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わがまま令嬢は改心して処刑される運命を回避したい
①
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公爵令嬢セアラ・フォーサイスはわがままな娘だった。
屋敷に気に入らない使用人がいればいじめ倒して追い出し、学園で彼女に追従しない者がいれば容赦なく家の力でねじ伏せた。
周りの者は皆彼女を恐れるようになり、セアラの周りに彼女を無条件に肯定するものしかいなくなった。
快適な環境に彼女は非常に満足していた。
しかし、ただ一人、セアラを否定する者がいた。
「セアラ様はもう少し周りの人間の気持ちを推し量れるようになるべきです」
セアラのクラスメイトで、侯爵家の次男のグレアムは、ことあるごとにセアラを非難した。セアラはそれが腹立たしく、極力彼とは関わらないようにしていた。
ほかの気に入らないクラスメイトのように排除してしまえれば楽なのだが、グレアムの家はフォーサイス家よりは格が下とはいえ、セアラの機嫌ひとつでどうにかできるものではない。
セアラにとってグレアムは、極めて邪魔な存在だった。
しかし、ある時から彼女の価値観は一変する。
***
「はぁっ、はぁっ、……何なのよ、あの夢!!」
セアラはベッドから勢いよく飛び起きた。震えが止まらない。汗がじとりと頬を流れる。
「……最低だわ」
セアラは夢と言うにはあまりにもリアルな映像を見た。
この国の第一王女ウェンディ様に毒を飲ませ、その罪で処刑される夢だ。
ウェンディ様はセアラと同い年で、同じ王立学園に通うクラスメイトだ。
横暴なセアラだが王女であるウェンディ様にはさすがに無礼なことはできず、むしろ媚びた態度を取っていた。ウェンディ様の方でもセアラを信用しており、時折お茶会に誘ったり、反対にセアラの家を訪れたりしていた。
夢の中でも、セアラはウェンディをフォーサイス家に招待していた。しかし、ウェンディはカップの紅茶を口に含んだ途端、急に苦しみ始める。
ウェンディはすぐに医師の元まで運ばれ、直前に飲んだ紅茶の調査が行われた。結果、その紅茶には致死性の毒が含まれていることがわかった──……。
「よりによってどうしてウェンディ様を……。しかもデズモンド様にもらった紅茶でなんて!」
セアラには学園の中でウェンディ様のほかにもう一人、一目置いている者がいた。伯爵家の令息デズモンドだ。身分こそ公爵令嬢のセアラに比べて高くないが、デズモンドは甘やかな大変美しい顔をしていた。
それでいていつもセアラに親切で、セアラの言うことには何でも賛同してくれるのだ。
セアラはデズモンドを大変気に入っていた。夢の中でそのデズモンドから、ウェンディ様がこちらの紅茶をお好きだそうなので出して差し上げてくださいと言われ、疑うことなく受け取ってしまったのも無理もないことだろう。
処刑の時、セアラを囲む群衆は皆笑っていた。見知った顔もいくつもあった。屋敷から追い出した元使用人。気に入らないからと排斥したクラスメイト。言うことを聞かないので学園を辞めさせた教師。
その真ん中にはたいそう嬉し気な顔でこちらを見つめるデズモンドがいた。
あまりにも嫌な光景だったからか、思い出すと記憶にもやがかかって、頭がずきずき痛み出してくる。
セアラが処刑される瞬間、悲しい顔をする者は誰一人としていなかった。皆満足気な顔か、それでなければ嘲りの表情を浮かべてセアラを見ていた。
……いや、皆、だっただろうか。一人だけ泣いてくれていた者がいた気がするのに、よく思い出せない。
ショックで後から記憶を継ぎ足しているだけで、本当はそんな人出てこなかったのかもしれない。
「……なんにしろ、本当に嫌な夢だわ」
