運命の相手 〜 確率は100 if story 〜

7. ＣＭ

7-10 初めての生放送

side 高橋

「俺たちの腕にかかってんだよ」平野が言う。そう、〈無口でミステリアスなhikari〉を〈恥ずかしがり屋で可愛いhikari〉にできるか、それとも〈顔は綺麗なのに馬鹿〉にしてしまうのか。今度の新曲の告知だから、まずはあの近寄れないほどの美しい映像がインサートされる。撮影の裏話なんかが聞かれることになっている。世間ではマニキュアをされている方が光理君の指だと思われているが、今日、実は塗っている方が光理君だとバラすことになっているのだ。さすがの光理君も広瀬さんの話なんかしてはいけないことくらいわかってるはずだが、テンパったら何を言い出すかわからない。

「今朝はこちらの御三方に来ていただきました」「おはようございます。hikariの保護者Ａ高橋でーす」「同じくＢ平野です。そして」「…あの、えっと、hikariです。よろしくお願いします」よし、ちゃんと言えてるぞ。「hikariさん、ＣＭ見ましたよ。ほんと、綺麗なお顔ですねえ」褒められてたちまち赤く染まる頬。「マジ天使」思わず口に出てしまう。「やっぱり一緒にいらっしゃるお２人からみても」「ええ、可愛いですね」「デビューされて半年ですが、今日が初めての生放送だとか」「そうなんです。人前が恥ずかしいんだよな」コクンと頷く。「あらあら…本当に可愛らしいですね。そんなhikariさんですが、バク転とかお出来になるんですよね。こちら」画面がＭＶに切り替わる。平野がため息をつく。わかるよ、なんて気の張る仕事。

「カッコいいですねえ！びっくりしました」ナイスな振り。「他にも驚かすことがあるんですよ。な、hikari」広瀬さんの中指に光理君がマニキュアを塗るところが映し出される。光理君がカメラに向かって手を開く。「あの…実は…えっと、塗っている方が俺の手なんです」「まあ！私てっきり塗られている方の手だと思ってました」「でしょう？僕らもきっと皆さん勘違いなさると思ってました」「意外と男らしいんだよな」平野に言われてエヘヘと笑う。「マニキュアとかお化粧とか、初めてでらしたとか」「はい。だから…あの、弟の手で練習して…撮影のとき…うまくできてよかったです」よし、上出来。これ以上聞くなよ。「塗られているのも男性で？」頼む！「はい。あの…か…失敗しないように…緊張しました」…か、のあとは、っこよくて、だったよな…。あぶねー。

「このＣＭのバックに使われているのが新曲ですよね」「はい。カップリングはラップです。僕らもhikariにこんな早口ができるなんて驚きました。皆さん、楽しみにしていてくださいね」「まあ！ＳＮＳなんかでは癒やしの歌声なんて言われてらっしゃるhikariさんがラップ！ぜひ聴かせていただきます。今日はありがとうございました」光理君が深々と頭を下げて放送が終わった。

疲れた…。「よかった…」平野とハイタッチ。ＳＮＳのトレンドに #マジ天使 #高橋心の声 #保護者 が上がってるなんてことも知らず俺たちは笑い合った。