お前の妄想で、俺ってどうなってるの?

パチェル

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8 吸血鬼コンテンツ。

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 人間なんてたくさんいる食料だから、別にどうなろうが知ったこっちゃなくて。
 でも、おいしい自分の食料は大切だから助けちゃうとかね。




 まぁ、解釈はいろいろあるんだろうけど、俺はその吸血鬼のコンテンツが好き。


 だから、こいつのこの、低クオリティの吸血鬼は見てて腹立つ。
 ゾンビ喫茶で納得のいく吸血鬼ができずに断念した俺に、喧嘩売ってんのかって気持ちになって。


「へったくそが。触ってんじゃねーよ。お前、そんなんで人の欲望満足させようとか、百万年早いんじゃね? な、ミイラのおにーさん?」


 首元から垂れているミイラ男の包帯を引っ張て、ここはマジの包帯なんだと思うとおかしくって笑みがこぼれた。


 ミイラ男は顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせた。



 あ、やっちゃった。
 俺はまたもやってしまった。

 こういう絡みはぼーっとしていたらいつの間にか何事かが起きて進んでいて、誰かが止めに入ってくれるのだが。
 たまーに、言っちゃいかんことを言ってしまうみたいで、相手が顔を真っ赤にさせてブチギレることがある。

 ままある? 多々ある?


 それを事あるごとに諫めて、取りなしてくれる、周囲の人々に俺はいつも感謝申し上げている。
 俺にはない高度な技術を持って、どうしてキレているのかわからない人々から、俺を引き離して。

 たぶん、いつも助けてくれているのだと思う。
 家族、友達、先生、同僚。


 俺って、運が良すぎだと思うわ。
 こんないい人ばっかがいて、いいのだろうか。


 健全な男子である俺は、とりとめて秀でている能力もない、むしろ迷惑をかけている部類だ。
 俺の周囲の人たちは、みんなすごくできた人たちばかりで、すごくステキなかっこよい人たちばかりなのだ。


 神様、俺の前世はきっと何かとてつもなくいいことをやらかしたのでしょうか。
 俺は、現世では何もしていませんが、今後は迷惑をかけないようにしっかりしますから。

 来世の俺をよろしくお願いいたします。
 といつも思うのだが、うまくいかない。



 激高したミイラ男に体を押し付けられて気付けば細い路地の壁に押し付けられて、くっさい息を顔面にはぁはぁとかけられている。


 吸血鬼の方もはぁはぁ息が荒いので、たぶん、ミイラ男が侮辱されて怒っているのだろう。
 仲のいい友達なんだろうか。

 だったら、こういう迷惑行為を止めてやれんものかねと思い、ふと気づく。




 あれ? 俺、今、地味にピンチじゃね?























 
「もうっ、離せって! 俺は今からっ! 友達と待ち合わせだっつーの」

 ミイラ男もどきと吸血鬼もどきの酔っ払いがいきりたった下半身を擦り付けてきて、鳥肌がぶわわぁと全身に立つ。
 首筋にガリっと噛みつかれ、耳元でいいから黙れよと言われ、挙句の果てには腹を一発殴られた。



 いやいやいや、きもいし怖い。
 さっきまで大きい声を出そうとしていたのに、突然喉の奥で喉チンコが詰まった感じになる。


 一気に水分がなくなった感じ?


 脚に力が入らなくて、壁伝いにずるずるとしゃがみこんでしまう。
 ミイラ男も一緒にしゃがみこんできてスーツのネクタイを取られる。


 耳元ではカチャカチャとベルトを外す音。




 でも、頭のどこかでは冷静に、これはもはや痴漢じゃなくて、暴行の域に達してるよな? と俺が話している。


 こういう性的暴行って、どこまでが正当防衛になるんだろうか?
 目には目を? 歯には歯を?
 だったらこういう場合は、性的暴行し返さなくてはいけないのか?



 それは死んでも嫌だな。



 でも、俺の俺くんは被害を被るわけで、俺のお尻くんも被害を被るわけで。
 というか、魂の殺人と言うわけだから。



 なる? 正当防衛? 







 say、ご一緒に? せいとうぼーえい?


 say、ご一緒に? 







 チャックを下ろす音が聞こえる。俺の? えせ吸血鬼の? どっちも?



 手のひらを強く握った。





 目の前にいたミイラ男もどきが飛んで、細い路地のごみ箱に突っ込んだ。と思ったら、吸血鬼もどきが反対側の壁でギリギリと絞められて、顔を真っ青にしている。


 無音。



 いや、ハロウィーンのざわめきは聞こえる。
 けど、この場所で起きていることに対しては無音。
 ゴミ箱にきれいに突っ込んだから、がぼっくらいの音。
 一瞬だけぐえって声がしたけど。



「……ささ、げん?」


 目の前で壁に吸血鬼もどきを押し付けている佐々玄はこちらをちらりと見て、また、前を向く。

 そしてさらに吸血鬼もどきを締め上げていく。
 足が宙に浮いちゃっていやしませんかね? 佐々玄之さんや。
 それも壁から離して宙に浮かせているから音がしない。満月が佐々玄を照らす。


「……ちょっと待ってて」
「どれくらい?」

「あと3分」
「それは、正当防衛には……」
「なるだろ」

「いやいやいや、ならない気がものすっごいするけども。気分的には止められそうにもない」



 佐々玄がこっちを見ない。
 俺よりちっさくて色が白くって、華奢な手をしていた佐々玄はもういない。









 白い月を背中に背負って、佐々玄が俺を見ない。

 








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