になるために、遊びで、その女とつきあったんだ! 向こうだって、遊びだって言ってたのに! それなのに、妊娠しやがって……。僕はだまされたんだ!」
「そ、……そうよ。アルゴは恋愛に慣れていなかったでしょう? キャロリーヌさんのために、女性に慣れようとしただけなの。そこに愛情なんてないのよ!」
え? 私のため……?
ふたりが言っていることの意味が全く理解できない……。
つまり、アルゴ様は浮気をしていたってことよね。
あ、違うわ。
私のことがお嫌いだから、そっちが本気なのか……。
それはどうでもいいけれど、ともかく、その女性との間に子どもができたのよね。
それがなんで私のためになるのかしら……?
「こんな汚い言い訳、キャロは聞かなくていい」
と、シャルル。
「汚いだと!?」
アルゴ様が、また叫ぶ。
「汚いね。キャロに隠れて、好き放題、遊んでたんだろう? で、無責任にも子どもができ、侯爵夫人に泣きついた。侯爵夫人がその女をかくまっている。結婚したあとに妾にする予定だと、その女の家族に言っているらしい」
「そうだったんですか? それなら、早く言ってくだされば良かったのに……。でも、これで、アルゴ様は愛する方と結婚できますね」
「キャロリーヌ、違うんだ! 僕が愛してるのは、キャロリーヌだけだ!」
「今更、そんな嘘をつかなくてもいいですよ、アルゴ様。私に会うたび、私を批判していたし。それに、その写真をみると、その女性とは腕を組んで外をあるいていらっしゃったみたいですけれど、私とは茶会も夜会も行かなかったくらい嫌っていたじゃないですか。まあ、私が何か気に障ることをしたんでしょうけれど……」
「違う! 僕がキャロリーヌとでかけなくなったのは……、僕がキャロリーヌにひけめを感じたからだ……」
「ひけめ……? 私に?」
アルゴ様の思ってもみなかった言葉に、思わず聞き返した私。
「婚約したばかりの時、夜会に行けば、みんながキャロリーヌを美しい、家が裕福だとほめた。そのあと、なんで、僕と婚約したんだろうって、いう目で僕を見た。兄と違って、出来の悪いミルトン侯爵家の次男とは、つりあってないっていう目で、みんな、僕を見るんだ! だから、僕はキャロリーヌとでかけるのをやめた。キャロリーヌに強くあたったのだって、僕が上にたっているようにみせないと、キャロリーヌが僕から逃げると思ったからだ。いろんな女と遊んだのだって、そうだ! 僕が自信をつけて、キャロリーヌにふさわしい男になるためだった! だから、あんな女、愛してなんかいない! 子どもができたから妾にしろと言われて、しょうがなくそうするだけなんだ! 僕はキャロリーヌと結婚したい!」
「そうよ、キャロリーヌさん。あの女性は平民で、アルゴとは結婚できない。ただ、子どもができてしまったから、妾にするしかないのよ。相手の女性も、どうやら、それを狙っていたみたいなの。アルゴはまんまと騙されただけ。でも、生まれてくる子どもはミルトン侯爵家の血をひいているのだから、放っておくわけにはいかないでしょう? もちろん、褒められたことではないけれど、貴族に妾がいるのは、よくあること。あなたのお父様みたいにね」
と、お父様に同意を求めるように視線を向けたミルトン侯爵夫人。
お父様はミルトン侯爵夫人を鋭い視線で見据えると、口を開いた。
「ミルトン侯爵夫人ともあろう方が、社交界の噂をうのみにされておられるのですな。私に妾がいたことはありませんが」
え……? お父様まで、何、嘘をついてるの?
