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閑話②.不幸になればいい カミリア視点
②
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しかし、王子様には当然婚約者がいた。その人はエヴェリーナ・アメルといい、公爵家のご令嬢なのだという。
公爵家のご令嬢。私が嫌いな貴族令嬢の、頂点とも言える人だ。
元から大金持ちの家に生まれて、本人は何の努力もしないまま王子の婚約者になれるなんて。あまりの不公平さに悔しくて歯噛みした。
しかし、意外にもジャレッド様はエヴェリーナをあまり好いていないようだった。最初は気のせいかと思ったけれど、彼はエヴェリーナが近づくと明らかにめんどくさそうな顔をするのだ。
ジャレッド様はエヴェリーナに対する態度とは反対に、私には大変優しかった。
公爵令嬢に勝ったのだと思うと、胸に今まで感じたこともないような満足感が広がっていく。
ジャレッド様は婚約者よりも私の方を気に入ってくれている。こんなチャンス、利用しない手はない。
私はこっそりエヴェリーナの悪事をでっちあげて、ジャレッド様に伝えるようになった。ジャレッド様は私の言うことなら、証拠がなくても何でも信じてくれる。
私が悲しい顔を作ってエヴェリーナ様に突き飛ばされたと告げると、怒りを露わにしてすぐさま彼女を怒鳴りつけてくれた。
すごく気分がいい。私は貴族のお嬢様よりも上にいるのだ。
ジャレッド様が「エヴェリーナとは婚約破棄する。俺はカミリアと結婚したい」と言ってくれた時は、天にも昇る気持ちだった。
ジャレッド様は、十九歳を祝うパーティーでエヴェリーナとの婚約を破棄すると約束してくれた。私はうきうきしながらその時を待った。
なのに、婚約破棄を告げられたエヴェリーナは、想像とは全く違う反応をした。
平然とした顔で婚約破棄を受け入れ、軽い足取りで会場を出て行ったのだ。泣いたり喚いたりする素振りは少しもなく、むしろ晴れやかな顔をしているようにすら見えた。
会場に集まっていた人たちも皆呆気に取られていた。
納得がいかなかったけれど、ただの強がりだと思い直した。きっと数日もすればジャレッド様に婚約を続けて欲しいと縋りにくるに違いない。もしくは怒りに任せて怒鳴り込んでくるかもしれない。
そうしたら今度こそ、その哀れな姿を見て嘲笑ってやろうとエヴェリーナが来るのを心待ちにした。
けれど、エヴェリーナはその後一切ジャレッド様や私に近づいてくることはなかった。メイドたちの噂によれば、あの女は落ち込む素振りもなく専属執事だとかいう男を連れて遊び回っているらしい。
私が求めていたのはこんなことじゃない。私はもっと、エヴェリーナの悔しがる顔が見たいのだ。
納得がいかなくて、私と同じく腑に落ちない様子でいるジャレッド様にエヴェリーナをパーティーに呼んで懲らしめるよう提案した。
しかし、同時に最近しつこくなってうっとうしかった第二王子ミリウスとの関係を切ろうと考えたせいで予定外の騒ぎになり、結局何もできないまま終わってしまった。
王宮に与えられた部屋でメイドに髪を整えてもらいながら、悔しくてぎりぎり爪を噛む。
ふと、いい考えが頭に浮かんできた。もうすぐリスベリア王国では「リーシュの祭典」という国を挙げてのお祭りが行われる。そこで中心となるのは王族だ。
私がエヴェリーナの代わりに未来の王妃として祭典に参加するさまを見せつけたら、さすがに悔しがるのではないだろうか。
ぜひあの女に見せつけたい。いや、どうせならあの女がいかにみじめな存在なのか、国民みんなに見せてあげたい。
私は鏡を見つめながら微笑んだ。
落ちぶれたのにちっとも自分の立場をわかっていない様子のエヴェリーナ様には、私がちゃんとわからせてあげないと。
公爵家のご令嬢。私が嫌いな貴族令嬢の、頂点とも言える人だ。
元から大金持ちの家に生まれて、本人は何の努力もしないまま王子の婚約者になれるなんて。あまりの不公平さに悔しくて歯噛みした。
しかし、意外にもジャレッド様はエヴェリーナをあまり好いていないようだった。最初は気のせいかと思ったけれど、彼はエヴェリーナが近づくと明らかにめんどくさそうな顔をするのだ。
ジャレッド様はエヴェリーナに対する態度とは反対に、私には大変優しかった。
公爵令嬢に勝ったのだと思うと、胸に今まで感じたこともないような満足感が広がっていく。
ジャレッド様は婚約者よりも私の方を気に入ってくれている。こんなチャンス、利用しない手はない。
私はこっそりエヴェリーナの悪事をでっちあげて、ジャレッド様に伝えるようになった。ジャレッド様は私の言うことなら、証拠がなくても何でも信じてくれる。
私が悲しい顔を作ってエヴェリーナ様に突き飛ばされたと告げると、怒りを露わにしてすぐさま彼女を怒鳴りつけてくれた。
すごく気分がいい。私は貴族のお嬢様よりも上にいるのだ。
ジャレッド様が「エヴェリーナとは婚約破棄する。俺はカミリアと結婚したい」と言ってくれた時は、天にも昇る気持ちだった。
ジャレッド様は、十九歳を祝うパーティーでエヴェリーナとの婚約を破棄すると約束してくれた。私はうきうきしながらその時を待った。
なのに、婚約破棄を告げられたエヴェリーナは、想像とは全く違う反応をした。
平然とした顔で婚約破棄を受け入れ、軽い足取りで会場を出て行ったのだ。泣いたり喚いたりする素振りは少しもなく、むしろ晴れやかな顔をしているようにすら見えた。
会場に集まっていた人たちも皆呆気に取られていた。
納得がいかなかったけれど、ただの強がりだと思い直した。きっと数日もすればジャレッド様に婚約を続けて欲しいと縋りにくるに違いない。もしくは怒りに任せて怒鳴り込んでくるかもしれない。
そうしたら今度こそ、その哀れな姿を見て嘲笑ってやろうとエヴェリーナが来るのを心待ちにした。
けれど、エヴェリーナはその後一切ジャレッド様や私に近づいてくることはなかった。メイドたちの噂によれば、あの女は落ち込む素振りもなく専属執事だとかいう男を連れて遊び回っているらしい。
私が求めていたのはこんなことじゃない。私はもっと、エヴェリーナの悔しがる顔が見たいのだ。
納得がいかなくて、私と同じく腑に落ちない様子でいるジャレッド様にエヴェリーナをパーティーに呼んで懲らしめるよう提案した。
しかし、同時に最近しつこくなってうっとうしかった第二王子ミリウスとの関係を切ろうと考えたせいで予定外の騒ぎになり、結局何もできないまま終わってしまった。
王宮に与えられた部屋でメイドに髪を整えてもらいながら、悔しくてぎりぎり爪を噛む。
ふと、いい考えが頭に浮かんできた。もうすぐリスベリア王国では「リーシュの祭典」という国を挙げてのお祭りが行われる。そこで中心となるのは王族だ。
私がエヴェリーナの代わりに未来の王妃として祭典に参加するさまを見せつけたら、さすがに悔しがるのではないだろうか。
ぜひあの女に見せつけたい。いや、どうせならあの女がいかにみじめな存在なのか、国民みんなに見せてあげたい。
私は鏡を見つめながら微笑んだ。
落ちぶれたのにちっとも自分の立場をわかっていない様子のエヴェリーナ様には、私がちゃんとわからせてあげないと。
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