セアラは首に手をあてて低い声で呟いた。首にはまだ刃が食い込む感覚が生々しく残っている。セアラには今みた光景が、ただの夢だとは思えなかった。
屋敷に気に入らない使用人がいればいじめ倒して追い出し、学園で彼女に追従しない者がいれば容赦なく家の力でねじ伏せた。
周りの者は皆彼女を恐れるようになり、セアラの周りに彼女を無条件に肯定するものしかいなくなった。
快適な環境に彼女は非常に満足していた。
しかし、ただ一人、セアラを否定する者がいた。
「セアラ様はもう少し周りの人間の気持ちを推し量れるようになるべきです」
セアラのクラスメイトで、侯爵家の次男のグレアムは、ことあるごとにセアラを非難した。セアラはそれが腹立たしく、極力彼とは関わらないようにしていた。
ほかの気に入らないクラスメイトのように排除してしまえれば楽なのだが、グレアムの家はフォーサイス家よりは格が下とはいえ、セアラの機嫌ひとつでどうにかできるものではない。
セアラにとってグレアムは、極めて邪魔な存在だった。
しかし、ある時から彼女の価値観は一変する。
***
「はぁっ、はぁっ、……何なのよ、あの夢!!」
セアラはベッドから勢いよく飛び起きた。震えが止まらない。汗がじとりと頬を流れる。
「……最低だわ」
セアラは夢と言うにはあまりにもリアルな映像を見た。
この国の第一王女ウェンディ様に毒を飲ませ、その罪で処刑される夢だ。
ウェンディ様はセアラと同い年で、同じ王立学園に通うクラスメイトだ。
横暴なセアラだが王女であるウェンディ様にはさすがに無礼なことはできず、むしろ媚びた態度を取っていた。ウェンディ様の方でもセアラを信用しており、時折お茶会に誘ったり、反対にセアラの家を訪れたりしていた。
夢の中でも、セアラはウェンディをフォーサイス家に招待していた。しかし、ウェンディはカップの紅茶を口に含んだ途端、急に苦しみ始める。
ウェンディはすぐに医師の元まで運ばれ、直前に飲んだ紅茶の調査が行われた。結果、その紅茶には致死性の毒が含まれていることがわかった──……。
「よりによってどうしてウェンディ様を……。しかもデズモンド様にもらった紅茶でなんて!」
セアラには学園の中でウェンディ様のほかにもう一人、一目置いている者がいた。伯爵家の令息デズモンドだ。身分こそ公爵令嬢のセアラに比べて高くないが、デズモンドは甘やかな大変美しい顔をしていた。
それでいていつもセアラに親切で、セアラの言うことには何でも賛同してくれるのだ。
セアラはデズモンドを大変気に入っていた。夢の中でそのデズモンドから、ウェンディ様がこちらの紅茶をお好きだそうなので出して差し上げてくださいと言われ、疑うことなく受け取ってしまったのも無理もないことだろう。
処刑の時、セアラを囲む群衆は皆笑っていた。見知った顔もいくつもあった。屋敷から追い出した元使用人。気に入らないからと排斥したクラスメイト。言うことを聞かないので学園を辞めさせた教師。
その真ん中にはたいそう嬉し気な顔でこちらを見つめるデズモンドがいた。
あまりにも嫌な光景だったからか、思い出すと記憶にもやがかかって、頭がずきずき痛み出してくる。
セアラが処刑される瞬間、悲しい顔をする者は誰一人としていなかった。皆満足気な顔か、それでなければ嘲りの表情を浮かべてセアラを見ていた。
……いや、皆、だっただろうか。一人だけ泣いてくれていた者がいた気がするのに、よく思い出せない。
ショックで後から記憶を継ぎ足しているだけで、本当はそんな人出てこなかったのかもしれない。
「……なんにしろ、本当に嫌な夢だわ」
セアラは首に手をあてて低い声で呟いた。首にはまだ刃が食い込む感覚が生々しく残っている。セアラには今みた光景が、ただの夢だとは思えなかった。
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