と思ったら、お母様も驚いたようにお父様を見ている。
「お言葉ですが、ルバーチ子爵様。学園時代の恋人を、別邸に愛人として囲われているのは、貴族の間では有名なお話でしてよ?」
ミルトン侯爵夫人が鼻で笑った。
「別邸とは、下町の小さな家のことですか?」
「下町……?」
ミルトン侯爵夫人がいぶかしげに顔をしかめた。
「生粋の貴族であるミルトン侯爵夫人は下町など行ったこともないのでしょうね……。確かに、私は学生時代、ある女性と交際をしておりました。が、卒業後は行く道が違ったことで、きっぱりと縁は切れております。恥ずかしながら、子爵家とはいえ貧しかった私は、学生時代、あの女性のお父上に借金をして学んでおりました。その後、女性の家は不運が重なり平民になった。そのころの私はまだ力もなく、借金も、ご恩も返せなかったんです。その後、なんとか事業が軌道にのった。すぐに返済をしようとしましたが、お父上は亡くなられていた。そのため、その娘である女性に返済をしたのです。ちなみに、代理人を通して返済をしたため、その時も女性とは会っていません。その女性は私の返済金を足して、下町に一軒家を買ったと代理人から聞いております。もちろん、私はその家に伺ったこともない。つまり、私の別邸だと、社交界でおもしろおかしく噂されているのは、下町にある小さな一軒家で、その家に暮らしているのは、その女性とご主人とお子さんです」
お父様の思いもかけない独白に、部屋が静まりかえった。
そのあと、お母様が泣き出し、大騒ぎになった。
シャルルだ。
「ちょっと、あなた! なにがおかしいの?」
お母様がシャルルをにらんだ。
「今まで、キャロを放っておいて親らしいことなんてしてこなかったくせに、私もそばにいるからとか、何言ってるんだろうと思っただけです」
えええ!? ちょっと、シャルル!?
きれいな笑顔で、なに、爆弾を落としてるの?
「なんて失礼なの、あなた!? しかも、キャロだなんて、なれなれしい呼び方して……。隣国の侯爵家のご子息だなんて嘘なんじゃないの? キャロリーヌ、さっさと帰ってもらって!」
お母様が興奮した様子で声をあげた。
アルゴ様が席を立ち、すごい勢いで私に近づいて来た。
すぐさま、シャルルが私をかばうように、アルゴ様の前に立った。
シャルルのほうが背が高いから、見上げるようにしてにらみつけるアルゴ様。
「キャロリーヌが結婚をやめたいとか言い出したのは、こいつのせいか!? キャロリーヌ! おまえ、孤独なふりして僕をだまして、浮気でもしてたのか!?」
狂気じみた顔で叫んだアルゴ様。
「浮気なんてしていません。シャルルは大事な幼馴染です。結婚をやめるのは、私の意思です」
私は、アルゴ様に向かって、はっきりと言った。
「なんてことなの……。礼儀正しくて、奥ゆかしいご令嬢だと思っていたのに、そんな無礼な男にうつつをぬかしていたなんて……。失望したわ、キャロリーヌさん。アルゴ、こんなふしだらなご令嬢なんておやめなさい。自信を取り戻した今のあなたなら、もっと素敵なご令嬢を選べるわ。ルバーチ子爵様、慰謝料は後ほど請求しますから!」
ミルトン侯爵夫人がそう言った瞬間、ドンとテーブルをたたいたシャルル。
「はあ!? 誰がふしだらだって? キャロを自分たちの品位のない物差しで測るな! ふしだらなのはそっちだろう!」
シャルルは怒りのこもった声でそう言ったあと、自分のかばんから、何かをとりだした。
ばさっとテーブルに放り投げたのは、うすい冊子のようなもの。
お父様がすぐに手にとり、ぺらぺらとめくりながら、黙って目をとおしている。
どんどん眉間のしわが深くなった。
そして、冊子の一枚のページを開き、ミルトン侯爵夫人の前にたたきつけるようにして置いた。
「これは、どういうことですか? ご子息とミルトン侯爵夫人は娘をだましていたのですか?」
思わず、身をのりだして、そのページを見ると、報告書のような文字の下に一枚の写真が貼り付けてあった。
腕をくんで歩くアルゴ様と知らない女性。
え……?
なんだか、女性のおなかが大きいような……。
ミルトン侯爵夫人が、ばっと冊子をつかんだ。
「あなた、どうやってこれを調べたの!? 主人にすら気づかれていないことなのに!」
あせったようにシャルルに言い放ったあと、はっとしたように口をとじたミルトン侯爵夫人。
「つまり、事実なのですね、ミルトン侯爵夫人。説明していただきましょうか?」
お父様は冷たい声で言った。
お母様だけが取り残されたように、きょとんとしている。
「僕は、ただ、キャロリーヌのために……キャロリーヌにふさわしい男になるために、遊びで、その女とつきあったんだ! 向こうだって、遊びだって言ってたのに! それなのに、妊娠しやがって……。僕はだまされたんだ!」
「そ、……そうよ。アルゴは恋愛に慣れていなかったでしょう? キャロリーヌさんのために、女性に慣れようとしただけなの。そこに愛情なんてないのよ!」
え? 私のため……?
ふたりが言っていることの意味が全く理解できない……。
つまり、アルゴ様は浮気をしていたってことよね。
あ、違うわ。
私のことがお嫌いだから、そっちが本気なのか……。
それはどうでもいいけれど、ともかく、その女性との間に子どもができたのよね。
それがなんで私のためになるのかしら……?
