お前の妄想で、俺ってどうなってるの?

パチェル

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「背中の上らへんだから、擦れる危険は少ないけど、水ぶくれがつぶれちまってる。痛くなったり臭くなったら絶対病院行けよ。臭くなったら皮膚死んでるからな。痛くなったら神経死んでるからな」
「お、おう。わかった」

 何故か驚いたように俺の方を見る。なんか失敬な事を考えていそうな表情だったが、俺の周りの人間は結構こういう顔を俺に向けてするのでスルーする。


「一人が心細かったら俺も付いて行ってやるし」
「え?」
「そりゃ、恥ずいよな。その、プレイでそういう風になったんだろ?」
「え?」
「でもな。怪我をするのは違うだろ? 自分で病院もいけないんだったら無責任だ。大体ろうそくはどういうの使ったんだよ?」
「ろうそく?」
「もう、とぼけんなよ。健全な男子高校生。性欲が高まっちゃうのはわかってる。お前さんのことは全てお見通しだ。で、あーいうプレイをしたいなら」


 それから昼ご飯ができるまで、そういうグッズを売っているお店や、より選りの動画を見せさせた。
 本人はずっと驚きと言う顔をしていてちょっと面白かった。


 昼ご飯は父親と俺と彼の三人で食べて、ニュースを見たりして、再び部屋へ。


「お前もお前の恋人も文明の利器を使い給え」
「恋人ってわけじゃ……」

 それを聞いて俺は両腕をぐわっと天井に広げて掲げた。神よ!

「はぁ? ふとくてい! たすうだと! 行きずりの恋だと?」
「いや、そもそも恋とかじゃなくてダナ」
「はぁ? 性欲のけだものだったのかお前」

 俺が自分の体を抱きしめるようにそう言えば。

「やめろよ。親父さんに聞こえちゃうだろう」
「大丈夫。うちの家の連中は俺のことを健全な男子高校生と思ってるから」
「だから、俺もそうみられるのが嫌だっつってんの」
「は? お前? いや、お前はどう見ても」


 上から下までじろじろ見る。


「ふっつ―の男子高校生だろう。安心しろ。俺も普通だけど、お前の方が絶対普通だ。世の中には性欲が湧かない人もいるんだぞ。性欲が湧くのが普通とか思ってるくせに、性欲に対して関心バリバリだと引かれるのって不思議だよな。そんな俺はきっと、人一倍性欲が強いと思います。なんせ人の性癖が気になって大人の階段を数段上った男だぞ、俺は。長所の欄には書けないけど」
「ぷっ、何の自慢だよ」
「お前はどっからどう見ても、ただの高校生のガキだ。安心しろ。性欲もりもりには見えない」
「でも、性癖は」
「あのな、お互いの同意がしっかりあって性感を高めあうのの何がいけないんだよ。お互いを大事に思い会えてたらいいんじゃないの?と言うことで今回の行きずりの相手には二度と会うな」
「お前の話は飛ぶね。怒涛の勢いでついていけないんだけど」
「今回の行きずりの相手は、最低野郎だ。こうなったお前尾をほっぽって、机で持たれるように寝かせることが想像できなくて、病院にも一緒についてきて、恥をかいてくれない、それはもはやただの自己満足欲求を満たしたいだけの変態だから。会うって言うんなら俺が乗り込むぞ、そこで側転をお見舞いしてやる」
「なんで、そくてん、クスクス」

「じゃあ、勉強するか」
「この流れで?」

「Say、じゅけんせーい!」
「だから言わないって」


 と言った後に階下から「じゅけんせーい」と聞こえてきた。
 彼は爆笑して、ツボに入ったのか苦しそうに唸っていた。
 それを横目に俺は一人黙々勉強し始めたのだった。


 いつの間にか父親がおやつと飲み物の補充をしてくれていたみたいで、俺の手にはイカそうめんが握られていた。

 それを不思議に思い見つめていると隣で勉強していた彼がこちらを見る。
 俺は驚いた顔でイカそうめんを指さした。


「これ、ただのほっそいイカ。こんなもの健全な男子高校生の勉強のお供に持ってくるかね」


 彼は訝しげな顔をして、半分以上減っているイカそうめんの容器を見た。
 俺は「遺憾の意である」と言いつつ、10本一気に掴んで口に含んでごふごふしてやった。


「あのさ、おれさ」


 無心にイカそうめんを見つめていた彼がそのまま声を出した。


「おう」
「おれさ、吸血鬼なんだよね」













 と言うような縁もあって、彼とはなんやかんやで大学でも同級生になった。
 今は大学3年生。俺はまたもや健全な男子大学生を謳歌しているというわけだ。


 そうそう、因みに。
 あの高校三年の冬のとある日から。
 毎年、彼は俺に一つ嘘をつくようになった。
 後で気付いたけど、あの日は彼の誕生日だったらしい。


 吸血鬼発言も後で、あれ嘘だよとケロリと言われて俺はかなりショックを受けた。


 俺の純真で、ピュアで清らかな、無垢で純白の真っ白もいい所の。初々しく清くナイーブな、天真爛漫な無邪気な天使である純情さをよくも!


 廊下で握り拳を床にたたきつけて、そういった俺を見下ろして、彼は爆笑していた。
 後で二人して、生活指導の先生に「授業中だ!」と怒られたのは決していい思い出ではない。









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