確かに俺は文官だが

パチェル

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第4章

忙しいのは変わらない17

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 セイリオスとスピカとヒカリの生活に新しいルーティーンが加わった。



 ヒカリが一緒に寝ているときはそのまま任せてみる。
 ヒカリが一人部屋で寝ているときは動物型が知らせにくる。
 それを二人で相談して片方が部屋へ向かい伺う。
 片方は準備をしに行く。



 ヒカリがどこで寝るかはその日次第なのでそういったことになる。



 スピカが誘うか、セイリオスが誘うか、動物型が誘うか、ヒカリがさっさと寝てしまうか。
 まぁ、本当にその日によるのだが。



 何のルーティーンかって?


 ある意味これも訓練ではあるのだが。
 ヒカリの体が自然に反応するようになってきたということで、おめでたいことではある。


 例えばヒカリが一人で処理をしているとき。
 セイリオスはそろそろかなと静まり返ったヒカリの部屋をノックする。



 で、声をかける。

「ヒカリ? 眠たかったら返事しなくていいぞ。……今日はできそうか?」


 返事がないけど衣擦れの音がするのでもう一声かける。

「ヒカリ? 射精できたか? もしくは勃起おさまったか?」
「ふぅ、うー。えっと、もうちょっと?」
「……入ってもいいか?」
「うん」
  


 言わずもがな。ヒカリの勃起のことである。
 一人で処理できたらいいのだが、なかなかできないらしく、いつも一人で挑んでみて大抵できずにいる。
 出来ずにそのまま寝落ちしたのかというときは、朝起きた時の顔でなんとなくわかる。


 一緒に寝ているときはこちらが気付けるのだが、ヒカリが一人で部屋で寝た時は気付けない。
 だから一人で部屋にいるときは動物型が気づいて知らせてくれるという流れになった。



 かといって、動物型が知らせにくる時は結構切羽詰まった状態で、もっと早く知らせてほしいなと思うのだがそうもいかないかとため息。



 俺だって、スピカに「勃起したからぬいてくれないか」とかどんな顔して言えばいいのかわからない。
 子どもじゃないんだからと人に言われる言葉をヒカリはきっと自分に言っているのだろう。







 しかし、その日はちょっと違った。


 その日はスピカが珍しくセイリオスの部屋を訪ねていた。

 ヒカリの前では話辛いことだからとオヤスミを言ってヒカリが部屋に行くのを見送って、寝静まったかなという頃合いを狙ってやってきていたのだ。


 お前は俺の睡眠はどうでもいいと思っているのか。
 まぁ、起きてるから別にいいけど。



「じゃあ、一度実家に戻ってみるのか?」
「いや、それはあんまりしたくないんだけど。もう実家じゃないし」
「だが懐妊祝いだろう? 直に誘われたんだから行ってきた方がいいんじゃないか」
「直ではない。妹から手紙が来たってだけだ」
「でも来て欲しいから手紙を出してきたんじゃないのか」
「じゃなくて」


 なんてぼそぼそやっていたらノックの音がした。

 二人でびっくりしてちょっと間があく。
 ヒカリ関連かと思い立ち上がって声をかける。


「はい? 動物型か?」
「あ、ヒカリで、す。今、いい?」
「お、おう。いいぞ」


 扉を開けるとヒカリが所在投げに枕を前で両手に持って立っていた。
 そしてベッドの近くで座っているスピカを見る。


「あ、スピカもここにいたの?」
「おう。ちょっと明日の気になったことを聞こうと思って。どうかしたか?」


 ヒカリを部屋に入れて扉を閉める。
 背中に手を当てて、スピカが出した椅子の方へ誘導すると、こちらをちらちら、スピカをちらちら見て座った。


「なんか忘れ物? 言いたいことでもあった?」
「怖い夢でも見たか?」
「あのね、今時間、だいじょぶ?」


 スピカとちょっと目を合わせて頷く。
 ヒカリは下を向いて、ちょっとためらってまた上を向く。




 あのね、これ。




 膝の上に置いていた枕をぎゅっと縦に抱きしめて枕に顔をうずめる。

 脚と脚の間が多分「これ」。
 枕から目だけを上に向けてくぐもった声で言った。



「だすのてつだって、ほしいんだけど。いいですか?」



 ダスノテツダウ。を、ルーティーンのおかげで無事に変換できたセイリオスが動く。



「あぁ、いいぞ。じゃあ、こっち来るか」

 とセイリオスが指さすとヒカリがおずおずとベッドに乗ってきた。


「セイリオスとスピカ、仕事のハナシ、してたのに。ごめんなさい」
「いや、もう終わってたから」



 セイリオスよりだいぶ遅れてスピカが動き始めた。


 わかる。さっきのは攻撃力高めだったよな。




 この部屋にはヒカリの枕が置いてあるのでなんでかなとかは一瞬過ったけど。
 まさか恥ずかしくて隠してたからとは思わなかった。


 もしかして今まで言いに来なかったのもそういう事なのかもしれないな、と頭の片隅にメモしておく。


 確かにスピカが勃起したまま部屋尋ねに来たらちょっと……、かなり嫌だな。いや、スピカで想像するからダメなんだろうな。


 それに恥ずかしいだろうし。

 と心の中で頷いておく。



 セイリオスとスピカが準備を始めるとヒカリがパジャマのズボンを脱ぎながら言う。


「あのね、やってみたけど、むりそうだたから」
「今日も自分でやってみたのか。そうか」


 ヒカリはいつも全部服を脱ごうとするので、寒いから下だけ脱がせるようにした。
 汚れないように出そうになったら言ってくれ。
 と布を用意したら納得してくれたようで下だけ脱いでいる。


「なんとなく、いつもより、むりそうだたから。はやめにきた、んだ」
「ナイス判断。俺もいたから一回で2度おいしいだな」

「うーん、ことわざはむつかしい……」
「一つの石で2匹の鳥を落とすやつだ。一石二鳥な」
「あぁ、一石二鳥!」



 と先ほどからセリフだけ見ていたら、特になんてことない会話だ。
 スピカはたぶん、敢えてそうしているんだと思う。


 なんてことないんだっていう雰囲気を出そうとしているんだろう。



 だからセイリオスもそれに乗っかる。









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