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質問
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「ルド君に屋敷内を案内してあげなさい」
緊張するルドを見かねて、お父様が私に言った。
案内をかねて、話しをしなさいということだろう。
まあ、ほぼ初対面で、お互いのことは何も知らないしね。
応接室をでると、私の後ろにぴったりとついてくるルド。
私も背は高くはないけれど、その私とあまり変わらないくらいの身長。
しかも、押したら倒れそうなほど華奢だ。
真っ白な肌に、少したれた大きな目。
女の子みたいな、かわいらしい顔をしている。
しかも、歩いていると、くせ毛の赤い髪の毛がふわふわと揺れ動く。
なんというか、かよわそうな小動物に懐かれてしまった感じ…。
私が守らねばと、騎士精神がむくむくわいてくる。
屋敷の中を歩きながら、ルドにひとつめの質問をなげかける。
「ルドは、いくつなの? あ、私は13歳ね」
「ぼくは、16歳です…」
恥ずかしそうに答えるルド。
「ええ?! ほんとに?!」
なんと、私よりも3歳も年上だった。
しかも、16歳ってアール兄様と同じ年!
なにからなにまで、まるで違う。うん、信じられない…。
とりあえず、気をとりなおして次の質問。
「得意なことと、苦手なことは何?」
「ええと、…得意なことは、計算です。苦手なことは、…運動です…」
うん、なるほど。そして、私とは真逆だね…。
私は立ち止まって、ルドを真正面から見た。
「あのね、私は騎士を目指してるから、学園以外は、だいたい、剣の稽古をしてるの。だから、従者になってもらっても、ほぼルドの苦手な運動の場面ばっかり見ることになるよ? それでも大丈夫? 商会のお仕事をしていたほうが向いてそうなんだけど…」
すると、あわてて、ルドが頭を横にふった。
「自分が運動するのは苦手だから、剣のお相手はできませんが、マチルダ様の剣のお稽古は見たいです! 快適に励んでいただけるように、精一杯、お手伝いさせていただきます! だから、従者として、お傍においてください…。お願いします…」
そう言って、私を見る目が、またうるんでいる。
そんな顔をされたら、本当に断れない…。
「はあ…、ルドがそれでいいのなら…」
「はいっ! ありがとうございます、マチルダ様!」
と、いいお返事が返ってきた。
じゃあ次は、一番、気になっていることを聞いてみよう。
「さっき、ルドのお父様が、ルドは事情があって、人を怖がるって言ってたよね? その事情って、教えてもらえたりする? ほら、私って、あまり気を使えるタイプじゃないから、知らないうちに、ルドの嫌がることをしたら悪いし。知っていれば、気をつけられるかなあって…。あ、でも、話したくなかったら、いいんだけど」
すると、ルドは首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。 話したくないわけじゃないんです。ただ、ぼくの事情は変わってて…。信じてもらえるかどうかわかりませんが、言います…。…あの、ぼく、人に見えないものが見えるんです」
「人に見えないもの…。あっ、まさか、幽霊?!」
思わず、ぞわっとして、体をふるわす。
「あ、いえ、違います。幽霊は見たことなくて…」
「あー、良かった! 今、背後にいます、なーんて言われたら、申し訳ないけれど、従者にするのはお断りだったかも。私ね、幽霊だけは怖いんだよね…。だから、一生見たくないし、いたとしても、存在を知らないままでいたいから」
「なら、もし幽霊がでたら、ぼく、幽霊の嫌がることを調べて、マチルダ様の近くによらないように追い払います! ぼく、人は怖いけれど、幽霊は怖くないと思うから…」
「へえ…、その時はよろしくね。…って、いや、その時は、絶対にきてほしくないけどね?!」
私があわてて言うと、ルドが、クスクスと笑った。
なんだか、笑い声もかわいい。
小動物のような感じで、庇護欲をそそられるよね…。
それにしても、やっぱり、大声で大男のアール兄様と同じ年とは思えないわ…。
なんというか、種族すら違う感じ。全く違う16年を生きてきたんだね…。
「じゃあ、幽霊じゃなかったら、ルドは何が見えるの?」
と、改めて聞いてみる。
「…色です。人がまとう色が見えるんです」
「人がまとう色?!」
「はい。それに、色をとおして、その人の気持ちが伝わってくるんです。明るい色なら嬉しそう、激しい色なら怒ってる、寂しい色なら悲しそうとか…。たとえば、顔で笑っていても、色をみると、すごく嫌がってたりとか、わかってしまうんです。顔の表情や言葉と、まとう色があわない人って結構いるから…。幼い頃、ぼくは、それで混乱して怖くなって、人に会うのを避けるようになったんです…」
「確かに、それなら怖くなると思う。知りたくないことを知ってしまうんだもんね…。あ、そうだ。じゃあ、私の色は何? 私のことは怖くないの?!」
と、聞いてみた。
「それが…、マチルダ様は、色がないんです」
「えっ?! 色がないの?! なんだか、それもびっくりだね?」
きれいな色だったら嬉しいなと思ったので、若干、がっかりしてしまう。
「うーん、色がないというより、澄みきった、透明って感じです。だから、ぼくは安心するんです。だって、マチルダ様は見たまんまの方だから」
そう言って、ルドがはじらいながら、乙女のように微笑んだ。
ん? そのまんま…?
つまり、私は、単純だってこと? いや、でも、ルドが安心するって言ったから、褒められてるんだよね?!