「こんな汚い言い訳、キャロは聞かなくていい」
と、シャルル。
「汚いだと!?」
アルゴ様が、また叫ぶ。
「汚いね。キャロに隠れて、好き放題、遊んでたんだろう? で、無責任にも子どもができ、侯爵夫人に泣きついた。侯爵夫人がその女をかくまっている。結婚したあとに妾にする予定だと、その女の家族に言っているらしい」
「そうだったんですか? それなら、早く言ってくだされば良かったのに……。でも、これで、アルゴ様は愛する方と結婚できますね」
「キャロリーヌ、違うんだ! 僕が愛してるのは、キャロリーヌだけだ!」
「今更、そんな嘘をつかなくてもいいですよ、アルゴ様。私に会うたび、私を批判していたし。それに、その写真をみると、その女性とは腕を組んで外をあるいていらっしゃったみたいですけれど、私とは茶会も夜会も行かなかったくらい嫌っていたじゃないですか。まあ、私が何か気に障ることをしたんでしょうけれど……」
「違う! 僕がキャロリーヌとでかけなくなったのは……、僕がキャロリーヌにひけめを感じたからだ……」
「ひけめ……? 私に?」
アルゴ様の思ってもみなかった言葉に、思わず聞き返した私。
「婚約したばかりの時、夜会に行けば、みんながキャロリーヌを美しい、家が裕福だとほめた。そのあと、なんで、僕と婚約したんだろうって、いう目で僕を見た。兄と違って、出来の悪いミルトン侯爵家の次男とは、つりあってないっていう目で、みんな、僕を見るんだ! だから、僕はキャロリーヌとでかけるのをやめた。キャロリーヌに強くあたったのだって、僕が上にたっているようにみせないと、キャロリーヌが僕から逃げると思ったからだ。いろんな女と遊んだのだって、そうだ! 僕が自信をつけて、キャロリーヌにふさわしい男になるためだった! だから、あんな女、愛してなんかいない! 子どもができたから妾にしろと言われて、しょうがなくそうするだけなんだ! 僕はキャロリーヌと結婚したい!」
「そうよ、キャロリーヌさん。あの女性は平民で、アルゴとは結婚できない。ただ、子どもができてしまったから、妾にするしかないのよ。相手の女性も、どうやら、それを狙っていたみたいなの。アルゴはまんまと騙されただけ。でも、生まれてくる子どもはミルトン侯爵家の血をひいているのだから、放っておくわけにはいかないでしょう? もちろん、褒められたことではないけれど、貴族に妾がいるのは、よくあること。あなたのお父様みたいにね」
と、お父様に同意を求めるように視線を向けたミルトン侯爵夫人。
お父様はミルトン侯爵夫人を鋭い視線で見据えると、口を開いた。
「ミルトン侯爵夫人ともあろう方が、社交界の噂をうのみにされておられるのですな。私に妾がいたことはありませんが」
え……? お父様まで、何、嘘をついてるの?
と思ったら、お母様も驚いたようにお父様を見ている。
「お言葉ですが、ルバーチ子爵様。学園時代の恋人を、別邸に愛人として囲われているのは、貴族の間では有名なお話でしてよ?」
ミルトン侯爵夫人が鼻で笑った。
「別邸とは、下町の小さな家のことですか?」
「下町……?」
ミルトン侯爵夫人がいぶかしげに顔をしかめた。
「生粋の貴族であるミルトン侯爵夫人は下町など行ったこともないのでしょうね……。確かに、私は学生時代、ある女性と交際をしておりました。が、卒業後は行く道が違ったことで、きっぱりと縁は切れております。恥ずかしながら、子爵家とはいえ貧しかった私は、学生時代、あの女性のお父上に借金をして学んでおりました。その後、女性の家は不運が重なり平民になった。そのころの私はまだ力もなく、借金も、ご恩も返せなかったんです。その後、なんとか事業が軌道にのった。すぐに返済をしようとしましたが、お父上は亡くなられていた。そのため、その娘である女性に返済をしたのです。ちなみに、代理人を通して返済をしたため、その時も女性とは会っていません。その女性は私の返済金を足して、下町に一軒家を買ったと代理人から聞いております。もちろん、私はその家に伺ったこともない。つまり、私の別邸だと、社交界でおもしろおかしく噂されているのは、下町にある小さな一軒家で、その家に暮らしているのは、その女性とご主人とお子さんです」
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