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令嬢の日常

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アナスタシアの一日は、日の光と共に始まる。侍女によって窓掛けが際まで引かれ、柔らかな光が頬にあたる。
 
窓から見える庭は、常通り整然としていて、季節の花々が見る者の眼を楽しませるべく華麗に咲き誇っている。

こんなにも気持ちのよい朝だと言うのに、彼女の寝覚めは最悪だった。
なぜなら夢の中で断片的にゲーム内容を追体験してしまったから。
 
要注意人物の一人、魔法使いルートでの運命。
 
主人公は彼と泣く泣く別離し、そこで物語は終わりかと思いきや、八つ当たりの如く闇魔法をかけられ意志を奪われる自分(悪役令嬢)。生きた人形となって監禁されるのはどう考えてもおかしい。
 
おまけに物言わぬ君が一番美しい…と笑う様が狂気に満ち満ちていて、アナスタシアの肩をふるりと震わせるのだった。

(味方を何としても得なくては…!)


焦りが募る。公爵邸で見つけるのは不可能に近い。既に優秀な者は父や兄にとられている。自分が提示できるメリットは何か。考えたところで無いに等しい。いずれ嫁ぐ身であり、代わりのきく三女。邸から抜け出して見つけようにも分刻みのスケジュールがそれを由としない。


マナーだの乗馬だのピアノだの挙げればきりがない。脈々と続く歴史に恥じないようにと詰め込まれる教育。基本社交で忙しい父母。

自分の血を拠り所にし励み、行き過ぎた価値観を持つようになるのは自然な成り行きかもしれない、とアナスタシアは思った。
 
 
利を与えられるかはとかく、味方にしたいと思うのは戦闘能力が高く裏切らない者だ。

頭に浮かぶのは昨夜のこと。月の綺麗な夜。自分を捕らえにきた男。彼を引き入れられれば…。
 
ああは言ったが、自分が父に頼んで彼を雇ってもらうというのは現実的ではない。父が、どこの馬の骨とも知らぬ男を雇い入れるとは思えなかったし、仮に優秀さを見込んで雇い入れたとしても自分にはつけないだろう。

幼い自分の我儘で通せる範疇を超えているとも思う。


ならばどうするか…。決まっている。父には言わずに専属にする。何を望むのかにもよるが、彼が求めるものを私は知っている気がする。彼はきっと…。


それは不思議な確信。彼に興味を覚えた自分の直感を信じよう。決意と共に胸が熱くなる。希望が見えてきた。


しかし忘れていたのだ。自分が顔立ちの整った美幼女であり、連れ去られたらアウトだということを。

 
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