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ー第14話ー

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クローゼットの中にはサイズ違いで同じような服がたくさん入っていた。これが鍵師の正装なのだろうか、恐らく当主が変わっても着れるよういくつも準備されているのだろう。



風呂場の洗面台下にある棚に散髪用のはさみを見つけた。自分でうまく切る自信がなかったので、視界が開ける程度に前髪だけ長さを変え、後は後ろで三つ編みに束ねることにした。




<うん、いいじゃないか!清潔感もあるし何より気品にあふれている。見違えるようだよ>



「あぁ、何だか人間に戻ったって気がするぜ」



擦り切れていない、新品同様の服に肌がふれる感覚は久しぶりで、カインはくすぐったさを覚えた。


(まだ暗くなるまで時間があるな。今後拠点をこの家にするなら荷物を移しておきたい・・・)




「あ!」




思い出したようにカインは最初に入ってきたこの家の玄関に目をやった。カイン自身が占めた覚えはないが、恐らく勝手に自重で閉まったのだろう。




玄関の前まで行き扉を開ける。来たときは空間接続術式で向こう側が自分の家になっていたが、どうやら一度閉じると接続が切れてしまうようだ。扉の向こうに広がっていたのは夕焼けが差す広大な森。シンとした空気がカインの頬を撫でた。




(あれ、ちょっと待てよ?来たとき使ったあの鍵はどんな扉からでもこの場所につながるように作られた鍵だったよな。逆にここからあの鍵で元の家に戻るのってできないんじゃ)




<なかなかに鋭いね、でも大丈夫だよ>




「!?ジル!俺の心が読めるのか!!」



口には出していなかったはずだが、さも当然のようにカインの思考を読み返答するジルに飛び上がる。




<言ったろう?インヘリット・ルームは君の内にあるもの。一心同体さ。それに周りから見たら君は一人でぶつぶつ言っているやばい奴だって思われるからね。それはそれで困るだろう?まぁ安心してよ。口では説明できないけどうまいことプライバシーは保護できるから!>




(なんだ、先に言ってくれよ!それにプライバシーをこの状態でどうやって保護・・・あぁーだめだ、なんかむず痒い」




試しに脳内での会話というやつをやってみたカインだったが、言葉を選んで口に出す会話とは違い、言葉を浮かべたときにはすでに相手に伝わっているという変な感覚に気味悪さを覚えたカインは、途中であきらめてしまった。



「それよりジル、教えてくれよ。どうやって元の場所へ戻ればいい?」



<簡単さ、同じ鍵を使えばいい。鍵は使った扉の場所を覚えている。1往復できるようにね。ただ一度あの家に戻ったら鍵の記憶はリセットするから気を付けなよ>




「なるほどねぇ」



ポケットにしまったあのカギを今一度扉へ差し込みまわす。扉を開けるとそこはいつもの家へと繋がっていた。



家へと入り、もう一度鍵を使って接続する。今度は扉を開けたままストッパーをかけ、閉まらないよう固定したのちカインは腕まくりをする。





「こんなに楽な引っ越しもないよな。さて、それじゃ暗くなる前に終わらせるかぁ!」

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