72 / 111
11.焦燥 ルドヴィク視点②
①
しおりを挟む
ある日の午後、俺は自宅のシッティングルームで両親と向かい合っていた。
「ルドヴィク、ジュスティーナさんとはうまくやっているのか? お前は彼女に愛想のない態度ばかり取っているから」
「そうよ、ルドヴィク。逃げられないようにちゃんと大事にするのよ」
両親は俺と顔を合わせる度、しょっちゅうジュスティーナの話題を出す。
いつも苦々しい気持ちで聞いていたが、ここ最近は余計に話を聞くのが苦痛だった。
両親にはまだジュスティーナとの婚約が破棄されたことを話していない。
さっさと言ってしまうつもりだったのに、両親が期待と圧力を込めた目でジュスティーナと仲良くしているのか尋ねてくると、どうにも真実を話すのが億劫になるのだ。
けれど、今日こそは婚約破棄のことを話すと決めていた。
ジュスティーナとの婚約はなくなったから妹のフェリーチェを新たに婚約者にしたいと、はっきり告げなければならない。
しかし、そんな俺の気持ちをくじくように、父と母は明るい顔でジュスティーナの話を続ける。
「ジュスティーナさん、またうちの領地を回るのを手伝ってくれないかしら。あの子がいればどんな不作続きの土地も豊かになるから、領民からのティローネ家への評価がどんどん上がるのよ」
「近いうちにこちらに来てもらおう。その時は新しく拡大する予定の農地についても相談したい。ジュスティーナさんの力があれば、小麦も野菜もろくに育たない痩せた土地でも作物を育てられるはずだからな。領地の南東に、土が悪くてほとんど使われていない土地があるだろう? 今度、そこも農地として使う計画を立てているんだ。すでに働き手も集めている」
「まぁ、あの土地を有効活用できるならいいわね。それにしても本当にすごい能力だわ。枯れた植物でも蘇らせ、やせ細った作物を丸々と太らせるなんて。ジュスティーナさんがいる限りうちは安泰ね」
「ローレ家がジュスティーナさんの能力の価値に気づいていないのは幸運だったよ。このままルドヴィクと正式に結婚するまで、ほかの家に彼女の能力がバレないようにしておかないとな」
父と母は顔を見合わせて笑い合う。
なんだか聞いてはいけない話題が出てきたように思うのは気のせいだろうか。
俺はひやひやする気持ちを押さえつけ、きっと両親を見据える。
大丈夫だ。農地の拡大などなんだの言っているが、ジュスティーナの能力なんて大したことがない。
あいつがいなくても、どこかからいい肥料や栄養剤でも入手できれば、土地なんて簡単によくなるだろう。
ジュスティーナなどその程度の存在なのだ。
「ルドヴィク、ジュスティーナさんとはうまくやっているのか? お前は彼女に愛想のない態度ばかり取っているから」
「そうよ、ルドヴィク。逃げられないようにちゃんと大事にするのよ」
両親は俺と顔を合わせる度、しょっちゅうジュスティーナの話題を出す。
いつも苦々しい気持ちで聞いていたが、ここ最近は余計に話を聞くのが苦痛だった。
両親にはまだジュスティーナとの婚約が破棄されたことを話していない。
さっさと言ってしまうつもりだったのに、両親が期待と圧力を込めた目でジュスティーナと仲良くしているのか尋ねてくると、どうにも真実を話すのが億劫になるのだ。
けれど、今日こそは婚約破棄のことを話すと決めていた。
ジュスティーナとの婚約はなくなったから妹のフェリーチェを新たに婚約者にしたいと、はっきり告げなければならない。
しかし、そんな俺の気持ちをくじくように、父と母は明るい顔でジュスティーナの話を続ける。
「ジュスティーナさん、またうちの領地を回るのを手伝ってくれないかしら。あの子がいればどんな不作続きの土地も豊かになるから、領民からのティローネ家への評価がどんどん上がるのよ」
「近いうちにこちらに来てもらおう。その時は新しく拡大する予定の農地についても相談したい。ジュスティーナさんの力があれば、小麦も野菜もろくに育たない痩せた土地でも作物を育てられるはずだからな。領地の南東に、土が悪くてほとんど使われていない土地があるだろう? 今度、そこも農地として使う計画を立てているんだ。すでに働き手も集めている」
「まぁ、あの土地を有効活用できるならいいわね。それにしても本当にすごい能力だわ。枯れた植物でも蘇らせ、やせ細った作物を丸々と太らせるなんて。ジュスティーナさんがいる限りうちは安泰ね」
「ローレ家がジュスティーナさんの能力の価値に気づいていないのは幸運だったよ。このままルドヴィクと正式に結婚するまで、ほかの家に彼女の能力がバレないようにしておかないとな」
父と母は顔を見合わせて笑い合う。
なんだか聞いてはいけない話題が出てきたように思うのは気のせいだろうか。
俺はひやひやする気持ちを押さえつけ、きっと両親を見据える。
大丈夫だ。農地の拡大などなんだの言っているが、ジュスティーナの能力なんて大したことがない。
あいつがいなくても、どこかからいい肥料や栄養剤でも入手できれば、土地なんて簡単によくなるだろう。
ジュスティーナなどその程度の存在なのだ。
628
お気に入りに追加
5,634
あなたにおすすめの小説
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?
風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。
そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。
ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。
それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。
わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。
伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。
そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。
え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか?
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
私との婚約は政略ですか?恋人とどうぞ仲良くしてください
稲垣桜
恋愛
リンデン伯爵家はこの王国でも有数な貿易港を領地内に持つ、王家からの信頼も厚い家門で、その娘の私、エリザベスはコゼルス侯爵家の二男のルカ様との婚約が10歳の時に決まっていました。
王都で暮らすルカ様は私より4歳年上で、その時にはレイフォール学園の2年に在籍中。
そして『学園でルカには親密な令嬢がいる』と兄から聞かされた私。
学園に入学した私は仲良さそうな二人の姿を見て、自分との婚約は政略だったんだって。
私はサラサラの黒髪に海のような濃紺の瞳を持つルカ様に一目惚れをしたけれど、よく言っても中の上の容姿の私が婚約者に選ばれたことが不思議だったのよね。
でも、リンデン伯爵家の領地には交易港があるから、侯爵家の家業から考えて、領地内の港の使用料を抑える為の政略結婚だったのかな。
でも、実際にはルカ様にはルカ様の悩みがあるみたい……なんだけどね。
※ 誤字・脱字が多いと思います。ごめんなさい。
※ あくまでもフィクションです。
※ ゆるふわ設定のご都合主義です。
※ 実在の人物や団体とは一切関係はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる