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夜明けの幻想曲 1章 黄金蝶の予言者
1 幸福の王子
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第一部 夜明けの幻想曲
〈序章 幸福の王子〉
円形の壁を囲むように据えられた燭台に灯った火だけが光源となるほの暗い一室。
部屋に置かれた数少ない調度品はその全てが一目で高級品だと分かる程の質の良さ。施された彫刻も美しい。
部屋の中央には、天蓋付きの寝台。薄橙の敷布の上に腰かけた人影は、ページを捲るかすかな音だけを響かせて本を読んでいた。それ以外に発せられる音が無いためか、人形が本を読んでいるかのような錯覚さえする。癖なく流れる髪に隠れて人影の表情は伺えない。
そんな様子を見守っている人間が、ふたり。
人影の護衛役も兼ねた年若い侍女に、顔立ちに幼さが残る少年が声をかける。
「何日窓を開けていないのですか」
この部屋のひどく淀んだ空気に対する質問だった。この部屋に取り付けられた窓は一つしかない。それも、人が手を伸ばしたり飛び跳ねたりして届くような高さにはなく、一般的な成人男性の手のひらと同じくらいの大きさしかない小さな窓である。
「……6日ほどでしょうか。私も進言してはいるのですが、姫様が望まないので。あの方の望みは、私にとっては絶対ですから」
「……そう、ですか」
「殿下が心配なさるのもわかります。貴方はとてもお優しい方ですから。けれど」
侍女ははるかに目上の存在へ力強い視線を向ける。少年は臆することなく、それを受け止めた。
「陛下は貴方が次期王になることを望んでいらっしゃいます。私もまた、それを望む一人です。今の殿下にはその力がないとしても、いつかきっと、姫様を解放してくださると信じていますから」
少年は静かに目を伏せた。
「さあ、お時間でございます。またここへいらしてください」
返事をしないままの少年、侍女はそう締めくくる。
少年は顔を上げ、人影へと口を開いた。少し、力なく寂し気な口調で。
「姉さん、また来るから」
侍女に連れられて少年が出ていく。パタン、と扉が閉じられた後には必ず鍵がかけられる音がする。
本を捲る手を止めた人影は重たそうに首を動かしてもう開かぬ扉へと忌々し気な視線を送った。
「さようなら、幸福の王子様」
久遠のプロメッサ 夜明けの幻想曲
〈序章 幸福の王子〉
円形の壁を囲むように据えられた燭台に灯った火だけが光源となるほの暗い一室。
部屋に置かれた数少ない調度品はその全てが一目で高級品だと分かる程の質の良さ。施された彫刻も美しい。
部屋の中央には、天蓋付きの寝台。薄橙の敷布の上に腰かけた人影は、ページを捲るかすかな音だけを響かせて本を読んでいた。それ以外に発せられる音が無いためか、人形が本を読んでいるかのような錯覚さえする。癖なく流れる髪に隠れて人影の表情は伺えない。
そんな様子を見守っている人間が、ふたり。
人影の護衛役も兼ねた年若い侍女に、顔立ちに幼さが残る少年が声をかける。
「何日窓を開けていないのですか」
この部屋のひどく淀んだ空気に対する質問だった。この部屋に取り付けられた窓は一つしかない。それも、人が手を伸ばしたり飛び跳ねたりして届くような高さにはなく、一般的な成人男性の手のひらと同じくらいの大きさしかない小さな窓である。
「……6日ほどでしょうか。私も進言してはいるのですが、姫様が望まないので。あの方の望みは、私にとっては絶対ですから」
「……そう、ですか」
「殿下が心配なさるのもわかります。貴方はとてもお優しい方ですから。けれど」
侍女ははるかに目上の存在へ力強い視線を向ける。少年は臆することなく、それを受け止めた。
「陛下は貴方が次期王になることを望んでいらっしゃいます。私もまた、それを望む一人です。今の殿下にはその力がないとしても、いつかきっと、姫様を解放してくださると信じていますから」
少年は静かに目を伏せた。
「さあ、お時間でございます。またここへいらしてください」
返事をしないままの少年、侍女はそう締めくくる。
少年は顔を上げ、人影へと口を開いた。少し、力なく寂し気な口調で。
「姉さん、また来るから」
侍女に連れられて少年が出ていく。パタン、と扉が閉じられた後には必ず鍵がかけられる音がする。
本を捲る手を止めた人影は重たそうに首を動かしてもう開かぬ扉へと忌々し気な視線を送った。
「さようなら、幸福の王子様」
久遠のプロメッサ 夜明けの幻想曲
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