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2.恩返し

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「お嬢様、今日はありがとうございました。一生の思い出にします」

 日が暮れ始めた頃、サイラスは大荷物を抱えたまま満面の笑みで言った。喜んでくれたのはよかったが、私にはまったく納得がいかない。

「ちょっと待ってよ。今日はあなたにプレゼントを買うはずだったのに、私の買い物ばかりになってたじゃない」

「私は特に欲しい物はないので……。お嬢様と一緒に買い物ができて幸せでした」

「私は満足してない! ちょっと待ってなさい。今馬車を呼ぶから」

 私はそう言うと、通信機付きのペンダントを開いて公爵家の馬車を呼び出した。ついでにこれから行く予定の場所にも連絡を入れる。

「お嬢様? どこに行くんですか?」

「このままでは終わらせないわよ。まだつき合ってもらうから」

 サイラスは不思議そうにしていたが、私は特に説明せずに馬車がやって来ると彼を中へ押し込んだ。


 先ほどまでいた街から反対方面に向かい、貴族の多く暮らすエリアまで向かう。

 到着したのは貴族用の服を取り扱うブティック。まるで小さな宮殿のような造りの建物の前では、黒いシンプルなドレスを着た店員が笑顔で待っていた。

 私は、建物を眺めながら状況の呑み込めていない顔をしているサイラスの背中を押す。

「さぁ、サイラス。早く中で服を買いましょう。あなたに似合うのを選んであげるわ」

「お嬢様、このような高級店で買い物をするのは、金銭面で私には少々厳しいのですが……」

「私が払うに決まってるでしょう。さぁ、早く入って」

 私は困惑するサイラスを無理やり店内に押し込む。そして彼に似合いそうな服を選んで、店員に預けた。

 サイラスに着せてくれるよう頼むと、店員は快く了承してくれる。サイラスは戸惑い顔のまま、店員に引っ張られていった。


「まぁ、サイラス! とっても似合ってるわ!」

 店員に連れられ試着室から戻って来たサイラスを見て、思わず明るい声が出た。

 サイラスの赤い目に合うように、ワインレッドのベストに赤い刺繍の入った黒のジャケット、同じく黒色のトラウザーズを選んでみたが、想像以上によく似合っている。

 サイラスはもともと綺麗な顔をしていて背も高いから、少々華美な服を着てもちっとも負けていなかった。

「あの、お嬢様……。私にこんないい服はもったいないです」

 せっかく似合っているというのに、サイラスは落ち着かなそうにしている。

「そんなことないわ。ぜひこの服を買いましょう」

「このようなものを頂くわけにはまいりません」

「だめよ。だってこれから行くお店には、さっきまで着ていた服で入るわけにはいかないんですもの」

「これから行く店?」

 サイラスは不思議そうにしているが、やっぱり説明はしてあげない。どこに行くか言って遠慮されたら困るのだ。


「私も着替えて来るから、ちょっと待っててね」

「あっ、お嬢様!」

 後ろからサイラスに引き止められたが、私は構わず駆け出した。
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