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5.愚かな婚約者 リュシアン視点①
①
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ジスレーヌを裁きの家に入れてから今日で三日。
俺は早くも自分の決断を後悔し始めていた。
ジスレーヌは愚かな女だ。ほかの令嬢たちのように優雅さがなく、あてこすられるようなことを言われてもおろおろするばかりで切り返すことすらできない。貴族令嬢にあるまじき人間だ。
そのくせ嫉妬深くて、俺がほかの令嬢と話をするだけで唇を引き結んで納得のいかなそうな顔をする。
そんな態度にうんざりしていたところに、あの毒薬事件が起こった。
さすがに対処するほかないと、俺は令嬢たちの勧めるまま、ジスレーヌを裁きの家に入れることに決めた。
ジスレーヌは最後まで「あの方たちは嘘をついています」と言って泣いて縋ったが、聞く気にはなれなかった。
なのに、あの女が幽閉されてからずっと落ち着かない。
昨晩、あの屋敷を管理している者から屋敷のほうは何も問題はないとの報告を受けた。だから気にする必要はないのだ。
しかし、用もないのに城に来てはちょろちょろと俺の周りをうろついていたジスレーヌがいないと、妙に胸が騒ぐ。
屋敷に送り込むのではなく、いつも通り叱って王宮内の幽閉室に閉じ込めて終わりにすればよかったのではないかなんて考えまで浮かんでくる。
そんなことをしては、周りの者に示しがつかないというのに。
悶々と考え込んでいると、ノックの音が聞こえてきた。入るように言うと部下の一人であるトマスが顔を出す。ジスレーヌを裁きの家に入れるとき、送っていく役目を頼んだ人物だ。
「リュシアン様、裁きの家の監視係から報告が届きました。今日も特に屋敷からの連絡はなく、異常はなかったとのことです」
「そうか。報告ご苦労」
ジスレーヌは無事にやっているようなのでひとまず安心する。怖がりなジスレーヌのことだから、多分小さなことで大騒ぎしているだろうが、報告が来るような問題は起こっていないのだろう。
「後でジスレーヌ様本人に連絡を取り、話を聞く予定です。終わりましたらそれも報告させていただきます」
「……は? 本人に連絡? そんなことができるのか?」
「はい。ジスレーヌ様にはあらかじめ、通信に使える鏡をお持ちいただいております。彼女が悔い改めたことを確認するために、定期的に連絡を取る決まりになっています」
「そうか。確かに反省具合を見る必要はあるな」
俺はそう言いながら、その鏡のことが気になって仕方なくなった。それを使えば、こちらからジスレーヌの姿を見ることができるのだろうか。
「……なぁ、トマス。その役目俺にやらせてはくれないか」
「はい?」
俺の言葉に、トマスは目を丸くする。
「いえ、リュシアン様の手を煩わせるわけにはいきません。私どもできちんとジスレーヌ様のお考えを記録に取り、報告させていただきますので」
「毒を盛られた被害者は俺だ。反省具合も俺が見る必要がある」
「しかし……」
トマスは戸惑い顔だったが、無理にでも押し切ることにした。
「ジスレーヌは俺の婚約者だ。俺が責任を持って更生させる。文句を言いそうなやつがいたら、俺のところに連れてこい」
「……わかりました。そこまで仰るなら」
トマスは渋々といった様子でうなずいた。そして別室から銀色の鏡を持ってきて、簡単に使い方を説明してくれた。
「ご苦労。下がっていいぞ」
気分よくそう告げると、トマスは納得のいかなそうな顔で去って行った。
俺は早くも自分の決断を後悔し始めていた。
ジスレーヌは愚かな女だ。ほかの令嬢たちのように優雅さがなく、あてこすられるようなことを言われてもおろおろするばかりで切り返すことすらできない。貴族令嬢にあるまじき人間だ。
そのくせ嫉妬深くて、俺がほかの令嬢と話をするだけで唇を引き結んで納得のいかなそうな顔をする。
そんな態度にうんざりしていたところに、あの毒薬事件が起こった。
さすがに対処するほかないと、俺は令嬢たちの勧めるまま、ジスレーヌを裁きの家に入れることに決めた。
ジスレーヌは最後まで「あの方たちは嘘をついています」と言って泣いて縋ったが、聞く気にはなれなかった。
なのに、あの女が幽閉されてからずっと落ち着かない。
昨晩、あの屋敷を管理している者から屋敷のほうは何も問題はないとの報告を受けた。だから気にする必要はないのだ。
しかし、用もないのに城に来てはちょろちょろと俺の周りをうろついていたジスレーヌがいないと、妙に胸が騒ぐ。
屋敷に送り込むのではなく、いつも通り叱って王宮内の幽閉室に閉じ込めて終わりにすればよかったのではないかなんて考えまで浮かんでくる。
そんなことをしては、周りの者に示しがつかないというのに。
悶々と考え込んでいると、ノックの音が聞こえてきた。入るように言うと部下の一人であるトマスが顔を出す。ジスレーヌを裁きの家に入れるとき、送っていく役目を頼んだ人物だ。
「リュシアン様、裁きの家の監視係から報告が届きました。今日も特に屋敷からの連絡はなく、異常はなかったとのことです」
「そうか。報告ご苦労」
ジスレーヌは無事にやっているようなのでひとまず安心する。怖がりなジスレーヌのことだから、多分小さなことで大騒ぎしているだろうが、報告が来るような問題は起こっていないのだろう。
「後でジスレーヌ様本人に連絡を取り、話を聞く予定です。終わりましたらそれも報告させていただきます」
「……は? 本人に連絡? そんなことができるのか?」
「はい。ジスレーヌ様にはあらかじめ、通信に使える鏡をお持ちいただいております。彼女が悔い改めたことを確認するために、定期的に連絡を取る決まりになっています」
「そうか。確かに反省具合を見る必要はあるな」
俺はそう言いながら、その鏡のことが気になって仕方なくなった。それを使えば、こちらからジスレーヌの姿を見ることができるのだろうか。
「……なぁ、トマス。その役目俺にやらせてはくれないか」
「はい?」
俺の言葉に、トマスは目を丸くする。
「いえ、リュシアン様の手を煩わせるわけにはいきません。私どもできちんとジスレーヌ様のお考えを記録に取り、報告させていただきますので」
「毒を盛られた被害者は俺だ。反省具合も俺が見る必要がある」
「しかし……」
トマスは戸惑い顔だったが、無理にでも押し切ることにした。
「ジスレーヌは俺の婚約者だ。俺が責任を持って更生させる。文句を言いそうなやつがいたら、俺のところに連れてこい」
「……わかりました。そこまで仰るなら」
トマスは渋々といった様子でうなずいた。そして別室から銀色の鏡を持ってきて、簡単に使い方を説明してくれた。
「ご苦労。下がっていいぞ」
気分よくそう告げると、トマスは納得のいかなそうな顔で去って行った。
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