46 / 111
7.気になることばかり
③
しおりを挟む
エルダさんは花を眺める私の隣に座り、目を細めて花壇を見ていた。
ふと、ラウロ様が教えてくれないのなら、エルダさんに聞いてみればいいのではないかという考えが浮かんできた。
ラウロ様はエルダさんに随分心を許しているようだし、彼女なら何か知っているかもしれない。
私はエルダさんに向かって口を開いた。
「あの、エルダさん」
「なんでしょう?」
「ラウロ様はどうして私をこのお屋敷に呼んでくれたのか、わかりますか?」
尋ねると、エルダさんは目をぱちくりする。
「ラウロ様がジュスティーナ様を呼んだ理由、ですか?」
「はい。私、このお屋敷に呼んでもらった日、ラウロ様と初対面だったんです。家に帰りづらくて困っているからと話したらご親切にうちに来たらいいと言ってくれて。それで……」
ラウロ様は、私の光魔法が必要で呼んだのではないのか。そうだとしたら、ラウロ様が必要とする魔法とはどんなものなのか。
それを聞きたくて口を開きかけると、エルダさんはのんびりした声で言った。
「どうしてでしょうねぇ。ラウロ様、ジュスティーナ様に一目惚れでもなさったんじゃないですか」
「え……っ!?」
あっけらかんとそう言われ、予想外の返答に戸惑ってしまった。
「い、いや、そんなはずはないです!」
「だって私、ラウロ様が幼い頃からお世話していますけれど、あんなに人に興味を示すところを見たのは初めてですもの。私もよく、『ジュスティーナ嬢はこの屋敷で不快なことがないだろうか』なんて相談されるんですよ。真剣なのが可愛くて」
エルダさんはくすくす笑いながら言う。
そんなはずはない。ラウロ様はきっと同情か、それでなかったら私を何かに利用するつもりで連れてきたのだ。
しかし、自分にそう言い聞かせても、自然に顔が熱くなってしまう。
動揺する私に、エルダさんはのんびりした声のまま続けた。
「私はとっても嬉しいのですわ。ジュスティーナ様のような方がラウロ様のそばにいてくれて。ラウロ様は本当にいい子なのに、呪いのせいで不遇な目にばかり遭って来ましたから。小さい頃はもっと投げやりだったんですよ。お勉強もお稽古も何をやったって意味がないと暴れて」
「そんなことが……」
今の淡々としたラウロ様からは想像できない。
けれど、そういえばダンスパーティーの日、ダンスなんて覚えても意味がないとごねる自分にエルダさんは根気よく教えてくれたと話していたのを思い出す。
現在のラウロ様は、顔の痣を気にしているようではあるものの、それを受け入れているように見えた。
しかし、そうなるまでには様々な葛藤があったのかもしれない。
私がそんなことを考えてしんみりしていると、エルダさんはぱっと顔を上げた。
「あら、嫌だ! 私ったら話し過ぎてしまいましたわ。ラウロ様に怒られてしまいます」
エルダさんは立ち上がると、エプロンについていた土埃を手で払った。そしてポケットから鋏を取り出すと、灰色の木の方へ向かって行って手際よく枝を数本切る。
何をしているのだろうと思いながら見ていると、エルダさんは枝を持ってこちらへ戻って来た。
ふと、ラウロ様が教えてくれないのなら、エルダさんに聞いてみればいいのではないかという考えが浮かんできた。
ラウロ様はエルダさんに随分心を許しているようだし、彼女なら何か知っているかもしれない。
私はエルダさんに向かって口を開いた。
「あの、エルダさん」
「なんでしょう?」
「ラウロ様はどうして私をこのお屋敷に呼んでくれたのか、わかりますか?」
尋ねると、エルダさんは目をぱちくりする。
「ラウロ様がジュスティーナ様を呼んだ理由、ですか?」
「はい。私、このお屋敷に呼んでもらった日、ラウロ様と初対面だったんです。家に帰りづらくて困っているからと話したらご親切にうちに来たらいいと言ってくれて。それで……」
ラウロ様は、私の光魔法が必要で呼んだのではないのか。そうだとしたら、ラウロ様が必要とする魔法とはどんなものなのか。
それを聞きたくて口を開きかけると、エルダさんはのんびりした声で言った。
「どうしてでしょうねぇ。ラウロ様、ジュスティーナ様に一目惚れでもなさったんじゃないですか」
「え……っ!?」
あっけらかんとそう言われ、予想外の返答に戸惑ってしまった。
「い、いや、そんなはずはないです!」
「だって私、ラウロ様が幼い頃からお世話していますけれど、あんなに人に興味を示すところを見たのは初めてですもの。私もよく、『ジュスティーナ嬢はこの屋敷で不快なことがないだろうか』なんて相談されるんですよ。真剣なのが可愛くて」
エルダさんはくすくす笑いながら言う。
そんなはずはない。ラウロ様はきっと同情か、それでなかったら私を何かに利用するつもりで連れてきたのだ。
しかし、自分にそう言い聞かせても、自然に顔が熱くなってしまう。
動揺する私に、エルダさんはのんびりした声のまま続けた。
「私はとっても嬉しいのですわ。ジュスティーナ様のような方がラウロ様のそばにいてくれて。ラウロ様は本当にいい子なのに、呪いのせいで不遇な目にばかり遭って来ましたから。小さい頃はもっと投げやりだったんですよ。お勉強もお稽古も何をやったって意味がないと暴れて」
「そんなことが……」
今の淡々としたラウロ様からは想像できない。
けれど、そういえばダンスパーティーの日、ダンスなんて覚えても意味がないとごねる自分にエルダさんは根気よく教えてくれたと話していたのを思い出す。
現在のラウロ様は、顔の痣を気にしているようではあるものの、それを受け入れているように見えた。
しかし、そうなるまでには様々な葛藤があったのかもしれない。
私がそんなことを考えてしんみりしていると、エルダさんはぱっと顔を上げた。
「あら、嫌だ! 私ったら話し過ぎてしまいましたわ。ラウロ様に怒られてしまいます」
エルダさんは立ち上がると、エプロンについていた土埃を手で払った。そしてポケットから鋏を取り出すと、灰色の木の方へ向かって行って手際よく枝を数本切る。
何をしているのだろうと思いながら見ていると、エルダさんは枝を持ってこちらへ戻って来た。
407
お気に入りに追加
5,641
あなたにおすすめの小説
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから
水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」
「……はい?」
子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。
だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。
「エリオット様と別れろって言っているの!」
彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。
そのせいで、私は怪我をしてしまった。
いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。
だって、彼は──。
そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる