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番外編
ムルダー王太子 23
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その時、いきなり、隣からガタッと音がした。
見ると、ルリが椅子をけって、立ちあがっている。
演技をしている時のか弱い表情とはまるで違う、ものすごい形相だ。
「ちょっと待ってください! 私は、ムルダー様とは結婚しません!」
ルリが焦ったように叫んだ。
なんだ。そんなことか…。
それなら、ぼくも同じ気持ちだ。
クリスティーヌがいないのに、ルリと婚姻を結ぶなんて意味がないし、したくもない。
ちょうど良かった。
父上が鋭い視線でルリを見た。
「どういう意味だ? 私がこの部屋に、おまえたち二人と大神官を呼び、二人の関係を問いただした時、そなたは言っておったではないか。婚約者がいることは知っていたが、どうしようもない。愛してしまった、だとかなんとか…。聞いているほうが恥じ入るような、軽々しい愛を口にしておっただろう? つまり、そなたは、長年ムルダーを支えてきたクリスティーヌという婚約者がいたのに、それを押しのけてでも婚約しようとした。そう思うほどに、ムルダーを愛しているのではなかったのか?」
「それは、ムルダー様が王太子様だったから! 王太子様じゃなくなるムルダー様なんて、愛せるわけありません! だって、王太子妃になれないなんて、話が違うし! だから、私はムルダー様と結婚なんてしません! 田舎で閉じ込められて暮らすなんて、絶対に嫌よ!」
そう言って、ぼくをにらんだ。
その顔にムカッときて、ぼくは、すぐに言い返した。
「こっちだって、ルリのことなんか、好きでもなんでもない。クリスティーヌがいたからこそ、価値があったのに。クリスティーヌがいなくなったら、ルリ自体には、まるで価値がない」
「なんですって! 顔だけ王子のくせに! それに、クリスティーヌ、クリスティーヌって、未練がましくて、気持ち悪いのよ! そんなに大事なクリスティーヌさんと婚約を解消して、私を王太子妃にするなんて残酷なことを言うから、ショックで死んだんじゃないの? それって、ムルダー様が自分で殺したようなもんよね!」
「黙れ! クリスティーヌは死んでない! それに、クリスティーヌのことを愛してるから側妃にしようとしただけだ。ルリの王太子妃なんてお飾りだ!」
「はあ? それこそ、意味わかんないんだけど?! バカじゃないの?!」
「バカだとはなんだ!」
「見苦しい!」
父上が怒号を放った。
あまりの剣幕に、ぼくもルリも黙り込んだ。
父上が苦々しい口調で言った。
「なるほど…。おまえたちは似ておる。自分のことばかりだな…。似合いの二人だ」
はあ? ぼくとルリが? こんな女と似ても似つかないし、似合いなんかではない!
と、言いそうになったが、父上の怒った顔をみて、その言葉をのみこんだ。
ピリピリとした空気のなか、場違いなほど、あでやかな笑みを浮かべたダグラス。
ぼくとルリに向かって、楽しそうに言った。
「おや、困りましたね。おふたりには仲良くしていただかないと…。無事にお飾りの王太子のお役目を終えたあとは、決して邪魔の入らない、おふたりだけで暮らせる素敵な屋敷をご用意するつもりですから」
何故か、ダグラスが、「素敵」という言葉を発した時、体が震えた。
素敵という言葉に、これほど、ぞっとしたことはない。
しかも、決して邪魔の入らない、ふたりだけで暮らす屋敷って…、どういう意味だ?
とにかく、ダグラスは信用ならない。それどころか、危険だ…。
思わず、ルリを見た。今まさに、ぼくと同様に、ダグラスからの脅威にさらされているからだ。
が、ルリの視線は、ダグラスに釘付けになっている。
あの、妖しい笑みにやられてしまっているのか、とろけたように見つめている。
目の前の敵を察知することもできないなんて、ルリのほうこそバカだろう…。
※ 更新時間がまちまちで、すみません!!
