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トモダチ
しおりを挟む僕が″僕″を捨てたあの日から二週間が経った。
二週間という時が経っても友達という肩書きの為に犯した罪の罪悪感、今まで見せることの無かった拓のあの表情は忘れることが出来なかった。
窓の外の景色、楽しげに笑うクラスメイト達、いつもと変わらない日常の中で僕は一人ぽつんとあの日の空間のまま取り残されている。
あれから僕達は色んな場所で盗みを犯すようになった。
駄菓子屋はもちろんコンビニ、本屋、人の家の野菜などと数々の物を盗んできた。
家に帰れば父さんにはサッカーをしてきた、とあれこれ誤魔化すばかり。
嘘をつかない為に友達を作ったのにまた嘘をついてしまった。
こんな嘘でごまかす生活は早く辞めたいと思いながらも″トモダチ″という肩書きの為に彼らに自分の意見を言うことはもちろん出来ず、言われるがままに拓達と共に罪を犯した。
本当にこれでいいのかな……。これが友達と言えるのだろうか。
そんな疑問を持ちながらも僕は今も拓達と一緒にいる。
「小鳥遊、今日もやるよな?」
「う、うん」
自分の席に座る僕を囲むようにして拓達はいつものテンションで話しかけてくる。
にっかりと笑う拓の表情にはあの日の殺気じみた表情を全く思わせないほどの優しさがあった。
きっと周りのクラスメイト達は今の彼らを見て″泥棒している悪い奴ら″なんて決して思わないだろう。
僕だって思いたくない。
″いつも元気な三人組″が放課後になるとただの″悪人″になる。
それはこの三人に言えることだけじゃないのかもしれない。
生徒想いの先生、友達と笑顔で楽しそうに話すクラスメイト。
僕が見た一部分だけを切り取ったらいい人達ばかりなのかもしれないけど、僕が見てない所で何をして、何を思っているのかは分からない。
今の拓達みたいに。
誰しもが裏を持って、裏を隠して生きている。
でないと周りと合わせられないから。
日本人は自分と同じものを好む。反対に自分と違うものは嫌われる。
自分が周りと同等だと再確認することによって自分はみんなの仲間、みんなと同じなんだと自分を正当化しているんだ。
拓達はそれを″盗み″というやり方で″トモダチ″だと再確認している。
僕はそれをすんなりと受け入れてしまった。その薄っぺらい肩書きの為に。
いったいトモダチって何なんだろう。
僕にはそれを教えてくれる人がいなかった——。
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