31 / 59
3.新天地
⑨
しおりを挟む
「ごめんごめん。そうだよね、シリウス。先に報酬を提示するべきだったね」
「ルークさん、私はそんな……」
「一週間につき金貨一枚でどうかな? 少ない?」
「金貨……!? 一週間で……!?」
私が今まで目にしたことのあるお金は、神殿の奉仕活動に行ったときにお礼としてもらった銅貨くらいだ。金貨なんて見たこともない。
銅貨は使う機会がなく長年ただ貯めるだけだったので、ここまでの旅はそれで何とかなったけれど、近いうちになくなるだろうとは思っていた。
しかし金貨が一枚あれば、しばらく旅を続けるのに困らないのではないか。
「金貨なんて……もらうわけには……」
「それとセラちゃん、旅をしてきたって言ってよね。泊る場所はある? 見ての通りこの町には今営業している宿はないけど、よかったら隣町の宿まで案内するよ。宿代はもちろん魔術師団から出す。当然隣町までの送迎もする」
「そんな……! そこまでしてもらうわけには!」
私がおろおろしていると、シリウスは私の肩から言う。
『ありがたく受け取っちゃいなよ。お金と宿があればラピシェル帝国でやっていけそうじゃん』
「でも、いいのかしら」
『いいに決まってるだろ。セラの能力にはそれだけの価値があるってこと。サフェリア王国の奴らは誰も気づいてなかったけど』
迷う私に、シリウスがきっぱりと言う。
ルークさんは私の方に笑顔を向けた。
「遠慮せずに受け取って欲しいな。セラちゃんに協力してもらえたらすごく助かるんだ」
「私でお役に立てるでしょうか……」
「うん。セラちゃんの力が必要なんだ」
ルークさんの言葉が真っ直ぐ胸に響く。
本当に私で、そんな報酬をもらえるほど役に立てるだろうか。祖国で言われ続けてきた出来損ないという言葉がぐるぐる頭を巡る。
けれど、気がついたら私の口から言葉がこぼれ落ちていた。
「ぜひ、協力させてください……!」
「引き受けてくれる!? ありがとう、セラちゃん!」
私の答えに、ルークさんはぱっと笑顔になった。
ちゃんとできるかどうかはわからないけれど、やれるだけやってみよう。
私の心には、今までよりずっと前向きな気持ちが満ちていた。
「ルークさん、私はそんな……」
「一週間につき金貨一枚でどうかな? 少ない?」
「金貨……!? 一週間で……!?」
私が今まで目にしたことのあるお金は、神殿の奉仕活動に行ったときにお礼としてもらった銅貨くらいだ。金貨なんて見たこともない。
銅貨は使う機会がなく長年ただ貯めるだけだったので、ここまでの旅はそれで何とかなったけれど、近いうちになくなるだろうとは思っていた。
しかし金貨が一枚あれば、しばらく旅を続けるのに困らないのではないか。
「金貨なんて……もらうわけには……」
「それとセラちゃん、旅をしてきたって言ってよね。泊る場所はある? 見ての通りこの町には今営業している宿はないけど、よかったら隣町の宿まで案内するよ。宿代はもちろん魔術師団から出す。当然隣町までの送迎もする」
「そんな……! そこまでしてもらうわけには!」
私がおろおろしていると、シリウスは私の肩から言う。
『ありがたく受け取っちゃいなよ。お金と宿があればラピシェル帝国でやっていけそうじゃん』
「でも、いいのかしら」
『いいに決まってるだろ。セラの能力にはそれだけの価値があるってこと。サフェリア王国の奴らは誰も気づいてなかったけど』
迷う私に、シリウスがきっぱりと言う。
ルークさんは私の方に笑顔を向けた。
「遠慮せずに受け取って欲しいな。セラちゃんに協力してもらえたらすごく助かるんだ」
「私でお役に立てるでしょうか……」
「うん。セラちゃんの力が必要なんだ」
ルークさんの言葉が真っ直ぐ胸に響く。
本当に私で、そんな報酬をもらえるほど役に立てるだろうか。祖国で言われ続けてきた出来損ないという言葉がぐるぐる頭を巡る。
けれど、気がついたら私の口から言葉がこぼれ落ちていた。
「ぜひ、協力させてください……!」
「引き受けてくれる!? ありがとう、セラちゃん!」
私の答えに、ルークさんはぱっと笑顔になった。
ちゃんとできるかどうかはわからないけれど、やれるだけやってみよう。
私の心には、今までよりずっと前向きな気持ちが満ちていた。
2,556
お気に入りに追加
5,995
あなたにおすすめの小説
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
貴方を愛する事はありません、絶対に
ひよこ1号
