思い出した

春夏

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玄関から違和感があった。壮の靴がない。いつも2足を履き回していた。何度言ってもシューズボックスに入れずに「邪魔なんだよ」「あ、また忘れてた」って笑ってごまかして。クローゼットを開ければ、違和感は確信に変わる。壮の服がない。今年の誕生日に俺が贈った紺のジャケット。壮に似合う細身のパンツ。パジャマ代わりのスゥエット。壮の服がない。

甘えることが苦手な壮が俺に何かを伝えたいとき、いつだってキッチンに置かれていた手紙。それはめったにないことだったけれど、欲しい服の雑誌の切り抜きだったり、”今夜したい”なんておねだりだったり…。そのことに気がついて弾かれたようにキッチンに向かう。そこに残されていたのは『今までありがとう。大好きでした。さようなら。お元気で』とだけ書かれた別れの手紙だった。

「シン、起きろ。仕事だぞ」…あのまま寝ちまったのか…鍵を預けてあるマネージャーに起こされる。「なんでこんなとこで寝てんだ?撮影に遅れる。さっさと顔を洗え」俺が握りしめているものに気づいたマネージャーが「…あぁ…」と呟く。「なんだよ」「いや、なんでもない」「…壮が!何か知ってんだろ!言えよ!」「……彼は身を引いたんだよ」涙が溢れる。「なんで!なんでだよ!」「シン、仕事だ」「なんでだよ…」
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