読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、エール、ご感想も本当にありがとうございます! 大変、励みになります!
見ると、ルリが椅子をけって、立ちあがっている。
演技をしている時のか弱い表情とはまるで違う、ものすごい形相だ。
「ちょっと待ってください! 私は、ムルダー様とは結婚しません!」
ルリが焦ったように叫んだ。
なんだ。そんなことか…。
それなら、ぼくも同じ気持ちだ。
クリスティーヌがいないのに、ルリと婚姻を結ぶなんて意味がないし、したくもない。
ちょうど良かった。
父上が鋭い視線でルリを見た。
「どういう意味だ? 私がこの部屋に、おまえたち二人と大神官を呼び、二人の関係を問いただした時、そなたは言っておったではないか。婚約者がいることは知っていたが、どうしようもない。愛してしまった、だとかなんとか…。聞いているほうが恥じ入るような、軽々しい愛を口にしておっただろう? つまり、そなたは、長年ムルダーを支えてきたクリスティーヌという婚約者がいたのに、それを押しのけてでも婚約しようとした。そう思うほどに、ムルダーを愛しているのではなかったのか?」
「それは、ムルダー様が王太子様だったから! 王太子様じゃなくなるムルダー様なんて、愛せるわけありません! だって、王太子妃になれないなんて、話が違うし! だから、私はムルダー様と結婚なんてしません! 田舎で閉じ込められて暮らすなんて、絶対に嫌よ!」
そう言って、ぼくをにらんだ。
その顔にムカッときて、ぼくは、すぐに言い返した。
「こっちだって、ルリのことなんか、好きでもなんでもない。クリスティーヌがいたからこそ、価値があったのに。クリスティーヌがいなくなったら、ルリ自体には、まるで価値がない」
「なんですって! 顔だけ王子のくせに! それに、クリスティーヌ、クリスティーヌって、未練がましくて、気持ち悪いのよ! そんなに大事なクリスティーヌさんと婚約を解消して、私を王太子妃にするなんて残酷なことを言うから、ショックで死んだんじゃないの? それって、ムルダー様が自分で殺したようなもんよね!」
「黙れ! クリスティーヌは死んでない! それに、クリスティーヌのことを愛してるから側妃にしようとしただけだ。ルリの王太子妃なんてお飾りだ!」
「はあ? それこそ、意味わかんないんだけど?! バカじゃないの?!」
「バカだとはなんだ!」
「見苦しい!」
父上が怒号を放った。
あまりの剣幕に、ぼくもルリも黙り込んだ。
父上が苦々しい口調で言った。
「なるほど…。おまえたちは似ておる。自分のことばかりだな…。似合いの二人だ」
はあ? ぼくとルリが? こんな女と似ても似つかないし、似合いなんかではない!
と、言いそうになったが、父上の怒った顔をみて、その言葉をのみこんだ。
ピリピリとした空気のなか、場違いなほど、あでやかな笑みを浮かべたダグラス。
ぼくとルリに向かって、楽しそうに言った。
「おや、困りましたね。おふたりには仲良くしていただかないと…。無事にお飾りの王太子のお役目を終えたあとは、決して邪魔の入らない、おふたりだけで暮らせる素敵な屋敷をご用意するつもりですから」
何故か、ダグラスが、「素敵」という言葉を発した時、体が震えた。
素敵という言葉に、これほど、ぞっとしたことはない。
しかも、決して邪魔の入らない、ふたりだけで暮らす屋敷って…、どういう意味だ?
とにかく、ダグラスは信用ならない。それどころか、危険だ…。
思わず、ルリを見た。今まさに、ぼくと同様に、ダグラスからの脅威にさらされているからだ。
が、ルリの視線は、ダグラスに釘付けになっている。
あの、妖しい笑みにやられてしまっているのか、とろけたように見つめている。
目の前の敵を察知することもできないなんて、ルリのほうこそバカだろう…。
※ 更新時間がまちまちで、すみません!!
読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
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