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1.二度目の世界
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私の一度目の人生は、最悪な形で幕を下ろした。
はじまりは、婚約者であるリスベリア王国の王太子ジャレッド・ハーディング殿下に婚約破棄を告げられたこと。
彼は、私が聖女カミリアをいじめたなどと事実無根の主張をして、みんなの前で断罪した。
王子に婚約破棄された上に聖女に危害を加えたとあっては、いくら公爵令嬢といえども立場が悪くなるのは免れられない。
私の住むリスベリア王国は、五百年前に女神様と英雄が力を合わせて建国したと言われている。
女神を祀る神殿は現在でも大きな影響力を持ち、女神に加護を与えられた存在である聖女も同様に大きな力を持っているのだ。
そんな聖女を敵に回して、ただで済むはずがない。
私は社交界の隅に追いやられ、家族からも疫病神と罵られて、あっという間に居場所を失ってしまった。
何度も自分の運命を呪った。
親に決められた婚約者ではあったけれど、私はジャレッド王子のことが好きだったのだ。
王子の婚約者にふさわしい自分であろうと、常に自分を抑え、わがままを言わず、やりたいことも欲しいものも全て我慢してきた。
それなのに、ジャレッド王子が選んだのは自由奔放でわがまま放題のカミリアのほう。
特別な聖魔法の力を持っていることがわかり平民から王宮で暮らす聖女になったカミリアは、堅苦しい王族や貴族たちの間でもよく目を引いた。
その甘えたような無邪気な笑みに、ジャレッド王子だけでなく第二王子のミリウス様や、宰相のご子息、王宮の魔導士長まで心を奪われていくのが傍で見ていてわかった。
愛するカミリアに危害を加えた者として権力者たちから恨みを買った私は、もう這い上がることのできない立場まで落とされてしまった。
当時の私にできたのは、公爵家の部屋でただ一人声を殺して泣くことだけ。
ジャレッド王子が、そして何よりカミリアが憎くて堪らなかった。私をこんな目に遭わせておいて、あいつらが幸せになるなんて許せない。
それで、復讐しようと考えた。
聖女であるカミリアは王宮から毎日神殿に通っている。彼女が神殿に向かう途中、一人になる瞬間を狙って彼女を刺すように男を雇って依頼した。
暗殺者なんてどう探せばいいのかわからなかったけれど、私の現状に同情したある公爵家のご子息が紹介を申し出てくれたのだ。
しかし、暗殺は失敗。暗殺者はカミリアの腕に軽いけがを負わせることしかできなかった。
王子は見えないところでカミリアを守るよう護衛をつけており、私の雇った暗殺者はしばらく逃げ通したものの、あっさり捕まったらしいのだ。
今考えると、私はあの暗殺者を紹介すると持ちかけて来た公爵令息に騙されたのではないかと思う。だって、あまりにもあっけなさ過ぎるもの。
今ならそんな怪しい話に乗るなんて馬鹿みたいだと考えられるけど、あの時はもう失意のどん底で、まともな判断ができなくなっていたのだ。
私はカミリア暗殺未遂事件の首謀者として牢屋に放り込まれた。
そして、聖女であり王太子の婚約者でもあるカミリアを殺害しようとした罪で、処刑されることになった。
暗い牢屋の中で、どうして私がこんな目に、と何もかもを憎みながら過ごした。私には首を切り落とされる瞬間まで、もうこの暗い牢屋の景色しか見られない。そう思うと絶望が込み上げてくる。
しかし、ある日私はあっさり解放された。
真犯人が見つかったのだという。
そんなはずはない。正真正銘、犯人は私なのに。
私の一度目の人生は、最悪な形で幕を下ろした。
はじまりは、婚約者であるリスベリア王国の王太子ジャレッド・ハーディング殿下に婚約破棄を告げられたこと。
彼は、私が聖女カミリアをいじめたなどと事実無根の主張をして、みんなの前で断罪した。
王子に婚約破棄された上に聖女に危害を加えたとあっては、いくら公爵令嬢といえども立場が悪くなるのは免れられない。
私の住むリスベリア王国は、五百年前に女神様と英雄が力を合わせて建国したと言われている。
女神を祀る神殿は現在でも大きな影響力を持ち、女神に加護を与えられた存在である聖女も同様に大きな力を持っているのだ。
そんな聖女を敵に回して、ただで済むはずがない。
私は社交界の隅に追いやられ、家族からも疫病神と罵られて、あっという間に居場所を失ってしまった。
何度も自分の運命を呪った。
親に決められた婚約者ではあったけれど、私はジャレッド王子のことが好きだったのだ。
王子の婚約者にふさわしい自分であろうと、常に自分を抑え、わがままを言わず、やりたいことも欲しいものも全て我慢してきた。
それなのに、ジャレッド王子が選んだのは自由奔放でわがまま放題のカミリアのほう。
特別な聖魔法の力を持っていることがわかり平民から王宮で暮らす聖女になったカミリアは、堅苦しい王族や貴族たちの間でもよく目を引いた。
その甘えたような無邪気な笑みに、ジャレッド王子だけでなく第二王子のミリウス様や、宰相のご子息、王宮の魔導士長まで心を奪われていくのが傍で見ていてわかった。
愛するカミリアに危害を加えた者として権力者たちから恨みを買った私は、もう這い上がることのできない立場まで落とされてしまった。
当時の私にできたのは、公爵家の部屋でただ一人声を殺して泣くことだけ。
ジャレッド王子が、そして何よりカミリアが憎くて堪らなかった。私をこんな目に遭わせておいて、あいつらが幸せになるなんて許せない。
それで、復讐しようと考えた。
聖女であるカミリアは王宮から毎日神殿に通っている。彼女が神殿に向かう途中、一人になる瞬間を狙って彼女を刺すように男を雇って依頼した。
暗殺者なんてどう探せばいいのかわからなかったけれど、私の現状に同情したある公爵家のご子息が紹介を申し出てくれたのだ。
しかし、暗殺は失敗。暗殺者はカミリアの腕に軽いけがを負わせることしかできなかった。
王子は見えないところでカミリアを守るよう護衛をつけており、私の雇った暗殺者はしばらく逃げ通したものの、あっさり捕まったらしいのだ。
今考えると、私はあの暗殺者を紹介すると持ちかけて来た公爵令息に騙されたのではないかと思う。だって、あまりにもあっけなさ過ぎるもの。
今ならそんな怪しい話に乗るなんて馬鹿みたいだと考えられるけど、あの時はもう失意のどん底で、まともな判断ができなくなっていたのだ。
私はカミリア暗殺未遂事件の首謀者として牢屋に放り込まれた。
そして、聖女であり王太子の婚約者でもあるカミリアを殺害しようとした罪で、処刑されることになった。
暗い牢屋の中で、どうして私がこんな目に、と何もかもを憎みながら過ごした。私には首を切り落とされる瞬間まで、もうこの暗い牢屋の景色しか見られない。そう思うと絶望が込み上げてくる。
しかし、ある日私はあっさり解放された。
真犯人が見つかったのだという。
そんなはずはない。正真正銘、犯人は私なのに。
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