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第4章
恋とはどんなものなのか、よく知らない18
しおりを挟む物珍しそうにケーティが人型の手を取って「ほぅ」と息を吐き眺めている。
「この感触本当に人みたいだね。さっきの子は毛並みが本物に近かったし。一体どういう仕組みなのかなあ」
玄関で人型が出迎えてからこの調子だ。仕方がない気もするが。
セイリオスはそのまま、状況を説明すると人型は頷いて、課長の手を取り居間へと案内した。
「あー、本当セイリオス君の家は楽しいね。ここに住めるなんて羨ましいなあ」
人型が口パクでさようでございますかというと、その口を大きく開けさせ喉の奥をえぐるように見ている。
「うーん、この個体だけ声が出ないんだよね? 口が動くのに、おかしいよね。あの丸っこいのは音が出るのにね」
「恐らくどこかの部品がないのかと、ほとんど人と同じ形をしていて、特殊なのは丸いののほうが特殊かと。構造が全然違いますので」
机の上におもてなし用のお茶菓子とお茶を出す。
あの後、ケーティがダーナーの家で朝食を取り、セイリオスの家に場所を移動することにした。
ヒカリの表面に呪術の痕跡が見られないので長丁場になること、また、体調の変化があった時に対応できるこの家の方が安心して解呪できるとのことだった。
それに、この家はそれなりにセキュリティがしっかりしていて、秘密を確実に守り、呪術のかからない味方がいる。
三体も。
さらにほかの用事もこなしてくれ、なおかつ、ケーティが飽きない相手がいたほうがいいだろう。
そう言ったおもてなしもしてくれる。
ということでヒカリを抱っこしながら家に帰って来たのだ。
勝手に家に帰ってきていいのだろうかとは思ったのだが、セイリオスのシャツをぎゅっと握る手を見てそんな迷いは置いておくことにした。
「じゃあ、セイリオス君はスピカ君が帰ってくるまで基礎的な呪語を教えよう。魔道具に使う言葉は?」
「そちらは一通り」
そう答えると、愚問だったかなと微笑まれた。セイリオスに魔道具のことを教えたのはケーティである。聞くまでもなくセイリオスの物覚えの良さには驚いた。
だから今回も何も心配はしていない。
「じゃあ、今日は呪いに使う術式について見ていこうね。魔道具で使う言葉はほとんどラクシード語と同じだから置いておくとして、呪術全体で使う言語はこう言った簡単な形のものが5種類あるんだ。これらにそれぞれ50くらいかけたのが基礎的な言語。これを組み合わせて言葉を紡いでいくの。で、さらに強力かつ短縮するにはこう言った複雑な形の言語を使うといいんだ。上級の呪術者ならこっちばかりを使っていたりするね」
と突然呪術についての講義が始まり、すでに用意していたペンで紙に書きとり始めた。
魔道具に使う呪語はラクシード語と似ていると言えば似ているし、覚えるときに置き換えておぼえやすい。
しかしそれはあくまでも似ているというだけで、同じではない。
恐らく語源が同じなのだろうと思う。
言葉を使って唱える呪文も同じようなもので、覚えようと思えば覚えられる。
しかし、人体にかける呪いは恐ろしく難解な言葉である。
ラクシード語とは似ても似つかない。
まったくもって別語源と考えたほうがいいだろう。
ケーティが本をセイリオスに差し出した。ちょっと軽くパラパラ目を通してと言われて何回かパラパラめくって一通り中身を見た。今度は丸型をペタペタ触って目をらんらんと輝かせていたケーティはこちらを見る。
「あ、おわった? じゃあ、次はねー、使えるものを有効活用していかないかなとおもってね?……」
その後、ケーティが言ったことにセイリオスは珍しくできないと伝えた。
ケーティは少し心配そうな顔をして、セイリオスに一つ近寄る。
セイリオスの懸念していることをよくわかるよと頷いて、しかし、できないという返事は聞いてもらえないようだった。ちゃんと準備もしてきたよと笑顔で続ける。
「大丈夫、大丈夫。僕ってばちょーっとばかし天才だからさ。さあさあ、さっそく服を脱いで? 実践といこうね」
本日も仕事がある人々が出勤し始めるころ、スピカがすごいスピードで帰って来た。
帰ってきて思ったのは、セイリオスが屍になっている気がする。
いつものソファの上でぐったりしていた。
一呼吸ついたところでケーティが立ち上がる。
「じゃ、さっそく実技といこう。この家で一番大きいベッドのある部屋に行こうね」
ということでまだ起きないヒカリを運び、物珍しそうにきょろきょろしている自分の上司とともに自分の部屋に入るという不思議な感覚にセイリオスは陥った。
ベッドの真ん中にヒカリを寝かせる。
服は着せたままでいいというので、そのまま。
「後はいつものスキャンを始めてもらっていいんだけど、まずはセイリオス君、どう? できそう?」
ヒカリと窓際の間にスピカが座って、ヒカリを挟んでセイリオスが机に近い所に座る。いつもと同じ配置だが、ヒカリの足元にはちょこんと座ったケーティがパチパチと瞬きをして、セイリオスを見ている。
「大丈夫。暴走しかけたら、強制終了する呪術掛けたでしょ? ほら、落ち着いて。いつもの君でいいんだからさ」
強制終了? 呪術? と置いてけぼりのスピカにセイリオスが声をかける。
「説明は後でするから、スピカ、俺と目を合わせてくれ」
「あ?」
スピカと目が合った瞬間、セイリオスは時が止まったかのように静止した。
そして、目頭を押さえて少しうつむく。
「どう? できそう?」
少しうめいているセイリオスにできそうとかと訊ねつつ、全然心配そうにならないケーティをスピカが横目で見る。そして軽くスピカに説明をした。
要は、セイリオスは今、魔力を使用しているのだそうだ。
ちらりと聞いたことがあるセイリオスの境遇から、あまり詳しく突っ込んでこなかったのでセイリオスが異能の持ち主だとは知らなかった。
どうやら相手の目をもつことができるらしい。
確かそれは隣の国のある貴族の異能だったと、ぼんやり思いながらも、さして重要でない情報は排除していく。
そのものが過去を思い浮かべればそれも見ることができるため、裁判に使われていたと記憶を喚起した。
「でも、それをどうやって?」
「あれはね、現在進行形も見れるんだよね。つまり、スピカ君がスキャンしたそのものをセイリオス君が感じて、呪語を探してもらうの」
セイリオスは暴走してはいけないから、拒否したらしいが解決策があるらしい。
因みにどうしてケーティがそこまで詳しいかと聞かれれば、セイリオスが移民になるための信用印を押した一人はケーティである。
ダーナーはすごく嫌そうな顔をしていたのだが、セイリオスは公爵家が押す信用印のもつ威力の大きさとリスクをしっかり分かったうえで、むしろ頼んできたセイリオスがますます気に入って、魔道具関連課に掻っ攫った。
それからダーナーの語尾が「こらあ」とか「ごらあ」になったのが面白いと思っているのはケーティだけの秘密である。
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