上 下
76 / 111
8. 初めての朝

8-6 俺はお前のモンや

しおりを挟む
side ヒカリ

父さんとシキくんが話している間に俺はいつもの帽子を深く被り直した。誰にも見られちゃいけない。俺はシキくんの隣にいてはいけない。…泣くな、シキくんに最後まで迷惑をかけるな。車が動き出しても俺もシキくんも何も言わなかった。

「…ヒカリ、着いたで。起きて」「……俺、寝ちゃった…?ごめんなさい」「何を言うとる。かまわんよ」「…ここどこ…海…?」夕暮れの日射しに波の音。「せやで。海、俺と行こ言うたやろ」シキくんに手を取られて車を降りる。違う、この手は俺を支えるためのものじゃない。思わず引こうとした手を強い力で拒まれる。「なんで!」「ヒカリ、ちゃんと話がしたいねん」「…やだ…シキくんもう決めちゃったんでしょ!」「せや。もう決めてもうた」「嫌だ!離して!離せよ!」「もう決めてん。絶対に離さん。もうヒカリを離さん」…え…「だからちゃんと話をしよう」

海に降りる階段に2人並んで座る。薄暗い砂浜にはもう誰もいない。「すまんかった。こないに痩せて…俺のせいやろ」俺は俯いたまま返事ができない。「ヒカリが俺に会いたがってるのはわかっててん。俺も会いたかってんよ」「…ウソだ…」「ウソやない!」シキくんが怒鳴るように言う。「…だって、じゃあなんで…」「ヒカリに会うてもうたら…閉じ込めてまうと思ってん。ヒカリから全てを奪ってまいそうで…そんな自分が怖くて」「俺は…俺、シキくんに嫌われたと思って、だから…シキくんにさよならしなくちゃ、ってそう思って…」「嫌いになんてなるわけないやろ。でもそう思わせたのは俺や。ヒカリのことを考えてるつもりで…それがヒカリを苦しめとるなんて」シキくんが俺の頬を撫でる。「ヒカリにこんな顔させてまうなんて、俺がアホウやった」…シキくんの手。大きくてあったかくて優しい手。「…俺、さよならしなくていい?シキくんのこと、好きって言っていい…?」「何度でも言うわ。俺はお前のモンや」夕闇がキスを隠してくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

確率は100

春夏
BL
【完結しました】【続編公開中】 現代日本で知り合った2人が異世界で再会してイチャラブしながら冒険を楽しむお話。再会は6章。1話は短めです。Rは3章の後半から、6章からは固定カプ。※つけてます。5話くらいずつアップします。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...