緊張するルドを見かねて、お父様が私に言った。
案内をかねて、話しをしなさいということだろう。
まあ、ほぼ初対面で、お互いのことは何も知らないしね。
応接室をでると、私の後ろにぴったりとついてくるルド。
私も背は高くはないけれど、その私とあまり変わらないくらいの身長。
しかも、押したら倒れそうなほど華奢だ。
真っ白な肌に、少したれた大きな目。
女の子みたいな、かわいらしい顔をしている。
しかも、歩いていると、くせ毛の赤い髪の毛がふわふわと揺れ動く。
なんというか、かよわそうな小動物に懐かれてしまった感じ…。
私が守らねばと、騎士精神がむくむくわいてくる。
屋敷の中を歩きながら、ルドにひとつめの質問をなげかける。
「ルドは、いくつなの? あ、私は13歳ね」
「ぼくは、16歳です…」
恥ずかしそうに答えるルド。
「ええ?! ほんとに?!」
なんと、私よりも3歳も年上だった。
しかも、16歳ってアール兄様と同じ年!
なにからなにまで、まるで違う。うん、信じられない…。
とりあえず、気をとりなおして次の質問。
「得意なことと、苦手なことは何?」
「ええと、…得意なことは、計算です。苦手なことは、…運動です…」
うん、なるほど。そして、私とは真逆だね…。
私は立ち止まって、ルドを真正面から見た。
「あのね、私は騎士を目指してるから、学園以外は、だいたい、剣の稽古をしてるの。だから、従者になってもらっても、ほぼルドの苦手な運動の場面ばっかり見ることになるよ? それでも大丈夫? 商会のお仕事をしていたほうが向いてそうなんだけど…」
すると、あわてて、ルドが頭を横にふった。
「自分が運動するのは苦手だから、剣のお相手はできませんが、マチルダ様の剣のお稽古は見たいです! 快適に励んでいただけるように、精一杯、お手伝いさせていただきます! だから、従者として、お傍においてください…。お願いします…」
そう言って、私を見る目が、またうるんでいる。
そんな顔をされたら、本当に断れない…。
「はあ…、ルドがそれでいいのなら…」
「はいっ! ありがとうございます、マチルダ様!」
と、いいお返事が返ってきた。
じゃあ次は、一番、気になっていることを聞いてみよう。
「さっき、ルドのお父様が、ルドは事情があって、人を怖がるって言ってたよね? その事情って、教えてもらえたりする? ほら、私って、あまり気を使えるタイプじゃないから、知らないうちに、ルドの嫌がることをしたら悪いし。知っていれば、気をつけられるかなあって…。あ、でも、話したくなかったら、いいんだけど」
すると、ルドは首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。 話したくないわけじゃないんです。ただ、ぼくの事情は変わってて…。信じてもらえるかどうかわかりませんが、言います…。…あの、ぼく、人に見えないものが見えるんです」
「人に見えないもの…。あっ、まさか、幽霊?!」
思わず、ぞわっとして、体をふるわす。
「あ、いえ、違います。幽霊は見たことなくて…」
「あー、良かった! 今、背後にいます、なーんて言われたら、申し訳ないけれど、従者にするのはお断りだったかも。私ね、幽霊だけは怖いんだよね…。だから、一生見たくないし、いたとしても、存在を知らないままでいたいから」
「なら、もし幽霊がでたら、ぼく、幽霊の嫌がることを調べて、マチルダ様の近くによらないように追い払います! ぼく、人は怖いけれど、幽霊は怖くないと思うから…」
「へえ…、その時はよろしくね。…って、いや、その時は、絶対にきてほしくないけどね?!」
私があわてて言うと、ルドが、クスクスと笑った。
なんだか、笑い声もかわいい。
小動物のような感じで、庇護欲をそそられるよね…。
それにしても、やっぱり、大声で大男のアール兄様と同じ年とは思えないわ…。
なんというか、種族すら違う感じ。全く違う16年を生きてきたんだね…。
「じゃあ、幽霊じゃなかったら、ルドは何が見えるの?」
と、改めて聞いてみる。
「…色です。人がまとう色が見えるんです」
「人がまとう色?!」
「はい。それに、色をとおして、その人の気持ちが伝わってくるんです。明るい色なら嬉しそう、激しい色なら怒ってる、寂しい色なら悲しそうとか…。たとえば、顔で笑っていても、色をみると、すごく嫌がってたりとか、わかってしまうんです。顔の表情や言葉と、まとう色があわない人って結構いるから…。幼い頃、ぼくは、それで混乱して怖くなって、人に会うのを避けるようになったんです…」
「確かに、それなら怖くなると思う。知りたくないことを知ってしまうんだもんね…。あ、そうだ。じゃあ、私の色は何? 私のことは怖くないの?!」
と、聞いてみた。
「それが…、マチルダ様は、色がないんです」
「えっ?! 色がないの?! なんだか、それもびっくりだね?」
きれいな色だったら嬉しいなと思ったので、若干、がっかりしてしまう。
「うーん、色がないというより、澄みきった、透明って感じです。だから、ぼくは安心するんです。だって、マチルダ様は見たまんまの方だから」
そう言って、ルドがはじらいながら、乙女のように微笑んだ。
ん? そのまんま…?
つまり、私は、単純だってこと? いや、でも、ルドが安心するって言ったから、褒められてるんだよね?!
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