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わがまま令嬢は改心して処刑される運命を回避したい

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***

 デズモンドはセアラを西棟の一室まで連れて行った。

「セアラ様、お茶をどうぞ。この紅茶好きでしたよね?」

「ええ。ありがとう」

 デズモンドからにこやかにカップを勧められ、セアラは警戒しながら受け取る。もちろん口をつける気はない。

「ウェンディ様とは変わらず家に招き合ったりしているんですか?」

「ええ、まあ。仲良くしていただいておりますわ」

 セアラは作り笑顔で答える。デズモンドはそれはよかったです、と笑った。

 それからリボンのついた小瓶を差し出して言う。

「話というのは大したことじゃないのですよ。これは以前にも話した、うちによく出入りする商人がくれた珍しい紅茶です。前にウェンディ様と話した時、彼女も好きだと仰っていました。よろしければセアラ様の自宅に招かれた時に出して差し上げてください」

「まあ。ありがとうございます。デズモンド様。けれど、私に渡すよりも直接ウェンディ様に渡された方がいいのではなくて?」

 セアラは顔が引きつりそうになるのをこらえて笑顔で言う。夢で見たのと同じシチュエーションだ。夢の中の自分は何の疑いもなく受け取っていたが、よく考えればなぜ直接渡せるものをセアラが仲介しなければならないのか。

「私から渡すよりも、仲の良いセアラ様のご自宅で一緒に召しあがる方がいいと思ったのです。どうぞお受け取りください」

「……そう?では受け取っておきますわ」

 セアラは仕方なく紅茶を手に取る。家に帰ったらすぐに処分しよう、と心に決めた。


「紅茶、全く召し上がっていませんね」

 デズモンドはセアラの前のカップをじっと鋭い目で見つめながら言う。セアラは一瞬言葉に詰まり、それからごまかすように言った。

「……実は先ほどもウェンディ様とお茶をいただきましたの。だからあまり喉が渇いていなくて」

「そうだったのですか。それは失礼しました」

 デズモンドはすぐににこやかな表情に戻って言う。


「……最近、グレアム様とよく一緒にいますね」

 少しの沈黙の後、デズモンドが静かな声で言った。

「ええ。そうですわね」

「セアラ様、失礼ですが以前はグレアム様のことをあまりよく思っていなかったのでは?どうして急に?」

「そうだったのですけれど、話してみると案外いい人だったんですの。以前の私は浅はかでしたのね。グレアム様は間違ったことを言っていないのに反発ばかりして」

「グレアム様のことがお好きなのですか?」

 デズモンドは突然真剣な声で言う。セアラは唐突な言葉に眉をひそめた。


「突然ですわね。確かにお友達としては好きですけれど。それだけですわ」

「ずっと気になっていたのです。今までは私とウェンディ様以外には人を人とも思わないような態度ばかり取っていたセアラ様が、最近誰に対しても礼儀正しいと。その上、以前なら顔を見ただけで嫌そうな顔を隠しもしなかったグレアム様と頻繁に話し込んでいるなんて」

 デズモンドは深刻そうな顔で言う。セアラは失礼ね、と憤慨しかけたが、言われてみれば確かにその通りだったので仕方なく黙った。

 デズモンドは続ける。

「近頃のセアラ様はおかしい。私のことを意図的に避けてらっしゃいますよね?私が何かしましたか?それとも心情に変化が現れるようなことが?」

「嫌ですわ。避けてなんか。さっきも言った通り、クラスが違うのでなかなか顔を合わせる機会がないだけですわ」

 セアラは素知らぬ顔で言い訳をする。


 デズモンドはおそらく、セアラをウェンディを害するための都合の良い道具くらいに思っているのだろう。

 少しおだてれば簡単に信用して思い通りに動いてくれるのだ。以前のセアラほど扱いやすい駒はなかったはずだ。だから急にセアラの態度が変わり、焦っているに違いない。

 都合よく扱われているだけだったのにデズモンドの言葉一つに一喜一憂していたなんて、とセアラは過去の自分に同情した。
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