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8.リーシュの祭典

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「ありがとうございます、お嬢様。それではすぐにディラン様に来週一週間ほど滞在すると連絡を入れてきます!」

「え、一週間も?」

「旦那様にはお嬢様がしばらく王都を留守にすることの許可は取ってあるので心配いりません。お嫌ですか?」

 私に聞く前からお父様に許可を取ったの? 珍しく強引なサイラスに首を傾げる。

「いいけど、来週はリーシュの祭典があるから国中から人が集まるでしょう。混雑するんじゃないかしら……」

 そう言いながら、ふと思い至る。ああ、だから……。

「それなら祭典に来る方たちと被らないように、少し早めに出発しましょう。ディラン様にもそうお伝えして……」

「ねぇ、サイラス」

「なんでしょうか?」

「来週のリーシュの祭典の日に私を王都にいさせないために、シュティアの街へ行くの?」

 尋ねると、サイラスの動きが止まった。それから言い訳を考えるように目を泳がせ始める。その表情だけで肯定しているようなものだった。

「そういうことだったのね。だから心細いなんて心にもないこと言ったの」

「す、すみません……」

 初めてサイラス自ら頼みごとをしてくれたと思ったのに、結局私のためだったようだ。

 サイラスはきっと、私がリーシュの祭典の日にジャレッド王子とカミリアが仲良く馬車で街を回るのを見て落ち込むと思ったのだろう。

 当日街に出なくても、リスベリア王国の一大イベントである祭典の話は数日間は人々の話題に上るだろうから、噂を聞くのは避けられない。

 だからお祭りの期間中、私を王都から遠ざけておくつもりだったのだ。


「祭典の期間に王都にいれば、不愉快な話も耳に入って来ると思ったので……。差し出がましいことをしました」

 サイラスはまるで悪いことでもしたかのように、気まずげな顔で言う。

「怒ってるわけじゃないわよ。私のためにしてくれたんでしょう?」

 サイラス自身の願望じゃなかったのは残念だけど、私を気遣って準備してくれたのだ。怒るはずがない。
 
 するとサイラスは躊躇いがちに口を開いた。

「その……もちろんお嬢様に祭典で不快な思いをして欲しくなかったのもあるのですが」

「ええ」

「お嬢様とシュティアの街に行きたかったのも本当なんです。王都から遠く離れた街ならば、誰に煩わされることなくお嬢様といられると思って……。祭典にかこつけて、すみません」

「まぁ!」

 サイラスが顔を赤くして言うので、私はすっかり嬉しくなってしまった。

 巻き戻って最初に口にした頼みも「一緒に街に出かけて欲しい」だったし、サイラスはよほど私とお出かけするのが好きみたいだ。

「いいわよ、街についたら一緒にいっぱいお出かけしましょうね」

「お嬢様……!」

「サイラスはそんなに私とお出かけするのが好きなのね。任せて。私がちゃんと計画を立てておいてあげるから!」

「え? いや、お出かけが好きというか……」

 サイラスが後ろで何か呟いていたけれど、私の頭は突然決まった素敵な計画でいっぱいになってしまい、耳に入ってこなかった。

 久しぶりに王都を離れて、サイラスとお出かけ。きっとすごく楽しいわ。今から計画を立てておかないと。


 ……しかし、そんな計画は突然アメル邸に届いたジャレッド王子からの手紙であっさりと塗りつぶされてしまった。

 このタイミングで来た手紙。

 嫌な予感がしながらも開けると、そこには案の定、ぜひリーシュの祭典へ来て欲しい、カミリアも私の参加を望んでいるといったことが書かれていた。

 手紙だから都合上「来て欲しい」なんて言葉を使っているけれど、実質これは強制だろう。

 大方、パーティーでは予定通り私に嫌がらせできなかったから、今度は祭典に来させようと考えているのだ。

 王太子の婚約者を外された女がのこのこ祭典に現れて、自分の立場に成り代わった者を下から眺めるなんて、普通なら屈辱以外の何物でもない。それをわかっていて招待しているのだ。

 それにしても、前回の人生では手紙までは来なかったのに、私が落ち込んでいないのがよほど気に入らないのかしら。ため息を吐きながら招待状を眺める。
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