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5.リーシュの神殿
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馬車はゆっくりと進み、やがて二つ並んだ尖塔の、建物の真ん中に大きな時計が飾られた建物が見えてくる。リーシュの神殿だ。
神殿には今日もたくさんの人々が詰めかけていた。
敬虔な信者らしき人から、家族でお散歩代わりに訪れたような人まで、訪れる人々の種類は幅広い。
リーシュの神殿は二階から上こそ関係者以外の立ち入りを厳重に禁止しているものの、一階部分と庭園には誰でも自由に入れるようになっている。
庭園から少し歩いた先にはお店の集まる通りもあるため、リスベリア王国民の憩いの場になっていた。
私とサイラスは、人々の中に混じって神殿の門をくぐる。
「神殿に来るのなんて久しぶりだわ。カミリアの聖女の儀を見たとき以来かしら」
その儀式のときも促されるまま神殿の二階に上がり儀式を見ただけで、賑やかな一階や庭園には足を運ばなかった。
カミリアが王都にやって来てジャレッド王子が彼女を気に入りだしてから、神殿は私にとって不愉快な場所でしかなかったので、極力近づかないようにしていたのだ。
「今日はカミリア様に会う心配はありませんから、安心して過ごせますね」
サイラスはいたずらっぽく笑って言う。本当ね、と私も笑顔でうなずいた。
人々の列に続いて祭壇の間まで進む。
中へ入ると、奥のほうに大きな白いカーテンが見えた。白く透き通るカーテンの中はうっすらと光っている。あの中には女神様がいるとされている。
私とサイラスは部屋の入口で女神様に捧げる花束をもらい、祭壇の前にできた列に並んだ。順番が来て祭壇の前に立つと、カーテンの前にそっと花束を置く。
すでにたくさんの人がお供えしてあるため、祭壇の前は色鮮やかな花でいっぱいだった。
手を組み合わせて女神様の前でお祈りをする。私は今までの人生で一番というくらい真剣に、ここにいるというリーシュ様に語りかけた。
リーシュ様。時を巻き戻してくれたのはあなたなのですか。
もしそうならお礼を言わせてください。心からの願いが叶って私はとても幸せです。
二度目の人生では、絶対に大切なものを間違えたりしません。だからどうか見守っていてください。
リーシュ様にお礼を言い終え、ふと隣を見ると、サイラスも真剣な様子で祭壇に向かって手を組み合わせていた。
じっと見ていると、サイラスが顔を上げて恥ずかしそうな顔をする。
「お嬢様、終わりましたか?」
「ええ。サイラスももういいの?」
「はい。行きましょうか」
祭壇の前から離れて、扉のほうに歩いていく。
「サイラスは何をお祈りしたの?」
「お嬢様がずっと幸せでいられますようにと」
サイラスはやっぱり恥ずかしそうな顔で言う。さっきの真剣な顔は私のことを考えていたのかと思うと、私までなんだか恥ずかしくなった。せっかく来たのだから、自分のことを願えばいいのに。
「……私もサイラスのことでお礼を言ったのよ」
「私のことですか?」
サイラスは不思議そうな顔をする。
「なんのお礼なのかやっぱり気になります……。一体何があったのですか?」
「秘密。言ったってわからないもの」
実は私は巻き戻っていて、女神様のおかげで、死んでしまったサイラスにまた会えたかもしれないの、なんて言ったって頭がおかしくなったのかと疑われるだけだ。
サイラスはよほど気になるようで何度も尋ねてきたけれど、私は笑うだけで答えを教えてあげなかった。
「それより私、神殿の外の通りに寄りたいの! いいでしょう?」
「もちろん構いませんが、本当に一体何が……」
「そんなこと気にしなくていいじゃない。早く出ましょう!」
私はまだ答えを気にしている様子のサイラスの手を取り、早足で歩き出す。
あぁ、今日も本当に楽しい。こんなに毎日幸せでいいのかしら。
神殿には今日もたくさんの人々が詰めかけていた。
敬虔な信者らしき人から、家族でお散歩代わりに訪れたような人まで、訪れる人々の種類は幅広い。
リーシュの神殿は二階から上こそ関係者以外の立ち入りを厳重に禁止しているものの、一階部分と庭園には誰でも自由に入れるようになっている。
庭園から少し歩いた先にはお店の集まる通りもあるため、リスベリア王国民の憩いの場になっていた。
私とサイラスは、人々の中に混じって神殿の門をくぐる。
「神殿に来るのなんて久しぶりだわ。カミリアの聖女の儀を見たとき以来かしら」
その儀式のときも促されるまま神殿の二階に上がり儀式を見ただけで、賑やかな一階や庭園には足を運ばなかった。
カミリアが王都にやって来てジャレッド王子が彼女を気に入りだしてから、神殿は私にとって不愉快な場所でしかなかったので、極力近づかないようにしていたのだ。
「今日はカミリア様に会う心配はありませんから、安心して過ごせますね」
サイラスはいたずらっぽく笑って言う。本当ね、と私も笑顔でうなずいた。
人々の列に続いて祭壇の間まで進む。
中へ入ると、奥のほうに大きな白いカーテンが見えた。白く透き通るカーテンの中はうっすらと光っている。あの中には女神様がいるとされている。
私とサイラスは部屋の入口で女神様に捧げる花束をもらい、祭壇の前にできた列に並んだ。順番が来て祭壇の前に立つと、カーテンの前にそっと花束を置く。
すでにたくさんの人がお供えしてあるため、祭壇の前は色鮮やかな花でいっぱいだった。
手を組み合わせて女神様の前でお祈りをする。私は今までの人生で一番というくらい真剣に、ここにいるというリーシュ様に語りかけた。
リーシュ様。時を巻き戻してくれたのはあなたなのですか。
もしそうならお礼を言わせてください。心からの願いが叶って私はとても幸せです。
二度目の人生では、絶対に大切なものを間違えたりしません。だからどうか見守っていてください。
リーシュ様にお礼を言い終え、ふと隣を見ると、サイラスも真剣な様子で祭壇に向かって手を組み合わせていた。
じっと見ていると、サイラスが顔を上げて恥ずかしそうな顔をする。
「お嬢様、終わりましたか?」
「ええ。サイラスももういいの?」
「はい。行きましょうか」
祭壇の前から離れて、扉のほうに歩いていく。
「サイラスは何をお祈りしたの?」
「お嬢様がずっと幸せでいられますようにと」
サイラスはやっぱり恥ずかしそうな顔で言う。さっきの真剣な顔は私のことを考えていたのかと思うと、私までなんだか恥ずかしくなった。せっかく来たのだから、自分のことを願えばいいのに。
「……私もサイラスのことでお礼を言ったのよ」
「私のことですか?」
サイラスは不思議そうな顔をする。
「なんのお礼なのかやっぱり気になります……。一体何があったのですか?」
「秘密。言ったってわからないもの」
実は私は巻き戻っていて、女神様のおかげで、死んでしまったサイラスにまた会えたかもしれないの、なんて言ったって頭がおかしくなったのかと疑われるだけだ。
サイラスはよほど気になるようで何度も尋ねてきたけれど、私は笑うだけで答えを教えてあげなかった。
「それより私、神殿の外の通りに寄りたいの! いいでしょう?」
「もちろん構いませんが、本当に一体何が……」
「そんなこと気にしなくていいじゃない。早く出ましょう!」
私はまだ答えを気にしている様子のサイラスの手を取り、早足で歩き出す。
あぁ、今日も本当に楽しい。こんなに毎日幸せでいいのかしら。
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