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4.博物館見学

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 言ってしまった。これで本当に終わり。

 悲しいし、とても寂しい。けれど、この先エルランド様がクリスティーナに恋するところを見るよりは、じりじり終わりのときを待つよりは、ずっとダメージが少ないはずだ。

 これでいい。一時でもエルランド様の婚約者でいられたんだもの。それで十分じゃないか。割り切って前を向かなくては。

 自分にそう言い聞かせながらエルランド様の顔を見る。その顔を見て私は息を呑んだ。


 エルランド様は、絶望したような、ショックを受けたような、それはそれは悲しそうな顔でこちらを見ていた。

 本音なのか、と私を問いただす声は震えている。そうだと返す私の声も、同じように震えていた。

「わかったよ。……父には僕から話しておく」

 静かにそう言ってくれたエルランド様の顔は、泣き出しそうに歪んでいた。


 博物館の廊下を進みながら、私はエルランド様の表情の意味を必死で考えていた。

 とてもうっとうしい婚約者からの申し出を礼儀で引き止めているという顔ではなかった。彼は心底悲しそうな顔をしていた。

 どうしてだろう。私はエルランド様の恋を邪魔する悪役でしかないのに。私がいなくなったら清々するに決まっているのに。

 ……あれ?私、なんでそう思い始めたんだっけ。

 それは前世の記憶を思い出したから。ここは乙女ゲームの世界で、エルランド様は攻略キャラで、ヒロインは私ではなくクリスティーナだと理解したから。

 あれ??一度だってエルランド様本人にうっとうしいだとか、婚約をやめたいだとか言われたことがあったっけ……。

 考えているうちにどんどん頭が冷えてくる。


 私がエルランド様は婚約破棄を望んでいると思ったのは、全て前世の記憶が根拠だ。エルランド様本人に何か言われたことは一度もない。むしろエルランド様は私が側によると、いつも優しい笑顔で迎えてくれた。

 あれ?私……とんでもない思い違いをしていたんじゃ……?

 今さらになってそんな考えが頭をもたげる。

 私が最初に婚約破棄して欲しいと頼んだ時、エルランド様はどんな顔をしていたっけ……。翌日、私の馬車を出迎えてくれた彼は何と言っていたっけ……。


 とても魔法植物なんて見る気になれず、私は庭園の隅のベンチに腰掛けた。自分の今までの行動に次々と疑問が湧いてくる。

 私は前世の記憶を思い出してから、エルランド様を一人の人間として見れなくなっていたのではないだろうか。

 ゲームのキャラクター通りの行動をすると決めつけて、彼の言葉もろくに聞かずに自分の考えを押し付けた。その結果、あんなに悲しそうな顔をさせてしまった。

「エルランド様……本当に私を好きでいてくれたの?」

 その可能性にたどり着いたとき泣きたくなった。例えそうだとしても、すでに一方的に婚約破棄を申し出てしまった後だ。きっとそんな勝手な女、もう許してもらえないだろう。

 私は打ちひしがれる思いで地面を見ていた。


「……?」

 なんだろう。庭園が騒がしい気がする。生徒の誰かが騒いでいるのだろうか。見学授業とはいえ、貴族のご令息やご令嬢ははしゃいで暴れまわったりしないように教育されていると思うのだけれど。

 気になって音のした方にそっと近づく。

 ドスン、ドスン、と何かを叩きつけるような音が聞こえてくる。そしてときどき混じる叫び声。

 おかしい。何が起こっているの?近づかない方がいい?

 引き返そうか迷い、私は足を止める。その時、前方に大きく蔓を伸ばして暴れる巨大な植物が見えた。
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