上 下
52 / 87
閑話②.不幸になればいい カミリア視点

しおりを挟む
 しかし、王子様には当然婚約者がいた。その人はエヴェリーナ・アメルといい、公爵家のご令嬢なのだという。

 公爵家のご令嬢。私が嫌いな貴族令嬢の、頂点とも言える人だ。

 元から大金持ちの家に生まれて、本人は何の努力もしないまま王子の婚約者になれるなんて。あまりの不公平さに悔しくて歯噛みした。

 しかし、意外にもジャレッド様はエヴェリーナをあまり好いていないようだった。最初は気のせいかと思ったけれど、彼はエヴェリーナが近づくと明らかにめんどくさそうな顔をするのだ。

 ジャレッド様はエヴェリーナに対する態度とは反対に、私には大変優しかった。

 公爵令嬢に勝ったのだと思うと、胸に今まで感じたこともないような満足感が広がっていく。

 ジャレッド様は婚約者よりも私の方を気に入ってくれている。こんなチャンス、利用しない手はない。


 私はこっそりエヴェリーナの悪事をでっちあげて、ジャレッド様に伝えるようになった。ジャレッド様は私の言うことなら、証拠がなくても何でも信じてくれる。 

 私が悲しい顔を作ってエヴェリーナ様に突き飛ばされたと告げると、怒りを露わにしてすぐさま彼女を怒鳴りつけてくれた。

 すごく気分がいい。私は貴族のお嬢様よりも上にいるのだ。

 ジャレッド様が「エヴェリーナとは婚約破棄する。俺はカミリアと結婚したい」と言ってくれた時は、天にも昇る気持ちだった。

 ジャレッド様は、十九歳を祝うパーティーでエヴェリーナとの婚約を破棄すると約束してくれた。私はうきうきしながらその時を待った。


 なのに、婚約破棄を告げられたエヴェリーナは、想像とは全く違う反応をした。

 平然とした顔で婚約破棄を受け入れ、軽い足取りで会場を出て行ったのだ。泣いたり喚いたりする素振りは少しもなく、むしろ晴れやかな顔をしているようにすら見えた。

 会場に集まっていた人たちも皆呆気に取られていた。

 納得がいかなかったけれど、ただの強がりだと思い直した。きっと数日もすればジャレッド様に婚約を続けて欲しいと縋りにくるに違いない。もしくは怒りに任せて怒鳴り込んでくるかもしれない。

 そうしたら今度こそ、その哀れな姿を見て嘲笑ってやろうとエヴェリーナが来るのを心待ちにした。


 けれど、エヴェリーナはその後一切ジャレッド様や私に近づいてくることはなかった。メイドたちの噂によれば、あの女は落ち込む素振りもなく専属執事だとかいう男を連れて遊び回っているらしい。

 私が求めていたのはこんなことじゃない。私はもっと、エヴェリーナの悔しがる顔が見たいのだ。

 納得がいかなくて、私と同じく腑に落ちない様子でいるジャレッド様にエヴェリーナをパーティーに呼んで懲らしめるよう提案した。

 しかし、同時に最近しつこくなってうっとうしかった第二王子ミリウスとの関係を切ろうと考えたせいで予定外の騒ぎになり、結局何もできないまま終わってしまった。

 王宮に与えられた部屋でメイドに髪を整えてもらいながら、悔しくてぎりぎり爪を噛む。


 ふと、いい考えが頭に浮かんできた。もうすぐリスベリア王国では「リーシュの祭典」という国を挙げてのお祭りが行われる。そこで中心となるのは王族だ。

 私がエヴェリーナの代わりに未来の王妃として祭典に参加するさまを見せつけたら、さすがに悔しがるのではないだろうか。

 ぜひあの女に見せつけたい。いや、どうせならあの女がいかにみじめな存在なのか、国民みんなに見せてあげたい。

 私は鏡を見つめながら微笑んだ。

 落ちぶれたのにちっとも自分の立場をわかっていない様子のエヴェリーナ様には、私がちゃんとわからせてあげないと。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

処理中です...