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11.冤罪事件再び

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 翌日から早速私はサイラスと結婚するために動きだすことにした。

 まずはお父様に相談だ。多分許してくれないだろうけれど……いや、お父様は私のことを見放しているから、意外と好きにすればいいと言ってくれるかも? 話してみなければわからない。

 だめだったら平民になる準備を進めないと。

 公爵家の娘として何不自由なく育ってきた私にできるだろうか。ちょっと不安になるが、前回の人生では牢獄に閉じ込められてきた身だ。どんな暮らしになろうと、なんとかなるのではないだろうか。

 どんな街に住もう。どんな家に住もう。仕事はちゃんと見つかるかしら。貴族でなくなるのだから、料理や掃除も覚えないと。

 考えるとなんだか楽しくなってくる。

 新しい生活を思い浮かべてにやけていたら、部屋の扉が叩かれた。返事をすると、サイラスが入ってくる。

「あら、サイラス。ちょうどいいところに。ねぇ、サイラスはどんな街に住みたい? 私は東のリフェルの街とかいいんじゃないかと思うんだけど……」

「お嬢様、昨日は申し訳ありませんでした!!」

 私が言い終わらないうちに、サイラスはがばりと頭を下げた。思わず目をぱちくりして彼を見る。

「一体どうしたの?」

「私は昨日冷静さを欠いておりました。結婚相手を見つけてくださろうとするお嬢様の親切心に付け込んで、結婚を要求するなどという卑怯な真似を……! お許しください!」

 サイラスは頭を下げたまま言う。一瞬言葉の意味がわからず、理解した瞬間憤慨した。

「どういうこと? 昨日はああ言っておいて、今になって取り消すと言うの!?」

「い、いえ。取り消すというか……。もともと私などがお嬢様との結婚を望んでいいはずがなかったのです。昨日はお嬢様の言葉に舞い上がってお言葉に甘え、その上抱きしめるような真似を……」

 サイラスはおそるおそると言った様子で顔を上げながら言う。

「つまり取り消したいってことじゃない! ひどいわ。私、とても嬉しかったのに」

 昨日の今日で取り消すなんてあんまりだ。私は恨めしげにサイラスを見る。

 ずっとお慕いしていましたって、私以外と結婚したくないって言っていたじゃない。もう自分の感情に気づかないふりをしなくていいのだと思ったら、すごく嬉しかったのに。

 私の言葉にサイラスの顔がわずかに赤らんだ。それからぶんぶん首を振ると、真面目な顔になって言う。

「私とお嬢様では釣り合いません。お嬢様にはもっといい相手がいます」

「何よそれ。昨日も言ったでしょ? 私、あなたを幸せにしてあげたいの。あなたの望みは何でも叶えてあげたいのよ」

「私の望みなどで人生を誤ってはいけません」

「誤ってなんかないわ」

 誤った人生というなら前回の人生の方だ。私は愚かにもカミリアに暗殺者を差し向けて投獄された。

 それに対して、サイラスと生きることの何が間違いだと言うのだろう。

「サイラスまで私を捨てるの?」

 悲しくなってそう尋ねたら、サイラスは明らかに動揺していた。

 サイラスは私がジャレッド王子に婚約破棄され、大変傷ついたと思っている。遠回しに同じことをするのかと問われた彼は、言葉に詰まっていた。

「私がそうしたいの。私、サイラスといたら幸せになれる気がするのよ。それでもだめなの?」

「お嬢様……」

 サイラスは私をじっと見つめ、何か言いかける。


 その時、再びノックの音が響いた。

 誰だろうと思いながら入るように言うと、侍女が遠慮がちに入って来る。そして言いづらそうに口を開いた。

「お嬢様、お話し中にすみません。旦那様がお呼びです……」

「お父様が? 一体何の用かしら」

「その……、実は聖女のカミリア様が神殿に向かう途中暗殺未遂に遭いまして……」

「暗殺未遂?」

 私はぽかんとして侍女を見た。サイラスも目を丸くして驚いている。

 今回の人生ではもちろん、カミリア暗殺の依頼なんてしていない。一体どういうことだろう。
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