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番外編
円徳寺 ラナ 11
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電話をとると、お母様は半狂乱で、私にすぐに病院にくるようにと言った。
が、泣きわめきながらしゃべるので、要領を得ない。
途中で、お父様に電話をかわった。
ルリが、学校の階段から落ちたらしい。
病院名を聞いて、あわてて、タクシーで病院に向かった。
案内されたところに、両親がいた。
お母様は祈るように手を組み、鬼気迫る顔で、ルリが治療してもらっている処置室の方をじっと見ている。
私が来たことにも、気が付いていないようだ。
「ルリの容態は?!」
と、お父様に聞いた。
「今は治療中で、詳しいことはわからない」
沈んだ表情で答えるお父様。
「お父様。さっきの電話で、ルリが階段から落ちたって言ったけれど、…一体、何があったんですか?」
「階段から突き落とされたんだ。同じクラスの女の子に」
「え?! 突き落とされた…? どうして…?」
「今、警察が事情を聞いている。はっきりはわからないが、ルリを突き落とした後、その女の子は、『彼氏をとられた、許せない』と泣きわめいていたらしい…」
お父様が苦々しい口調で言った。
「もしかして…それって、あの…」
思わず、昨日聞いたことを口にしかけて、あわてて、黙った。
お父様が鋭い視線で私を見た。
「ラナ。ルリから何か聞いてるのか?!」
「いえ…」
とりあえず、私は言葉を濁した。
ルリが彼女がいる人から彼氏をとって、デートの約束をしていた、なんて、お父様には、とても言えない。
つまり、ルリを突き落としたのは、ルリが今日デートをするはずだった相手の彼女だった可能性が高くない?
そう思ったとたん、鳥肌がたった。
リュウのことと重ねて、他人事とは思えなかった、その女の子のこと。
もしも、その人のように、完全にリュウをルリにとられて、結婚もルリとすることになったとしたら…。
私は一体どうする? ルリを許せる?
なにより、リュウとの結婚がなくなれば、二人で会社を継ぐこともなくなる。
ラナとしての大事な役目が果たせなくなる。
と、その時、お母様が、こっちを見た。
「嘘よ!」
と、叫んだ。
「ルリがそんなことをするはずないじゃない! ルリはかわいいから、勝手に好かれただけなんでしょう? 逆恨みもいいとこよ!」
「そうだな…。ルリは、そんなことはしない」
お父様が、お母様をなだめるように言った。
それから、お医者様に呼ばれて、説明を受けた。
骨折とかはしていないものの、ルリは頭をうっており、意識がまだ戻っておらず、予断を許さない状況だという。
それを聞いて、ショックを受けたお母様が倒れた。
「ラナ。すまないが、家に帰って、ルリの入院の準備をしてきてくれるか? これが必要な物だ。私は二人についている」
そう言って、病院から渡されたリストを手渡された。
「わかりました、お父様」
バタバタとした一日が終わったあと、私だけ、家に帰った。
そして、留学用の資料を前にして、考えた。いろんな理由をつけて、考えてみた。
でも、結論は同じ。
やっぱり行けない…。
こんな状況で、留学に行くことはできない。
結局、一睡もできず、翌朝、私は森野君に留学の申し込みを断るため電話をかけた。
森野君の番号は知っていても、電話をかけたことはなかったので、森野君は驚いていた。
が、だまって、私の話しを聞いてくれた後、優しい声で言った。
「留学の件は、わかった。残念だが、状況が状況だ。無理も言えない。それより、円徳寺は、大丈夫なのか?」
「うん」
「円徳寺は無理をしすぎるからな。無理をするな。どうせ、眠れてないんだろ? とにかく、食べて、寝ろ」
「うん」
「それと、留学のことは、またチャンスがある。あきらめるな」
「うん」
「あと、もうひとつ。自分のために生きることを忘れないでくれ。自分を犠牲にするな」
「……う…ん」
「おい、なんだ、その間は? 最後が一番大事だからな! 何があっても、絶対、忘れるなよ!」
森野君から励まされたあと、私は電話をきった。
そして、イギリス留学の資料を全て、ひきだしの奥深くにしまいこんだ。
翌日から、私は大学を休み、両親とともに、ルリの意識が戻るのを病院で待つ日々が続いた。
