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20.糾弾会議
②
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私はもう我慢の限界だった。先のことなんて考えず、思い切り扉を開ける。
机を囲んで議論していた人たちの視線が一斉にこちらに向いた。後ろからトマスさんの焦った声が聞こえたけれど、気にしている余裕はない。私は迷わず部屋の一番前まで歩いていく。
すると、大きく目を開いてこちらを見るリュシアン様と目が合った。
「一体なんなんだ、君は! 重要な議論をしているのがわからないのか!?」
「衛兵は何をやっている! さっさとこのメイドをつまみだせ!」
貴族たちが怒った声で言う。しかし、そのうちの数人は戸惑った顔でこちらを見ていた。
「おい、あの人は……」
「ジスレーヌ様? 一体こんなところで何をやっているのです? 幽閉されていたはずでは……」
戸惑いがちな声があがると、貴族たちは一斉に困惑顔になった。私はキャップを取って頭を下げる。
「突然お邪魔してすみません。リュシアン殿下の婚約者ジスレーヌ・ベランジェです。みなさんにどうしてもお伝えしたいことがあります」
会議室にはいっそう困惑の声が広がる。顔を上げると、焦った顔で私を見るリュシアン様と、その向かいで不愉快そうに眉をひそめるルナール公爵が目に入った。
トマスさんが後ろで必死に止める声が聞こえるけれど、下がる気にはなれない。
「ルナール公爵とオレリア様は嘘を吐いています。リュシアン様は何もしていません」
「何を根拠に。公爵たちがそんな嘘を吐いて何になる?」
「あなたはリュシアン殿下の婚約者なのだろう。殿下をかばいたいからそんな主張をするのではないか?」
私の言葉はすぐさま不審そうな声で否定される。私はベアトリス様の日記を前にかかげた。
「根拠ならあります! 公爵は王位簒奪を目論んでいるからリュシアン様を排除したかったのです。これがその証拠です!」
会議室がざわめきに包まれる。不快そうにこちらを見ていたルナール公爵の顔に、一瞬焦りの色が浮かんだのがわかった。
「ジスレーヌ! 勝手な真似はやめろ! お前は部屋に戻っていろ!」
リュシアン様が怖い顔でこちらに歩いてきて、私から日記を取り上げようとする。
「い、嫌です! この話はみなさんに知ってもらうべきです!」
私はリュシアン様から逃れるように日記を隠し、急いで内容を読み上げる。
「『私はセルジュ坊ちゃんを殺そうとしてなどいない。ルナール公爵は、私が彼が王位簒奪を目論んでいることを知ってしまったから、告発されるのを恐れたのだろう』……」
私がその言葉を読み上げた途端、ルナール公爵が机をばんと叩いて立ち上がり、つかつかこちらに歩いてきた。それでも構わず日記を読み続ける。
「『私はうかつだった。公爵の話を盗み聞きしてしまって以来、警戒されていることはわかっていたのに、セルジュ坊ちゃんと散歩に行くように命じられ、言われた通り湖の周辺まで行ってしまった。坊ちゃんは私の顔を見ると三歳の子供とは思えない冷たい笑みを浮かべて、自分で湖に飛び込んだ。急いで湖に入って岸にあげようとしたが、坊ちゃんは暴れて……』」
しかし、さらに続きを読もうとしたところで、公爵に無理矢理日記を取り上げられてしまった。
「ジスレーヌ様、お遊びが過ぎますよ。一体こんな日記どうやって用意したんです? こんなことまでなされては冗談では済みませんよ」
ルナール公爵はいたって穏やかな口調で告げる。しかしその目は全く笑っていなかった。
日記を取り返そうと詰め寄るが、ちっとも手が届かない。後ろからリュシアン様に腕をつかんでやめるよう言われ、私は仕方なく手を止めた。
机を囲んで議論していた人たちの視線が一斉にこちらに向いた。後ろからトマスさんの焦った声が聞こえたけれど、気にしている余裕はない。私は迷わず部屋の一番前まで歩いていく。
すると、大きく目を開いてこちらを見るリュシアン様と目が合った。
「一体なんなんだ、君は! 重要な議論をしているのがわからないのか!?」
「衛兵は何をやっている! さっさとこのメイドをつまみだせ!」
貴族たちが怒った声で言う。しかし、そのうちの数人は戸惑った顔でこちらを見ていた。
「おい、あの人は……」
「ジスレーヌ様? 一体こんなところで何をやっているのです? 幽閉されていたはずでは……」
戸惑いがちな声があがると、貴族たちは一斉に困惑顔になった。私はキャップを取って頭を下げる。
「突然お邪魔してすみません。リュシアン殿下の婚約者ジスレーヌ・ベランジェです。みなさんにどうしてもお伝えしたいことがあります」
会議室にはいっそう困惑の声が広がる。顔を上げると、焦った顔で私を見るリュシアン様と、その向かいで不愉快そうに眉をひそめるルナール公爵が目に入った。
トマスさんが後ろで必死に止める声が聞こえるけれど、下がる気にはなれない。
「ルナール公爵とオレリア様は嘘を吐いています。リュシアン様は何もしていません」
「何を根拠に。公爵たちがそんな嘘を吐いて何になる?」
「あなたはリュシアン殿下の婚約者なのだろう。殿下をかばいたいからそんな主張をするのではないか?」
私の言葉はすぐさま不審そうな声で否定される。私はベアトリス様の日記を前にかかげた。
「根拠ならあります! 公爵は王位簒奪を目論んでいるからリュシアン様を排除したかったのです。これがその証拠です!」
会議室がざわめきに包まれる。不快そうにこちらを見ていたルナール公爵の顔に、一瞬焦りの色が浮かんだのがわかった。
「ジスレーヌ! 勝手な真似はやめろ! お前は部屋に戻っていろ!」
リュシアン様が怖い顔でこちらに歩いてきて、私から日記を取り上げようとする。
「い、嫌です! この話はみなさんに知ってもらうべきです!」
私はリュシアン様から逃れるように日記を隠し、急いで内容を読み上げる。
「『私はセルジュ坊ちゃんを殺そうとしてなどいない。ルナール公爵は、私が彼が王位簒奪を目論んでいることを知ってしまったから、告発されるのを恐れたのだろう』……」
私がその言葉を読み上げた途端、ルナール公爵が机をばんと叩いて立ち上がり、つかつかこちらに歩いてきた。それでも構わず日記を読み続ける。
「『私はうかつだった。公爵の話を盗み聞きしてしまって以来、警戒されていることはわかっていたのに、セルジュ坊ちゃんと散歩に行くように命じられ、言われた通り湖の周辺まで行ってしまった。坊ちゃんは私の顔を見ると三歳の子供とは思えない冷たい笑みを浮かべて、自分で湖に飛び込んだ。急いで湖に入って岸にあげようとしたが、坊ちゃんは暴れて……』」
しかし、さらに続きを読もうとしたところで、公爵に無理矢理日記を取り上げられてしまった。
「ジスレーヌ様、お遊びが過ぎますよ。一体こんな日記どうやって用意したんです? こんなことまでなされては冗談では済みませんよ」
ルナール公爵はいたって穏やかな口調で告げる。しかしその目は全く笑っていなかった。
日記を取り返そうと詰め寄るが、ちっとも手が届かない。後ろからリュシアン様に腕をつかんでやめるよう言われ、私は仕方なく手を止めた。
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