確率は100

８. ヒカリの魔法

確認しよう

「今夜、何か用事はあるかい？」「とくに無いですけど…」「ちょうどひとつ天還の儀が予定されている。簡単にいえばお葬式だね。天寿を全うした宿屋のおかみさん。そこで歌ってみないか」「え…できるかな…」「大丈夫。ご主人は早く亡くなったけれど、お子さんたちとの仲が良くて、堅実な経営の気分のいい宿をやっていてね、明るくて元気なおばあさんだったから、辛いことはないと思うよ。浄化の旅に出ていきなり本番は怖いだろう」「…わかりました。やってみます。シキくん、一緒にいて」「おう、側に居るよ」

その夜。「あのね、シキくん、俺お葬式はじめてなんだ」「せやろな。ヒカリは若いうちやったから…。俺は何度かあるわ」参列者から少し離れて式を見守る。泣いとる人もおるな、息子さんやろか。ふとヒカリの雰囲気が変わった気がして顔を覗き込めば虚ろな目。「ヒカリ？」ヒカリの目は何も見ていない。トランス状態？「ヒカリ！」ヒカリの口から歌がこぼれ出す。単語ではなく、あ、とか、る、とかで刻まれる哀切なメロディ。あぁ、自分を置いて逝ってもうたご主人への歌や。言葉がなくても伝わる愛を乞う歌。何かがおばあさんの体を包み込む。「…父さん!?」息子さんにも分かったようだ。お迎えが来たで。淡い光が天へ還っていく。

夢から覚めたようなフワフワした気分。いかん、ヒカリは?!ヒカリを見れば泣いとった。「ヒカリ!!大丈夫か?!」「…シキくん…ん…大丈夫…」「泣いとるやんか！」「…違うよ、なんでかわかんないけど、嬉しくなっちゃって…」「あの人は早く迎えに来て欲しかったのだろうね」いつの間にか司祭さんが後ろに立っとった。「ヒカリ君、無理をさせたね。明日また来なさい。今日はもう休んだほうがいい」司祭さんが俺に目で合図をくれる。！魔力！ヒカリの体が震えとる。ヒカリを抱きかかえ家路を急いだ。