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2.意地悪な家庭教師

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「絵本に書いてあるのはあくまで作りごとなの。実際に杖を使う時はね、杖を構えてただ無になるのよ。目の前の人形を動かそうとか、意図して杖の先から炎や水を出そうなんて絶対に考えてはいけないわ。ひたすら無になることで、魔法を発動できるの」

「え、えぇー……? 本当に?」

 さすがに子供を騙すにしても無理がある説明なんじゃないかと思い、つい演技も忘れて不審そうな顔でマイラを見てしまう。

 マイラは私の戸惑い顔など意にも介さず、「そういうものなのよ」で押し切ろうとする。


「……わかったわ! 無になればいいのね! やってみるわ」

 私はなんとか笑顔を作って、言われた通り人形に向かって杖を構えてみた。

 当然、人形は動かない。

「……あぁ、やっぱりシャーリーちゃんには難しかったのね……。仕方ないわ。属性がないんですもの」

 マイラは気の毒そうな目で私を見る。

「私、やっぱり魔法を使えないの……?」

「大丈夫よ。才能がなくたって、たくさん練習すれば少しくらいはできるようになるわ。頑張りましょう」

「うん、私、頑張るわ」


 その後もマイラの意味のない指導は続いた。

 マイラは私にひたすら頭を空っぽにして杖を構えるように教え、私はその通りにする。当然のように人形は一ミリも動かなかった。

「……正直驚いているわ……。属性がないと言っても、ここまでできないとは思わなかった」

「ごめんなさい……。せっかくマイラお姉さんが教えてくれたのに、私って才能がないのね……」

「いいのよ、シャーリーちゃん。続きは次回頑張りましょう」

 マイラは私の手を取って、憐れみに満ちた声で言う。私はその顔を冷めた気持ちで眺めた。


「それとね、シャーリーちゃん。今日習った授業の内容は、決してヴィンセント様に教えてはだめよ」

「えっ、話してはだめなの?」

「だめよ。はっきり言ってシャーリーちゃんの魔法の出来栄えはあまりにもひどいの……。私が王都の神殿で教えていた子の中にも、ここまでひどい子はいなかったわ」

「え……っ、シャーリーはそんなにだめなのね……」

「ええ、残念ながらそうなの。だから、今日の修行の内容をヴィンセント様に正直に伝えてしまったら、心が広いヴィンセント様でもさすがに呆れてしまうと思うわ。そうしたらシャーリーちゃんは捨てられてしまうかも」

「そんな……。シャーリーはヴィンセント様に捨てられちゃうの?」

 悲しげな声を出したら、マイラは励ますように言う。
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