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2.恩返し

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「お嬢様。これは一体どういうことでしょうか…」

 テーブルの上には溢れ返るほどの料理が並んでいる。ローストチキンに仔牛肉のステーキ、オニオンスープ、サラダ、キッシュ、クリームパイ。デザートにはプディングとタルト、それに小さな砂糖菓子をたくさん用意してもらった。

 屋敷に帰ってくるなり、思いつくままにシェフに作らせたものだ。


「サイラスは何が好き? そういえばそういうの全然知らなかったから、できるだけたくさん作ってもらったの」

 私はテーブルの横でぽかんとしているサイラスを、無理矢理椅子に座らせながら言う。

「いや、お嬢様。ちょっと……」

「好きなだけ食べて。リクエストがあればなんでも言ってちょうだい」

「いえ、お嬢様! こんないいものをいただけません。そもそも勤務中ですから」

 私にがっしりと肩を押さえつけられたサイラスは、振り払うわけにもいかないようで困りきった顔をしている。

「勤務中? 大丈夫よ。あなたは今日から仕事をしなくていいわ」

「え? どういうことですか」

「あなたの仕事は別の人を雇ってやらせるから。あなたはもう何もしなくていいの」

「え!? それはクビということですか!?」

 にっこり笑って言うと、サイラスは顔を青ざめさせて言った。予想外の反応に私は口を尖らせる。

「違う! あなたはただここにいてくれればいいのよ」

「そういうわけにはいきません。私は執事として雇われているのですから」

「私からお父様に言っておくわ。サイラスには今日から何もやらせないでって」

「お嬢様、本当にどうなさったんですか……!?」

 笑顔で提案したのに、サイラスは絶対にだめだと言って譲らない。

 しばらく問答したが、まったく折れてくれそうにないので諦めることにした。仕方ない。サイラスが執事の仕事をする傍ら、私が接待してあげるしかないようだ。

 けれどせめてシェフに作らせたこの料理だけでも食べて欲しい。

  私はなかなか料理に手をつけないサイラスに、スプーンでスープを掬って口に運ぶ。

「サイラス。はい、あーん」

「お、お嬢様、おやめください。こんなことしていただくわけには」

「せっかくシェフが作ってくれたのよ。さぁ、早く食べて」

 私がぐいぐいスプーンを口に近づけると、サイラスは顔を赤くしておろおろする。それから観念したように口を開いて、スープを飲み込んだ。

「……とてもおいしいです」

「本当? それはよかった! 夜もサイラスの分を用意してもらうから、今日から使用人用の食堂じゃなくてダイニングルームで一緒に食べましょうね」

「お嬢様、これでもう十分です! これ以上はお許しください……!」

 サイラスがあんまり困った顔をするので、ダイニングルームで一緒に食事をするのも諦めることになった。人を幸せにしてあげるというのは案外難しいものだ。


「さぁ、次は新しいあなたのお部屋を用意しましょう!」

 サイラスに半ば無理矢理料理を食べさせ終わると、私は元気よく言った。サイラスはまた首を傾げている。

「部屋? お部屋ならすでに使用人寮の一室をいただいていますよ」

「使用人の部屋ではだめよ。あなたにはもっといいお部屋を用意してあげる」

 私はそう言ってサイラスの手を引いて走りだした。サイラスが後ろでお嬢様、だめですと慌てているが、気にしない。

 なんだかすごくわくわくしていた。私はこれから、サイラスにどんな恩返しをすることもできるのだ。

 だってサイラスも私も生きているのだから。
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