9 / 102
1.悪女は幼女になりました
⑨
しおりを挟む
***
マイラと別れた後、ヴィンセントは少し不服そうだった。
「ヴィンセント様、どうしたんですか? 怒っていますか?」
「……怒っているわけではない。ただ、納得がいかないだけだ」
「マイラ様のことですか?」
「ああ、シャーリーが彼女を家に呼びたがるなんて……。私や公爵家の者だけでは不満なのか?」
エヴァンズ公爵家の現当主であり二十四歳のヴィンセントは、幼子の私の顔を覗き込んで、拗ねたように言う。なんとも大人げない。
「ヴィンセント様も公爵家の人も大好きです! でも、シスター様と遊んでみたかったんです」
「ううむ、けれどシスターならあの人でなくても……」
「あの人がいいです!」
ヴィンセントは不服そうな顔ながらも、シャーリーがそこまで言うならとうなずいた。
「ありがとうございます、ヴィンセント様! シャーリーは嬉しいです」
ご機嫌取りに首に手を巻き付けて頬ずりしたら、ヴィンセント様は途端に機嫌がよくなった。仕方ないな、なんて言いながら私の頭を撫でる。ロリコンは扱いやすくて助かる。
「ヴィンセント様、次はおもちゃ屋さんに行きたいです!」
「こんなに買い物したのにか? シャーリーは仕方ない子だな。じゃあ、町で一番大きなおもちゃ屋さんに行こう」
ヴィンセント様はにこにこ顔で私を見ると、おもちゃ屋さんのほうまで歩きだした。
結局その日はおもちゃ屋さんでさらに二箱分のおもちゃを買ってもらい、くたくたになって公爵邸へ戻った。
***
公爵邸に戻ると、たくさんの今日購入した荷物に埋もれるようにベッドの上に転がる。目を瞑るとグレース時代のことが浮かんでくる。
グレースは神殿で聖女として働いていた。
しかし清廉で優しい聖女の顔は表の姿に過ぎず、グレースは裏で犯罪組織と組んで神殿の情報を流したり、隣国の組織と国民を奴隷にして金儲けをする計画を押し進めたりしていた。
表では黒の質素なシスター服に身を包み、裏では派手なドレスを着て闇組織の人間と遊び回るグレースは、悪女そのものだった。
自室で一人、悪事で溜め込んだお金を見つめながらグレースは口の端を上げる。
『ほんとみんな馬鹿ばっかり。簡単に騙されるんだから』
グレースは神殿の者たちには決して裏の顔を悟らせないようにしていたが、一時期からグレースを慕ってどこへ行くにも付きまとうようになった少女にはしだいに警戒心を解くようになった。それがマイラだ。
「グレース様は本当に美しくて賢くて素敵だわ。私、グレース様のようになりたいんです」
夢見るような眼差しで言われ、愚かにもグレースは気をよくした。
マイラと別れた後、ヴィンセントは少し不服そうだった。
「ヴィンセント様、どうしたんですか? 怒っていますか?」
「……怒っているわけではない。ただ、納得がいかないだけだ」
「マイラ様のことですか?」
「ああ、シャーリーが彼女を家に呼びたがるなんて……。私や公爵家の者だけでは不満なのか?」
エヴァンズ公爵家の現当主であり二十四歳のヴィンセントは、幼子の私の顔を覗き込んで、拗ねたように言う。なんとも大人げない。
「ヴィンセント様も公爵家の人も大好きです! でも、シスター様と遊んでみたかったんです」
「ううむ、けれどシスターならあの人でなくても……」
「あの人がいいです!」
ヴィンセントは不服そうな顔ながらも、シャーリーがそこまで言うならとうなずいた。
「ありがとうございます、ヴィンセント様! シャーリーは嬉しいです」
ご機嫌取りに首に手を巻き付けて頬ずりしたら、ヴィンセント様は途端に機嫌がよくなった。仕方ないな、なんて言いながら私の頭を撫でる。ロリコンは扱いやすくて助かる。
「ヴィンセント様、次はおもちゃ屋さんに行きたいです!」
「こんなに買い物したのにか? シャーリーは仕方ない子だな。じゃあ、町で一番大きなおもちゃ屋さんに行こう」
ヴィンセント様はにこにこ顔で私を見ると、おもちゃ屋さんのほうまで歩きだした。
結局その日はおもちゃ屋さんでさらに二箱分のおもちゃを買ってもらい、くたくたになって公爵邸へ戻った。
***
公爵邸に戻ると、たくさんの今日購入した荷物に埋もれるようにベッドの上に転がる。目を瞑るとグレース時代のことが浮かんでくる。
グレースは神殿で聖女として働いていた。
しかし清廉で優しい聖女の顔は表の姿に過ぎず、グレースは裏で犯罪組織と組んで神殿の情報を流したり、隣国の組織と国民を奴隷にして金儲けをする計画を押し進めたりしていた。
表では黒の質素なシスター服に身を包み、裏では派手なドレスを着て闇組織の人間と遊び回るグレースは、悪女そのものだった。
自室で一人、悪事で溜め込んだお金を見つめながらグレースは口の端を上げる。
『ほんとみんな馬鹿ばっかり。簡単に騙されるんだから』
グレースは神殿の者たちには決して裏の顔を悟らせないようにしていたが、一時期からグレースを慕ってどこへ行くにも付きまとうようになった少女にはしだいに警戒心を解くようになった。それがマイラだ。
「グレース様は本当に美しくて賢くて素敵だわ。私、グレース様のようになりたいんです」
夢見るような眼差しで言われ、愚かにもグレースは気をよくした。
82
お気に入りに追加
2,314
あなたにおすすめの小説
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる