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13.これからも
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「それで、シャーリー。一体何があったのか教えてくれないか?」
ヴィンセントの部屋に戻り、ソファに向かい合って腰掛けると、彼はさっそく口を開いた。私はこくんとうなずく。
「はい、私にもわけがわからないことばかりなんですけれど、起こったままに話しますね」
私は自分に起こったことをありのままに話した。
神官テレンスが奴隷売買に手を染めていると知り、止めるために組織の人間に近づいたこと。しかし、それが原因で冤罪を吹っ掛けられたこと。
それから確かに処刑されて死んだはずだったのに、気が付くと森の中で寝ていて、幼女に姿が変わっていたこと。
今日は神殿でヘレン達から、グレースの死体が影になったという話を聞いて気になったので、何かヒントはないかと処刑が行われた広場まで行ったら、なぜだか体が痛みだして突然グレースの姿に戻ったことなどを話した。
ヴィンセントは話を聞いている間、ずっと強張った顔をしていた。
私が話し終えても、しばらくずっと口を開かない。
「……それは、本当の話なのか……?」
やっと口を開いたヴィンセントは、かすれた声で言う。私はうなずいた。
「はい。信じられないでしょうけれど、確かに起こったことなんです」
きっぱりとそう告げる。
ヴィンセントは言葉を発しないまま、俯いてしまった。そうしてやっと顔を上げたかと思うと、突然立ち上がって私を抱え上げた。
「グレース様……! いわれのない罪で処刑されるなんて、そんなひどい目に遭っていたなんて……!」
「え?」
ヴィンセントは私をぎゅうぎゅう抱きしめたまま、ぼろぼろ涙をこぼす。さっきまでのぎこちなさはどこかへ消えていた。
「ヴィンセント様、それは別にもう構わないのですが……」
「なぜそんなことをおっしゃるのですか!? あなたは人々を助けようとしたにも関わらず、侮蔑の言葉を投げつけられて殺されたのですよ!? 私は絶対に許せません!」
ヴィンセントは私の目を真っ直ぐ見つめて、真剣な顔で言う。口調がグレースに対するものに戻っていた。
怒ってくれるのはありがたいけれど、私は別にもう気にしていないのだ。テレンスは無事、神官の職から退かせられたし、マイラのことも街を追い出した上で脅しておいたし。
「ヴィンセント様、そんなに怒ってくれなくても、私は……」
「けれど一番許せないのは私自身です。グレース様がお優しい方なのはわかっていたのに、噂を鵜呑みにしてあなたが罪を犯したと信じてしまったなんて……! 何とお詫びしたらいいのかわかりません……!」
ヴィンセントは顔を歪め、悲痛な声で言う。
私はなんだか困ってしまった。仕方なく、落ち込みきっているヴィンセントの頭に手をやって撫でてあげる。ヴィンセントの肩が驚いたようにぴくりと跳ねた。
「グレース様……?」
「いいですよ。グレースの姿で会ったのは一度きりですもの。信じてしまうのは仕方ありませんわ。それよりも、私が罪人だと聞いても悪く思わないでいてくれたこと、嬉しかったです」
ヴィンセントのサラサラしたホワイトブロンドの髪を撫でながら言うと、彼は言葉を止め、やがて押し殺したような嗚咽を漏らし始めた。まるでヴィンセントのほうが子供みたいだ。
「それで、シャーリー。一体何があったのか教えてくれないか?」
ヴィンセントの部屋に戻り、ソファに向かい合って腰掛けると、彼はさっそく口を開いた。私はこくんとうなずく。
「はい、私にもわけがわからないことばかりなんですけれど、起こったままに話しますね」
私は自分に起こったことをありのままに話した。
神官テレンスが奴隷売買に手を染めていると知り、止めるために組織の人間に近づいたこと。しかし、それが原因で冤罪を吹っ掛けられたこと。
それから確かに処刑されて死んだはずだったのに、気が付くと森の中で寝ていて、幼女に姿が変わっていたこと。
今日は神殿でヘレン達から、グレースの死体が影になったという話を聞いて気になったので、何かヒントはないかと処刑が行われた広場まで行ったら、なぜだか体が痛みだして突然グレースの姿に戻ったことなどを話した。
ヴィンセントは話を聞いている間、ずっと強張った顔をしていた。
私が話し終えても、しばらくずっと口を開かない。
「……それは、本当の話なのか……?」
やっと口を開いたヴィンセントは、かすれた声で言う。私はうなずいた。
「はい。信じられないでしょうけれど、確かに起こったことなんです」
きっぱりとそう告げる。
ヴィンセントは言葉を発しないまま、俯いてしまった。そうしてやっと顔を上げたかと思うと、突然立ち上がって私を抱え上げた。
「グレース様……! いわれのない罪で処刑されるなんて、そんなひどい目に遭っていたなんて……!」
「え?」
ヴィンセントは私をぎゅうぎゅう抱きしめたまま、ぼろぼろ涙をこぼす。さっきまでのぎこちなさはどこかへ消えていた。
「ヴィンセント様、それは別にもう構わないのですが……」
「なぜそんなことをおっしゃるのですか!? あなたは人々を助けようとしたにも関わらず、侮蔑の言葉を投げつけられて殺されたのですよ!? 私は絶対に許せません!」
ヴィンセントは私の目を真っ直ぐ見つめて、真剣な顔で言う。口調がグレースに対するものに戻っていた。
怒ってくれるのはありがたいけれど、私は別にもう気にしていないのだ。テレンスは無事、神官の職から退かせられたし、マイラのことも街を追い出した上で脅しておいたし。
「ヴィンセント様、そんなに怒ってくれなくても、私は……」
「けれど一番許せないのは私自身です。グレース様がお優しい方なのはわかっていたのに、噂を鵜呑みにしてあなたが罪を犯したと信じてしまったなんて……! 何とお詫びしたらいいのかわかりません……!」
ヴィンセントは顔を歪め、悲痛な声で言う。
私はなんだか困ってしまった。仕方なく、落ち込みきっているヴィンセントの頭に手をやって撫でてあげる。ヴィンセントの肩が驚いたようにぴくりと跳ねた。
「グレース様……?」
「いいですよ。グレースの姿で会ったのは一度きりですもの。信じてしまうのは仕方ありませんわ。それよりも、私が罪人だと聞いても悪く思わないでいてくれたこと、嬉しかったです」
ヴィンセントのサラサラしたホワイトブロンドの髪を撫でながら言うと、彼は言葉を止め、やがて押し殺したような嗚咽を漏らし始めた。まるでヴィンセントのほうが子供みたいだ。
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