そして、階段から落とされて、ちょうど一週間がたった日、ルリの意識が戻った。
が、泣きわめきながらしゃべるので、要領を得ない。
途中で、お父様に電話をかわった。
ルリが、学校の階段から落ちたらしい。
病院名を聞いて、あわてて、タクシーで病院に向かった。
案内されたところに、両親がいた。
お母様は祈るように手を組み、鬼気迫る顔で、ルリが治療してもらっている処置室の方をじっと見ている。
私が来たことにも、気が付いていないようだ。
「ルリの容態は?!」
と、お父様に聞いた。
「今は治療中で、詳しいことはわからない」
沈んだ表情で答えるお父様。
「お父様。さっきの電話で、ルリが階段から落ちたって言ったけれど、…一体、何があったんですか?」
「階段から突き落とされたんだ。同じクラスの女の子に」
「え?! 突き落とされた…? どうして…?」
「今、警察が事情を聞いている。はっきりはわからないが、ルリを突き落とした後、その女の子は、『彼氏をとられた、許せない』と泣きわめいていたらしい…」
お父様が苦々しい口調で言った。
「もしかして…それって、あの…」
思わず、昨日聞いたことを口にしかけて、あわてて、黙った。
お父様が鋭い視線で私を見た。
「ラナ。ルリから何か聞いてるのか?!」
「いえ…」
とりあえず、私は言葉を濁した。
ルリが彼女がいる人から彼氏をとって、デートの約束をしていた、なんて、お父様には、とても言えない。
つまり、ルリを突き落としたのは、ルリが今日デートをするはずだった相手の彼女だった可能性が高くない?
そう思ったとたん、鳥肌がたった。
リュウのことと重ねて、他人事とは思えなかった、その女の子のこと。
もしも、その人のように、完全にリュウをルリにとられて、結婚もルリとすることになったとしたら…。
私は一体どうする? ルリを許せる?
なにより、リュウとの結婚がなくなれば、二人で会社を継ぐこともなくなる。
ラナとしての大事な役目が果たせなくなる。
と、その時、お母様が、こっちを見た。
「嘘よ!」
と、叫んだ。
「ルリがそんなことをするはずないじゃない! ルリはかわいいから、勝手に好かれただけなんでしょう? 逆恨みもいいとこよ!」
「そうだな…。ルリは、そんなことはしない」
お父様が、お母様をなだめるように言った。
それから、お医者様に呼ばれて、説明を受けた。
骨折とかはしていないものの、ルリは頭をうっており、意識がまだ戻っておらず、予断を許さない状況だという。
それを聞いて、ショックを受けたお母様が倒れた。
「ラナ。すまないが、家に帰って、ルリの入院の準備をしてきてくれるか? これが必要な物だ。私は二人についている」
そう言って、病院から渡されたリストを手渡された。
「わかりました、お父様」
バタバタとした一日が終わったあと、私だけ、家に帰った。
そして、留学用の資料を前にして、考えた。いろんな理由をつけて、考えてみた。
でも、結論は同じ。
やっぱり行けない…。
こんな状況で、留学に行くことはできない。
結局、一睡もできず、翌朝、私は森野君に留学の申し込みを断るため電話をかけた。
森野君の番号は知っていても、電話をかけたことはなかったので、森野君は驚いていた。
が、だまって、私の話しを聞いてくれた後、優しい声で言った。
「留学の件は、わかった。残念だが、状況が状況だ。無理も言えない。それより、円徳寺は、大丈夫なのか?」
「うん」
「円徳寺は無理をしすぎるからな。無理をするな。どうせ、眠れてないんだろ? とにかく、食べて、寝ろ」
「うん」
「それと、留学のことは、またチャンスがある。あきらめるな」
「うん」
「あと、もうひとつ。自分のために生きることを忘れないでくれ。自分を犠牲にするな」
「……う…ん」
「おい、なんだ、その間は? 最後が一番大事だからな! 何があっても、絶対、忘れるなよ!」
森野君から励まされたあと、私は電話をきった。
そして、イギリス留学の資料を全て、ひきだしの奥深くにしまいこんだ。
翌日から、私は大学を休み、両親とともに、ルリの意識が戻るのを病院で待つ日々が続いた。
そして、階段から落とされて、ちょうど一週間がたった日、ルリの意識が戻った。
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