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5.王都へ
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お屋敷の私用に用意された部屋に戻ると、グレースが処刑されたときのことが頭に浮かんできた。
マイラに告げ口される以前の私は、誰からも慕われる聖女だった。
けれど、神殿での規律正しい生活はストレスが溜まることが多い。
聖女は常に微笑みを浮かべて正しく生きなければならず、苛立ちを言葉にすることはもちろん、疲れたとこぼすことすら許されなかった。
そんな毎日から解放されたくて、私は時折、街の酒場をこっそり訪れていた。
そのとき隣国から来たと言う数人の平民たちと出会ったのだ。若い男女の混ざり合った集団で、どの人も気さくで気取りがなく、私はすぐに彼らが気に入ってしまった。
彼らのほうも私を気に入ったようで、一緒に仕事をしないかと持ち掛けてきた。その仕事が違法なものだと気づいたのは、すっかり深みにはまった後だった。
私と彼らとのやり取りの手紙を見つけたマイラは、神官であるテレンスに告げ口した。
テレンスは神官になったばかりの、まだ三十歳にもなっていない青年だった。以前は随分私をひいきしていたくせに、マイラの告げ口一つで簡単に態度を変えた。
……いや、その少し前からだっけ? なんだかちょっと記憶が曖昧だ。
とにかく、テレンスはこれまで神殿のために尽くしてきた私をあっさり切り捨て、役人に引き渡したのだ。
「グレースは以前から夜になると神殿を抜け出すことが多かったのです。仕事から解放されて気を抜きたいときもあるだろうと見逃していたのが仇になったようで……」
「最近は神殿の極秘情報がなぜか外部に漏れているということが増えていました。おそらくグレースが情報を流していたのでしょう」
「グレースは以前からどこかおかしなところがあって、突拍子のない嘘を吐くこともあり……」
テレンスが役人に対してそんなことを吹き込むせいで、私への疑惑はどんどん強まり、捜査が進むたびに罪状は重くなっていった。
そして最終的に、国民を欺いて他国へ売ろうとした悪女として処刑されることが決まったのだ。
処刑場で見た光景は、一度死んだくらいで忘れられるようなものではなかった。
広場を埋め尽くす国民たちは、皆私に蔑みの目を向け、罵声を浴びせてくる。投げつけられる石が体にあたって痛い。
灰色の長い髪を短く切られ、粗末な服を着せられ裸足で歩かされている自分の状況が何とも惨めだった。
私が断頭台の上で首を落とされる瞬間、響いたのは盛大な歓声だった。
過去を思い出しながら、私はぎゅっと唇を噛む。
……ああ、本当にムカつく! テレンスもマイラも、国民どもも全部!
犯罪行為が発覚したのだから態度が変わるのは当然だろうとかいう正論は聞きたくない!!
「テレンスは今も神官として崇められているのかしら……。許せないわ……」
喉元から恨みがましい声が漏れる。テレンスが今もぬくぬくと幸せに暮らしているのだとしたら許せない。
だって、あいつだって私に負けず劣らず悪事に手を染めていたのだ。私とテレンスの違いと言えば、罪がバレたかバレなかったのかだけだ。
私は静かに決意した。
絶対に許さない。私がテレンスを地獄に落としてやると。
お屋敷の私用に用意された部屋に戻ると、グレースが処刑されたときのことが頭に浮かんできた。
マイラに告げ口される以前の私は、誰からも慕われる聖女だった。
けれど、神殿での規律正しい生活はストレスが溜まることが多い。
聖女は常に微笑みを浮かべて正しく生きなければならず、苛立ちを言葉にすることはもちろん、疲れたとこぼすことすら許されなかった。
そんな毎日から解放されたくて、私は時折、街の酒場をこっそり訪れていた。
そのとき隣国から来たと言う数人の平民たちと出会ったのだ。若い男女の混ざり合った集団で、どの人も気さくで気取りがなく、私はすぐに彼らが気に入ってしまった。
彼らのほうも私を気に入ったようで、一緒に仕事をしないかと持ち掛けてきた。その仕事が違法なものだと気づいたのは、すっかり深みにはまった後だった。
私と彼らとのやり取りの手紙を見つけたマイラは、神官であるテレンスに告げ口した。
テレンスは神官になったばかりの、まだ三十歳にもなっていない青年だった。以前は随分私をひいきしていたくせに、マイラの告げ口一つで簡単に態度を変えた。
……いや、その少し前からだっけ? なんだかちょっと記憶が曖昧だ。
とにかく、テレンスはこれまで神殿のために尽くしてきた私をあっさり切り捨て、役人に引き渡したのだ。
「グレースは以前から夜になると神殿を抜け出すことが多かったのです。仕事から解放されて気を抜きたいときもあるだろうと見逃していたのが仇になったようで……」
「最近は神殿の極秘情報がなぜか外部に漏れているということが増えていました。おそらくグレースが情報を流していたのでしょう」
「グレースは以前からどこかおかしなところがあって、突拍子のない嘘を吐くこともあり……」
テレンスが役人に対してそんなことを吹き込むせいで、私への疑惑はどんどん強まり、捜査が進むたびに罪状は重くなっていった。
そして最終的に、国民を欺いて他国へ売ろうとした悪女として処刑されることが決まったのだ。
処刑場で見た光景は、一度死んだくらいで忘れられるようなものではなかった。
広場を埋め尽くす国民たちは、皆私に蔑みの目を向け、罵声を浴びせてくる。投げつけられる石が体にあたって痛い。
灰色の長い髪を短く切られ、粗末な服を着せられ裸足で歩かされている自分の状況が何とも惨めだった。
私が断頭台の上で首を落とされる瞬間、響いたのは盛大な歓声だった。
過去を思い出しながら、私はぎゅっと唇を噛む。
……ああ、本当にムカつく! テレンスもマイラも、国民どもも全部!
犯罪行為が発覚したのだから態度が変わるのは当然だろうとかいう正論は聞きたくない!!
「テレンスは今も神官として崇められているのかしら……。許せないわ……」
喉元から恨みがましい声が漏れる。テレンスが今もぬくぬくと幸せに暮らしているのだとしたら許せない。
だって、あいつだって私に負けず劣らず悪事に手を染めていたのだ。私とテレンスの違いと言えば、罪がバレたかバレなかったのかだけだ。
私は静かに決意した。
絶対に許さない。私がテレンスを地獄に落としてやると。
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