恋愛
男爵令嬢のクララは、伯爵令息との婚約を邪魔されて、ある醜聞塗れの侯爵の愛人にされてしまう。耐え忍ぶ日々に、救いの天使が現れた。※視点はクララ、ダニエル、シェリーで切り替わりますので、苦手な方はご注意を。※短編「愛する事はないと言ってくれ」https://www.alphapolis.co.jp/novel/556320410/970881015/episode/8394041の続編ですが、単体でもお読み頂けると思います。※相変わらずダニエルは屑ですのでご注意下さい
ストップ!おっさん化~伯爵夫人はときめきたい~
緋田鞠
恋愛
【完結】「貴方の存在を、利用させて頂きたいのです。勿論、相応のお礼は致します」。一人で参加していた夜会で、謎の美青年貴族コンラートに、そう声を掛けられた伯爵夫人ヴィヴィアン。ヴィヴィアンは、恋愛結婚が主流の国で、絵に描いたような政略結婚をして以来、夫に五年間、放置されていた。このままでは、女として最も輝く時期を捨てる事になり、将来的には身も心も枯れ果て、性別不明おっさん風味になってしまう。心の潤いを取り戻す為に、『ドキドキして』、『ときめいて』、『きゅんっとする』事を探していたヴィヴィアンは、コンラートと互いの目的の為に手を組む事に。果たして、コンラートの目的とは?ヴィヴィアンは、おっさん化回避出来るのか?
婚約者と親友に裏切られた伯爵令嬢は侯爵令息に溺愛される
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のマーガレットは、最近婚約者の伯爵令息、ジェファーソンの様子がおかしい事を気にして、親友のマリンに日々相談していた。マリンはいつも自分に寄り添ってくれる大切な親友だと思っていたマーガレット。
でも…
マリンとジェファーソンが密かに愛し合っている場面を目撃してしまう。親友と婚約者に裏切られ、マーガレットは酷くショックを受ける。
不貞を働く男とは結婚できない、婚約破棄を望むマーガレットだったが、2人の不貞の証拠を持っていなかったマーガレットの言う事を、誰も信じてくれない。
それどころか、彼らの嘘を信じた両親からは怒られ、クラスメイトからは無視され、次第に追い込まれていく。
そんな中、マリンの婚約者、ローインの誕生日パーティーが開かれることに。必ず参加する様にと言われたマーガレットは、重い足取りで会場に向かったのだが…
飽きたと捨てられましたので
編端みどり
恋愛
飽きたから義理の妹と婚約者をチェンジしようと結婚式の前日に言われた。
計画通りだと、ルリィは内心ほくそ笑んだ。
横暴な婚約者と、居候なのに我が物顔で振る舞う父の愛人と、わがままな妹、仕事のフリをして遊び回る父。ルリィは偽物の家族を捨てることにした。
※7000文字前後、全5話のショートショートです。
※2024.8.29誤字報告頂きました。訂正しました。報告不要との事ですので承認はしていませんが、本当に助かりました。ありがとうございます。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
せっかくの婚約ですが、王太子様には想い人がいらっしゃるそうなので身を引きます。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるリルティアは、王太子である第一王子と婚約をしていた。
しかしある時、彼がある令嬢と浮気している現場を目撃してしまった。
リルティアが第一王子を問い詰めると、彼は煮え切らない言葉を返してきた。
彼は浮気している令嬢を断ち切ることも、妾として割り切ることもできないというのだ。
それ所か第一王子は、リルティアに対して怒りを向けてきた。そんな彼にリルティアは、呆れることしかできなかった。
それからどうするべきか考えていたリルティアは、第二王子であるイルドラと顔を合わせることになった。
ひょんなことから悩みを見抜かれたリルティアは、彼に事情を話すことになる。すると新たな事実を知ることになったのである。
第一王子は、リルティアが知る令嬢以外とも関係を持っていたのだ。
彼はリルティアが思っていた以上に、浮気性な人間だったのである。
そんな第一王子のことを、リルティアは切り捨てることに決めた。彼との婚約を破棄して、あらたなる道を進むことを、彼女は選んだのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる