上 下
16 / 121
番外編

ムルダー王太子 7

しおりを挟む
ぼくの手をにぎる聖女の顔は、愛らしいが子どもっぽい。
クリスティーヌの美貌とは比べものにならない。

なのに、強烈にひかれる。
この手を離したくない。なぜだ…?

神官があわてたように声をあげた。
「聖女様、手をお離しください! 王太子殿下のお手に勝手に触るなど…」

「あ、ごめんなさい。…でも、私、すごく、心細かったから…」
そう言って、聖女は、潤んだ漆黒の瞳で、ぼくを見上げてきた。

ぼくは、聖女に手をにぎられたまま、神官に言った。
「聖女がおびえている。話をするから、君は、後ろに下がってて」

「…はい」
一瞬、何か言いたそうな顔をしたが、神官は、壁際まで下がった。

その瞬間、少女が、とろけるような声でささやいた。

「あの…、私は、ルリって言います。ルリって呼んでください」

「ルリ…」

「はい! あの…、王太子様のお名前も教えていただけますか…?」

「ムルダーだ」

「ムルダー様…。私、…いきなり、知らない世界にきて…だれも知らなくて…怖いの! お願い、そばにいて…?」
そう言って、触れたら折れそうな華奢な体を、あからさまにすりよせてきた。

鼓動は更に早くなったのに、ここまでされると、逆に頭が冷えた。

すると、この聖女のぼくを見上げる目が、決して、かよわくないことがわかった。
クリスティーヌのように、清廉ではないことも。

目的のために、演じている…。

そのとたん、「ねえ、クリスティーヌ。ぼくはどうしたらいい?」と、ぼくが使っていた言葉が頭に浮かんだ。

ああ、聖女は、ぼくと同じなんだ…。

「聖女様っ!」
壁際にいる神官が、ぼくに体を寄せた聖女を見て、悲鳴のような声をあげる。

まあ、神官が驚くのもわかる。

王太子のぼくに、こんなことをしてくる令嬢はいないからね。
もちろん、クリスティーヌも、こんなことは絶対にしない。

そう思った瞬間、気が付いた。

ふたりは真逆なんだってことにね。 

つまり、クリスティーヌは清く、ルリは濁ってる…。
が、その濁りがぼくをひきつけるんだ。ぼくと同じ匂いがするから。

クリスティーヌは、ぼくにないものばかりを持っている、輝く存在。

そのクリスティーヌでは埋まらない、ぼくの、ほの暗いところを、ルリなら埋めてくれるかも…。

ぼくは、ひときわ優しく、ルリに微笑んだ。

「わかったよ、ルリ。心配しないで。ぼくがそばにいるからね」



翌日も神殿に向かった。

すると、いつもと違って、神殿の中が、ざわざわしている。

「何かあったのか?」

「聖女様が、奇跡をおこされたのです!」

ぼくの問いかけに、神官が頬を紅潮させて答えた。

「奇跡…? 一体、何をしたんだ?」 

「それは、私からは言えません。今、聖女様は大神官様とご一緒におられます。案内させていただきます。どうぞ、こちらへ」
そう言って、連れて行かれたのは、祭壇の前。

そこには、大神官や神官たちに取り囲まれているルリがいた。
どうやら、口々に賞賛されているようで、満面の笑みを浮かべているルリ。

ルリは、ぼくを目にしたとたん、「ムルダー様!」そう言って、手をふった。

大神官は挨拶もそこそこに、興奮気味にぼくに語りだす。

「聖女様は、高熱が続き、危ない状態だった神官に、異世界の薬を使って治療してくださったのです。すると、一晩で熱がさがりました! やはり、私の見立てどおり、ルリ様は、まごうことなき聖女様でいらっしゃいます!」
と、自慢げに言う大神官。

いつの間にか、ぼくの隣に立ったルリ。
「ルリ、君はやっぱり聖女なんだね?」

ルリは、その問いには答えず、ただ、嬉しそうに微笑んだ。





※ 読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださっている方、ありがとうございます!
お気に入り登録、エール、ご感想もありがとうございます! 大変、励みになります!

王太子だけでなく、ルリも登場。イライラが増してしまったら、申し訳ないです!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 本作の感想欄を開けました。 お返事等は書ける時間が取れそうにありませんが、感想頂けたら嬉しいです。 賞を頂いた記念に、何かお礼の小話でもアップできたらいいなと思っています。 リクエストありましたらそちらも書いて頂けたら、先着三名様まで受け付けますのでご希望ありましたら是非書いて頂けたら嬉しいです。

裏切りのその後 〜現実を目の当たりにした令嬢の行動〜

AliceJoker
恋愛
卒業パーティの夜 私はちょっと外の空気を吸おうとベランダに出た。 だがベランダに出た途端、私は見てはいけない物を見てしまった。 そう、私の婚約者と親友が愛を囁いて抱き合ってるとこを… ____________________________________________________ ゆるふわ(?)設定です。 浮気ものの話を自分なりにアレンジしたものです! 2つのエンドがあります。 本格的なざまぁは他視点からです。 *別視点読まなくても大丈夫です!本編とエンドは繋がってます! *別視点はざまぁ専用です! 小説家になろうにも掲載しています。 HOT14位 (2020.09.16) HOT1位 (2020.09.17-18) 恋愛1位(2020.09.17 - 20)

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...