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1.殿下のために死んだことにします

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 私は確かに毎日日が昇る前に王宮内にある塔に上って精霊に力を送り続けている。

 けれどそんなこと、アメリア様が成し遂げてきた数々の偉業に比べれば何かやっているうちにも入らない。

 精霊に力を送れるだけの私と違い、アメリア様は精霊に命令して自在に操ることができる。

 彼女のおかげでサフェリア王国はどんなに潤ったかわからないのだ。


 アメリア様を次期王妃にと思うのは、何もおかしなことではない。

 しかし、私のために怒ってくれるシリウスの気持ちが嬉しくて、その小さなふわふわの頭を撫でた。


「ありがとう、シリウス。でも、私本当にエリオット様たちの言うことは間違っていないと思うの。アメリア様の方が私よりもずっと王妃にふさわしいもの。私がいるせいでたくさんの人が困っていて申し訳ないわ……」

『セラ、冷静になりなよ。本当にセラがいらなかったら、あの性格の悪い王子とアメリアとか言う女が城に置いたままにするはずないだろ? あいつらはセラをうまく利用しながら、本当はお前などいらないんだと言いくるめて、洗脳しようとしてるんだよ』

 シリウスは長いしっぽを威嚇するように振りながら険しい顔で言う。


「シリウスは優しいのね。私を励ましてくれるの?」

『いや、そうじゃなくて。大体、セラが精霊を見えないことを知って婚約者に選んだのはエリオット自身じゃないか。それを今さらになってセラのせいで新しい女と婚約できないとか言ってどこまでわがままなんだよ、あいつ』

「いいのよ、シリウス。私はシリウスがいるおかげで毎日幸せだもの」

 そう言ってふわふわの頬に頬ずりしたら、シリウスの怒り顔が気持ちよさそうに緩む。

 それでもシリウスは、にゃあにゃあ文句を言っていたけれど、頬ずりして頭を撫で続けたら大人しくなった。


 シリウスはいつも心配してくれるけれど、エリオット様の暮らす王宮で慎ましいながらにも平和に暮らし、シリウスと一緒にいられる毎日は、私にとってとても幸せな日々だった。

 王宮に来る前の私は、みんなから見捨てられ、何の希望もない日々を過ごしていたから。
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